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鬼怪神  作者: K1.M-Waki
43/50

山越え(10)

 朝日の中に、苔生した褐色の巨体が鎮座していた。


 神社の敷地の隅っこに置かれたそれ(・・)には、この社の成立ちや祀ってある神々について書かれていたのかも知れない。しかし、文字を彫り込んであったはずの石碑の面は、長い年月を経て、風雨によって削られ、群生した苔に隠されて、今では何を書いてあったのかさえ判別する術はない。

 それでも虫取り屋は、この巨大な石塊をじっと眺めていた。

 夢に出てきた邪鬼──巨鬼怒蘇(オオモノヌシ)の正体を知らんがため? それとも、鬼部氏(もののべし)の隠された延喜を求めてか?

 だが、鍔広の帽子の影から覗く彼の瞳は、相も変わらず腐った魚の眼のように淀んでいて、どこにも焦点を合わせていないように見えた。


──もしかしたら、彼の精神は遥か昔の神代の世界に飛んで行っているのかも知れない


 そんな空想を、見ている人に想起させるような、虫取り屋の佇まいだった。


「お待たせしました、虫取り屋さん」

 そんな彼に、可憐な花のような声がかけられた。

 東条(とうじょう)理沙(りさ)。鬼達に追われる立場の彼女は、神工知能アカシアの端末(ターミナルデバイス)である。虫取り屋(デバッガ)と同等以上の権限を持つ、上位プログラムだ。アカシック・レコードをホロメモリとして駆動する超次元演算知性体であるアカシアに直接アクセスして、様々なコマンドを実行できる権能を持つのだ。その中には、当然ながら『アカシック・レコードを書き換える能力(コマンド)』も含まれている。彼女を手にし、その能力を利用すれば、この宇宙──いや全ての世界を、思い通りに弄くり回す事が出来るのだ。まさしく神をも超えた、恐るべき超常能力である。

 虫取り屋は、そんな理沙から助けを請われ、護衛の任に就いたのだ。

「待ってくださいよぉ、理沙ちゃん。自分を置いて行くつもりですか?」

 少女の後ろから駆け寄ってきたのは、木村拓哉──いや、本名を鬼村(きむら)拓哉(たくや)と云う。濃紺のスーツをきちんと着こなし、眩しいくらいの白いシャツに、キッチリとネクタイを締めた彼は、皇宮護衛官(こうぐうごえいかん)である。警察庁の内部組織である皇宮警察本部に勤める鬼村の本来の仕事は、皇室を守護し、皇族の安全を生命をかけて護る事である。言わば、エリート中のエリート警官であった。

 しかし残念な事に、大柄な体躯の上に乗っているのは、四角い輪郭に極細の眉と目が描かれた、人の良さそうな笑顔であった。

 いざとなれば、素手で野生のイノシシを屠ることも、邪鬼の群れを巨大な鬼道の技で退けることも出来る偉丈夫だが、今の彼は「オレオレ詐欺」にも簡単に引っかかってしまいそうなほど、呑気でお人好しに見える。

「遅かったな……」

 彼を揶揄したのか、虫取り屋は振り向きもせずに呟くような声を発した。そんな事にも、鬼村はめげることはない。

「いやぁ、新しい背広が見つかったんで、着替えていたんですよ。どうです? 似合うでしょ」

 そう言う彼の着ている服には『ちゃんとした袖』が着いていた。さっきまではノースリーブだった。列車の中で鬼達と戦った時に、肩から先の袖が丸々破けて失われていたのだ。

「わたしがさっき部屋に戻ったら、新品の背広とシャツがハンガーに掛かって吊るされていたんです。びっくりしてしまいました」

 そう応える理沙も、どこか不思議そうな顔をしていた。

「きっと、いつも善良な自分の為に、神様がプレゼントしてくれたんですよ、きっと。皆さんも、日頃から善行を積むようにしなくてはなりませんよ」

 そんな不可思議な出来事に何の疑問を抱くことも無く、鬼村は新しいスーツを見せびらかせていた。

 そんな彼を尻目に、理沙は虫取り屋に近づくと、小声で話しかけた。

「あれって、虫取り屋さんが用意してくれたんですよね。今朝起きた時までは無かったんですから。それに、寸法だって、誂えたように鬼村さんにぴったり合ってるし」

 呪力結界で護られたこの神社には、三人しかいない。脳天気に喜んでいる鬼村を除けば、そんな事が出来るのは虫取り屋しかいない。

「そうなんですよね」

 理沙は、小さな声で重ねて訊いた。

「…………」

 しかし、答えは遂に得ることは叶わなかった。


──照れているのだろうか?


 もしかしたら虫取り屋は、自分のその好意を口実にして鬼村にベタベタと纏わり付かれるのが嫌だったのかも知れない。それでも、背広を新調しておいたのは、一宿一飯──いや、夕食と朝食付きだから一宿二飯か──の恩義に報いるためだったのかも知れない。


「では、拝殿でお参りでもして行くか」

 はしゃいでいる鬼村を無視して、虫取り屋がボソリと呟くような声を発した。

「はい。分かりました」

 理沙は、今度は大きな声で返事をした。

「鬼村さん、もう出発ですよぉー」

 彼女は後ろを振り向くと、庭の真ん中で様々なポーズをつけていた背広姿の大男を呼んだ。

「あ、はいはい。行きましょう行きましょう」

 そう呼ばれると、よく飼いならされた警察犬のように、彼はすぐさま理沙達のところにまでやってきた。

「…………」

 そんな鬼村の様子に何を思ったのか、虫取り屋は鍔広の帽子を被った頭を、ほんの少しだけ彼に向けた。ただそれだけだった。そして、何も語らず、<ザッザッ>と玉砂利を踏んで神社の正面──拝殿の方へ進んでいた。

 理沙と鬼村も後に続く。しばらく歩くと、黒いコートがフイと左手方向へと向きを変えた。

「あ、虫取り屋さん。お参りして行くんじゃなかったんですか?」

 彼の進んだ方向には、木製の鳥居があった。出口方向だ。拝殿へ行くなら、反対側──右に折れないとならない。

 少女が立ち止まって様子見をしていると、虫取り屋は石畳から少し外れた所にある手水舎に向かっていた。

「手と口をすすいで、清めるんだよ」

 理沙の後ろ、やや斜め上から野太い声が降ってきた。そのまま、逡巡していた彼女の脇を通って、彼も手水舎に向かった。

「あっ、あー。もうっ、待って下さいよ」

 置き去りにされた少女は、小走りで男達を追いかけた。背中のリュックが上下に元気よく揺れる。

「もう、一人だけ黙って先に行かないで下さい。意思の疎通(コミュニケーション)は大事なんですよ」

 二人に続いて水盤の前にまでやって来た理沙は、頬を膨らませていた。

 と、その目の前に唐突に柄杓が差し出される。

「あっ……」

 彼女が躊躇していると、

「……手を洗え」

 と、無感情な呟きが耳に入ってきた。彼女は、少しだけムッとしたものの、

「ありがとうございます」

 と言って、柄杓の下に両手を伸ばした。

 手に注がれたのは、凍えるような冬の冷水、ではなく丁度いい温かみを持ったぬるま湯だった。

「あー、心地良い。冷たい水かと思いました」

 彼女は蕾がほころぶように笑顔を浮かべると、

「温泉の湯を引いているんでしょうか?」

 と、今思い浮かんだことを口にした。

「そうですよー。ここの温泉は、(みそぎ)以外にも、こんな風に使われてもいます。気配りが行き届いているでしょう」

 理沙の正面で口をすすいでいた鬼村が、したり顔で解説した。

 その間に、もう二回、柄杓でぬるま湯が彼女の手にかけられた。

「ありがとうございます」

 虫取り屋の方を見上げてお礼を言った理沙は、立て掛けてあった柄杓を取ると、水盤からひとすくい汲んだ。両手で柄杓を掲げると、ぬるま湯を口に含んですすぎ、左手に受ける。それを何回かして、改めて左手を洗った。そして、もう一度だけ水を汲むと、柄杓を縦にして最後に残った水で柄の部分をすすぎ、それを元に戻した。

 そして、ポケットから取り出したハンカチで、少女が手と口元を拭いている間に、またしても二人はさっさと拝殿へ向かっていた。

「あっ、待って下さいよぉ」

 急いで理沙も、後に続いた。拝殿にたどり着くと、賽銭箱の前に並んでいた彼等の隣に並ぶ。

「……揃ったな」

 今にも消え入りそうな、か細い呟きのような声。シンと静まり返った境内の雰囲気の中ですら、溶けて無くなりそうな虫取り屋の声だった。

「…………」

 そんな相変わらずの虫取り屋に、山中の冷たい空気で少し頬を染めた少女は、何か言ってやろうと思いはしたものの、結局何も言えずに終わった。

 彼女は、ざわついた心を落ち着けて静かにさせると、正面を向いた。

 ぬっとコートの中から手が伸びると、吊り下げてある鈴に添えられた麻縄を握っていた。


<ガラ、ガラ、ガラ>


 静まり返った境内に、騒々しい鈴の音が鳴り響いた。

 虫取り屋は、コートから両手を出して改まった姿勢をしていた。

 そのまま、深々と三回(・・)お辞儀をすると、柏手を三回(・・)打った。そして、最後にまたうやうやしく礼をした。

「ほう、さすが虫取り屋さんだ。物事を解っていますね」

 そう呟いた鬼村も、同じように三回(・・)の礼をして、柏手を三回(・・)打った。最後に深々と一礼する。

 それを見ていた理沙も、慌てて彼等と同じく、三礼三拍手一礼をした。

「ふぅー……」

 神社の神聖な気に当てられたのだろうか。理沙は、胸の奥がピリピリするような気がして、深呼吸をしていた。そんな一呼吸の間に、またしても男達は、少女を置いて参道を鳥居の方角へと歩いていた。

「あっ、あー。ちょっと待って。待って下さいよぉ」

 置いてけ堀にされた理沙は、踵を返すと、急いで二人を追いかけて行った。



 揃って鳥居をくぐったその瞬間、山中の喧騒が耳を覆った。


──鳥、虫、獣、それから梢の発する音や風の唸り……


 深い山の中に鎮座する神社の周辺は、自然や生き物達の息遣いで溢れていた。しかし、そんな騒々しさも、理沙にとってはむしろ心をホッとさせた。まるで、神界から現実に戻ったような感じだ。境内に満ちた静けさに強いられていた緊張が解けたような感覚。


(あー、やっと帰って来たような気がするわ。たった一晩の事なのに、何ヶ月も籠もっていたような感じ。いくら端末(ターミナル)だって言われてても、わたしには、ざわついた生き物達の中の方が安心するわね)


 ホッとしたついでに、理沙は両手を高く上げて、大きな伸びをしていた。


 そんな時、不意に人語が聞こえた。

「……どっちの方向だ」

 微かな呟きのような声は、虫取り屋のものだ。山の喧騒にかき消されても不思議ではないほどのか細い音は、何故か理沙にははっきりと聞こえていた。

「そうですねぇ……、あっち、……かな?」

 こちらの声は野太いものの、どこか自信なさげで頼りなかった。眺める目線のその先には、スマートフォンらしきものが握られていた。それは小さくコンパクトで、その大きな手と太い指には不釣り合いに見えた。

「地図上では、あっち方向ですね」

 スマホを見ながら指し示すその方角は、深山幽谷の森だった。通り道と言えそうなものは、獣道すら見受けられない。

「え? ……ええー。こんな森の中を突っ切るんですか?! 人間業じゃありません!」

 そう言ってから、理沙は後悔した。


──この男達は、普通の人間では無かったのだ


 そう思うと、先程とは違った意味で溜息が漏れた。

「はぁー、そうでした。言っても無駄でしたね。……えーっとぉ、ここを真っ直ぐに行くと、一体何処に着くんですか?」

 改めて、理沙は行き先を尋ねた。

「……山だ」

 虫取り屋は一言そう呟いただけだったが、鬼村の方はもう少し説明が加わっていた。

「あっ、ええ。山、……って言うよりも山脈ですね。この季節だと白銀のゲレンデが見られるかも知れませんね」

 事も無げにさらっと返って来たのは、そんな事実だった。

「で、や……、山脈を越えると、次は?」

 嫌な予感がしたものの、少女は続きを聞かない訳にはいかなかった。

「……谷だな」

 やはり一言だけ。そして、そこに加わる説明といえば……、

「そうそう、深い渓谷がありますね。その先にも山と谷があって、その先は、……山ですね」

「…………」

 そんな二人の言葉に、理沙は口を挟む事が出来なかった。こんな調子では、いつになったら人里に行きつけるのか分からない。

 そんな彼女の心中を察してか、

「まぁ、一生懸命に歩けば、そのうち平野に出るでしょう。そしたら、駅を探しましょうね」

 と、鬼村は顔を上げて理沙の方を向くと、見るからに人の良さそうな笑顔を見せた。


(はいはい。スマイルはタダだもんね。でも、冬の高山を越えようと言うのに、こんな服装でいいのかなあ?)


 理沙は改めて自分の首から下を眺めた。

 ジャンパーは羽織っているものの、その下は念の為に買っておいたウールのセーター。その下にワンピース。裾から覗く足は、黒いタイツに包まれていた。靴は、しっかりとしたスポーツシューズ。追われる身としては、路上に限らず、道なき荒野を進むことも想定の上だ。

 しかし、山道──いや、断崖絶壁を越えてまで踏破することは考慮していなかった。ベテランの登山家でも、普通は目的地まで真一文字のコースを取ることは考えない。安全で通りやすい場所を選んで進む計画をするだろう。

 それに比べて、この男達ときたら、地形など全く考慮などしていないだろう。山の急傾斜も、崩れやすい岩も、立ち塞がる木々だって、首まで埋まりそうな雪だって、障害物とは認識していないに違いない。


──目的地に向かって一直線に進むのみ


 それだけしか考えていなさそうで、しかも、その通りに実行してしまいそうだった。そして、彼等は苦もなく成し遂げてしまうのだろう。きっと、理沙のことは、ちょっとした手荷物程度にしか考えていないに違いない。

 だが、彼女はそうではない。アカシアの端末と称されようとも、肉体的には普通の人間と大して代わり映えしない。何かの拍子に、一人だけはぐれたりしたら、即遭難である。

 そんな未来予測をしている理沙の前に、スッと進み出た者がいた。黒いコートを羽織った虫取り屋である。またしても、両手をポケットに突っ込んだままの無防備な状態で、さっさと森の方へ足を進めていた。

「自分達も行きましょうか」

 鬼村にニッコリと笑いかけられたものの、理沙には笑っていられる状況ではなかった。置いて行かれぬように付き従うしか方法は無い。

「あーん、待って下さいよ」

 そう言って、彼女も男達の後を追って、森の奥に溶け込んでいった。



 そして、一時間程が経過しただろうか。

「は……、はぁ、はぁ、はぁ……」

 道なき道を、男達の後を追って進んできたものの、急斜面を休み無く登ってきた彼女は、既に疲弊していた。

 寒さ対策として着込んでいたセーターやジャンパーに、体熱と汗が籠もって気持ち悪い。額や頬から溢れた雫が、玉となって顎から滴っていた。

「理沙ちゃん、大丈夫かい?」

 先頭に立って梢や枯れ草を掻き分けて進んでいた鬼村が、こちらを振り向いた。

「……だ……、だい……ょぶ、……す」

 応えは息も絶え絶えになっていた。どう見ても大丈夫そうには見えない。

「……まだ先か?」

 虫取り屋の呟きが聞こえる。目的地について訊いたのに違いない。

「未だ先……あ、いや、もうすぐですよ。後ちょっと」

 鬼村のその言葉から、道程が殆ど消化できていない事が伺えた。

「……そうか。嬢ちゃん、オレの背におぶされ」

 普段の虫取り屋からは想像も出来ない台詞が吐き出された。彼が、他人に気を遣うなんて有り得ない事だ。しかし、理沙の目の前で屈んでいるのは、まさしく黒いコートを着た帽子の男だった。

「え? あ、え……、だいじょぶ……ですから」

 声をかけられてからちょっとの間だけでも休めたからだろう、理沙は少しはまともな返事ができた。

 顔が耳まで赤いのは、過剰な運動で生じた熱を放出するためか? それとも、年頃の少女の毛恥ずかしさからか?

「早く乗れ。嬢ちゃん、アンタは自分がお荷物だと云うことを自覚しろ」

 身も蓋も無い言葉だった。しかも、それは否定しようのない事実だった。

「……ねが……い……ま、す」

 息も絶え絶えに少女は応えると、最後の力を振り絞って貧相な背中に崩れるようにおぶさった。

「……行くか」

 少女に聞こえたのは、それだけだった。後は、<ゴウワァ>と暴風が轟くような風を切る唸りだけだった。

 黒いコートの背に押し付けていた顔を横に向けると、森の木々が物凄い速度で後ろに流れているのが見えた。


──これが虫取り屋の本気


 理沙達はジェット気流にでも乗ったかのように、大小の樹木の生い茂る森を疾駆していた。そして、彼女達に劣らず、鬼村も遅れること無くぴたりと着いてきている。

 背負われた少女は気が付かなかったが、それだけの速度で移動しながらも、聞こえるのは風の音だけだった。茶色くなった枯れ草を踏む足音も、生い茂る樹木の小枝を擦る音さえしない。目の前を遮る障害物は、虫取り屋が近づくと、まるで『不浄なモノに触れるのを嫌悪している』かのように彼を忌避し、道が開かれるのだ。

 だが、それ程までの速力をもってしても、絶対的な距離はどうしようもない。幾つかの谷を、文字通り飛び越え、遥かにそびえる山脈を踏破するにも、目的地には未だ至っていなかった。

「近道……が必要だな」

 風の唸りに紛れそうな声だった。

 しかし、それから程なくして、異様な感覚が理沙を包んだ。


──風の音が止んでいる


 それだけではない。理沙は、自分達が乳白色の霧に包まれていることに気が付いた。それに、すぐ近くに生えている筈の樹木の存在が感じられない。そして、肌に触れる空気の温度も生暖かい。

 異常が気になった理沙が頭を起こそうとした時、全身の血が逆流するような不快感が彼女を襲った。ジェットコースターに乗って上下左右に振りまわされているような。それとも、高速エレベーターが急制動をかけた時に身体が浮き上がるような。いやいや、身体を何度も回転させられた直後に目が回っているような。そんな、様々な不快感が一斉に襲ってきたのだ。


(き、気持ち悪い……。あ、ああ、……意識……飛びそう)


 理沙は、虫取り屋の背で、違和感に懸命に耐えていた。


(こ、こんなのが続いたら、……はいちゃ……吐いちゃいそう)


 もうこれが限界かと思えた頃、不意に彼女から不快感が消えた。一瞬のうちに消失してしまったのだ。

「……着いたぞ」

 その言葉で、理沙は我に返った。ついさっきまで彼女達を包んでいた濃霧は消え去っていた。そして気がつくと、そこは青空の下だった。しかも、山の奥深くでも、森の中でも無かった。

「こ、ここ……何処……?」

 三人がいたのは、小山の端っこにある開けた場所のようだった。近くには民家と思しき建物や畑もある。そして、足元はアスファルトで舗装された道路。直ぐ近くに倉庫らしいプレハブの小さな建屋。

 そこから少し高くなっている方を眺めると、小さな小さな、本当に小さな石造りの祠が一つ。その周りは、祠を護る結界のように張り巡らせた柵。それには、真新しいしめ縄がかけられていた。


「あ……あれって……?」

「あれか。あれは、……左山神(ひだりやまのかみ)だ」


 新たな神の名を聴いても、理沙には全く合点がいかなかった。




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