蜜柑色の夏①
あれから、
わたしと羽瀬川かりんとの時間は途切れてしまった。
偶然ではあるが
わたしの誕生日が、わたしたちの別れの日になってしまった。
わたしが、
あのとき 放課後デートに出向いていたら
わたしたちは まだ恋人同士だったであろうか?
いずれにしろ、
あれから一週間が経ち、
わたしたちは一言も話をせず・・・
いや、目だけは・・・合わせていた。
彼女は わたしから視線を外さなかったが、
体力もなく 言葉も用意できない自分は
目でも会話することができず、何も伝えられない
伝わらないまま、わたしたちは夏休みを迎えた。
学生なら誰もが待ち望んだ 夏休みであるが、
その年の わたしの夏休みは違っていた。
わたしは 親からも不良の烙印を押されていた。
だから、夏休みの期間中は
親戚の蜜柑農家へ手伝いに行くことが
4月くらいから決まっていた。
蜜柑の収穫は秋であるので、
夏は さほど忙しくないのかな?
などと寝ぼけたことを言っていたら
とんでもない状況に閉口することになる。
ミカン畑の夏は、雑草との闘い。
そして、
その量も半端なモノではなかった。
わたしは、
飛行機で赴いた その地に
塀のない監獄を感じた。
その地で 新しい少女との出会いでもあれば
ドラマチックでロマンチックな時間が過ごせたかもしれないが
実際には 寝て食べて仕事して、と
自分自身 何も考える余裕がなく、ただ体力を消耗し
夏休みの貴重な日々をやり過ごしていくだけの
ほんと不毛な日々であった。
今考えると
特筆することなど何もない日々ではあったが、
収穫というか・・・ある出会いはあった。
親戚の家に居候というか、一緒に生活するのは
正直、まぁ居心地の良いものではない。
仕事、仕事の日々であれは無駄なことなど考えずに
日々をやり過ごすことができるのだが
たまに 雨天により休日をもらうことになってしまうと
途端にリズムを崩してしまう。
何をしたらいい?
見知らぬ土地で何処へ行けばいい?
そんなやり場のない時間を過ごす中、偶然にも
わたしは ある古道具屋へ導かれた。
その日は雨のため作業が無くなったのだが、
わたしは 傘を差しながら自問するように
この日々の意味を考えていた。
この日々は、わたしの人生に必要なモノなのか?
越えなければいけない試練のようなモノなのか?
恥ずかしくも自分のことだけを考えていた。
そんな中、雨が大雨に変わり、わたしは歩くのを止め
雨宿りをするかのように ある店の軒先に身を置いた。
雨は時折 風が交じり、
ババババッと大きな音を路面に叩きつけている。
わたしは その音を拒むように
耳をふさぎ、しゃがみ込んでしまった。
雨の音が なにか爆音のような
パンクロックサウンドのようでもあった。
パンクロック。
ブルーハーツ。
祐未子ちゃん。
ブルーハーツのCDを手渡してくれた、祐未子ちゃん。
彼女は、・・・・いま何をしてるだろう。
『 随分強く降ってきたね。 』
『 !? 』
不意に頭上から発せられた声に ドキッとした。
『 驚かしたら、ゴメンね。
でも、そこだと濡れるから ナカにでも入らないかい? 』
雨音の中でも はっきりと聞こえ、尚且つ
流暢な日本語を話す金髪女性が わたしを見下ろしていた。
『 今日は これから(雨が)もっと強くなるよ。 天気予報見なかったの? 』
雨宿りの道迷い、と最悪な自分に加え
わたしは、返す言葉が見つからず、
なんだか急に情けない気持ちになってきた。
『 まぁ、ナカに入んなさい。 取って食べたりしないからさ、ハハハ。 』
わたしの哀れな無反応とは 裏腹に優しくも豪快な声が
わたしの背中を優しく擦った。