邂逅③
「私………、死んだんです。3年前に」
少し複雑な事情でも抱えているのだろうか、そう思っていた少年にこの言葉は想像以上に響いた。
こんなこと聞いても絶対に信じないだろう。誰だってそうだ。
死んだならこんなところに居るはずがないし、そもそもこうして自分と喋っている少女は幽霊だとでも言うのだろうか。しかし、少年にはその言葉をどうしても無下にできなかった。
なんとなく、本当になんとなくだが、この少女は本当のことを言っている気がするのだ。
「え………、それってどういう…」
「えっとぉ、先輩にも分かるように言うと、私、死後の世界から来たんです。厳密には死後の世界とは少し違うんですけど、その解釈でオッケーです。3年前の私にはどうしても言わなきゃいけないことがあったんです。この世に、未練がありました。それで、頑張って働いて。ようやく与えられた給与が、一週間の猶予です。私は一週間だけ、生きた私として行動できます。だからその間に先輩を探して、伝えたいことを伝えなきゃいけないんです。」
「一週間………、そんな短い間に探すのかよ。何も分からない一人の人間を。そんなの……」
少年がその先を言うことは無かった。例え、不可能なことだとしても、この少女は一週間を信じてひたすらに頑張り続けてきたのだ。死後の世界というものがどんなものなのかは少年には分からない。しかし、一度死んだ人間が生き返るのだ。並々ならぬ努力が必要だろうということくらいは容易に想像がつく。
どう見たって高校生。いや、中学生だと言われても十分納得できる。そんな少女がこの一週間のために3年間も努力をしてきたのだ。それを無下にしてしまうのはあまりに酷だろう。
たった一週間で良いのなら、自分も付き合ってやろう。少年はそう心に決めるのだった。
「一週間、じゃないですよ。もう、2日経ってますから………。あと、5日です。」
「あと……、5日。何か探すアテはあるのか?」
「なんとなく、先輩と行った場所を回ってみたいんです。そうすれば、きっと思い出すかもしれない。そう思うんです。」
反応は予想外だった。
そもそも行った場所を覚えていて、そこを回っているのならどうしてあの高台に辿り着いたのだろうか。
あの場所は周りからみると木が生茂っていてとても近付きたいと思う場所ではない。
かくいう少年とて、兄にその場所を教わるまでは一度も近づくことはなかったほどだ。だからこそ少年はあの場所にいるのが好きだったわけだし、あの高台のことを知っているのなんて兄と自分だけだと思っていた。
ひょっとしたら……。
そんな思考が少年の頭に走る。
この少女が探しているのは兄なのではないか。もしそうだとしたら自分が少女の言う”先輩”に似ているというのも納得がいく。
しかし、だ。もしそうだとしたら少女の願いが叶うことはない。理由は簡単である。少年の兄は三年前に他界しているからだ。
少年はすでに、その事実を如何にして少女に伝えるかということを考え始めていた。何事もなかったかのように伝えるべきなのか、重い心持ちで伝えるべきなのか、はたまた隠し続けるのか。
様々な思考が少年の集積回路を巡る。しかし、辿り着いた結論は、やはり伝えるべきではない、だった。