虚構①
諸事情あって昼の更新ができませんでしたm(__)m
明日明後日も夕方以降の投稿になりそうです。
各地で異例な猛暑日を幾度となく記録する。そんな、異常な年の夏だった。
約束の時間に遅れそうになり慌てて家を出た少年は早足で駅へと向かった。幸い、駅には待ち合わせ通りの時間に着き、肩で呼吸をしながら待ち合わせの人物を探す。
「おーい、こっちだこっち」
そんな少年に声をかけたのは少年をそのまま成長させたような、大人びた雰囲気を醸し出している青年だった。
「兄貴、久しぶり!」
そう、この青年こそ少年の兄であった。この日は普段学生寮で生活していた兄が帰ってくる日であり兄を慕う少年にとっては特別な日でもあった。
普段なら何気ない会話をしながら帰路へと着くのだが、この日は兄からの提案でショッピングモールで妹へのプレゼントを買うという事だった。少年の両親は海外で働いているため、普段好きなものを買う機会など滅多にない。そのためたまには何か買ってやろう、という提案がなされたのだ。
「あぁ、久しぶり。さて、早速だけど何を買ってあげようか…。」
「え、そうだなぁ。服とか喜びそうだけどあんまりお金に余裕はないし、無難にハンカチとかで喜ぶと思うけど…」
そう答えながら少年は一つの疑問を抱えていた。そういえば、妹はいつもどんな服を着ていたのだろう。いつも料理を作ってるのは少年であるが妹は何が好物だったか。妹に関する情報が欠落している。そんな感覚だった。
しかし、兄もハンカチ等が良いと考えていたのだろう首肯するとテナントショップの方へ歩き出した。
***
「こんなのなんか良いんじゃないか?」
兄が手に取ったのは赤いハンカチだった。少し派手なデザインだったが、あまり活発ではない妹には逆に良いかもしれない。
「うん、俺も良いと思うよ。兄貴からのプレゼントってだけであいつは喜びそうだし」
「何言ってるんだ。2人からのプレゼントだろ?」
そう言って微笑む兄に「そうだね」と同じように微笑む少年。こんな兄との何気ないやり取りが少年は好きだった。
「ところで、お前もそろそろ彼女とか出来たんじゃないのか?」
「まさか、そんなのいないよ」
突然の話題転換に戸惑う少年であったが、そういえば兄は昔からこの手の話題が好きだったような気がする。いや、本当に好きだったか。朧気で確証のない記憶だが兄の話ぶりから察するに好きなのだろう。少年に問う兄の目は好奇心そのものであった。
「いないのか…。でも、気になる女の子くらいはいるんじゃないのか?」
残念そうな顔をしたかと思えばすぐにまた表情を明るくさせ尋ねる兄。しかし、少年にとってこういった話題はあまり得意なものではないのだ。
「しつこいなぁ。居ないよ。ほら、もう帰るよ」
うんざりした調子でいう少年に対ししつこく問いかける兄。だがこんな問答も正念場嫌いではなかった。かえったら早速妹にプレゼントをしてやらないと、この時少年はそんなことを思っていた。
恐らくこれからもこんな日々が続くのだろう。特に面白いわけでもない。取り留めのない会話をして変わらない毎日を過ごす。いつかは終わるそんな日々も、しかしいつまで続いていくのだろうかと少し先のことを考え不安になり、現実に戻っては安堵する。結局少年にとっては今目の前にある光景こそが真実なのである。
各地で異例な猛暑日を幾度となく記録する。そんな、異常な年の夏。
この時、兄は確かにそこに居た。