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セルフェンダ戦記  作者: 岸辺茄遊
皇国の軍事
2/2

爵位継承式典





(つまらんな)



ウィレ・ティーダ・セルフェディは退屈していた。


今、王宮で最も広い玉座の間は大勢の人が集まっている。ほとんどが爵位を持つ貴族・貴婦人だ。


大陸の大国セルフェンダの国王であるウィレは、この年間伝統行事である爵位継承式典において、新たに当主となった者たちに言葉をかけるという重要な役目を持っている。しかしその役目は、祭司長が爵位継承者の家柄と名を全員分読み上げたあとになる。それまでウィレは長々と待ち続けなければいけないのだ。



(こんな些細な仕事のために時間を割いてる余裕はないというのに)



前国王が病で急逝し、ウィレが国王となったのが2年前。もともと平和な国だったので大したもめ事もなく、またウィレが有能であったため、国王就任には何ら反論はなかった。しかしまだたったの2年。片付けなければならない問題や案件は山積みなのだ。



(祭司長は継続でいいだろう。父上に忠実だった良い家臣だ。東と南の騎士団も問題ない。だが、近衛騎士団はー…まずは団長から変ねばならん)



首都と王宮、ひいては国王を守る立場にある近衛騎士団の団長は、国内の騎士団をまとめる立場にある。また、軍法会議では参謀長も兼ねる。



数ある騎士団の内、東のテオラノ騎士団と 南のトルバンド騎士団は、それぞれ守りと攻めに秀でた屈指の騎士団である。しかし立場上、それぞれの騎士団は近衛騎士団長に逆らうことはできない。



そんな重要な役職にも関わらず、今代の近衛騎士団長つまり参謀長は、全くと言って良いほど役に立たない。権力に溺れた惨めな中年男性だ。しかし家柄のみなら侯爵家に当たるため厄介だ。



(後任をどうするかも問題だな。まったく、こんな式典に時間を割く余裕などないというのに)



考えをまとめ、ふいに意識を式典の方に向けたとき、祭司長の口からまた新たな名前が読み上げられた。


「最後に、筆頭子爵ツァリネータ家、レジネス・ツァリネータ、前へ」


「はい」




まだ若い、若干の高さを残す声。


背は高めだが、決して大きくはない体格。


前髪は短く切り揃えられており、後ろ髪も襟足までしかなく、柔らかい蜂蜜色だ。


特に印象的だったのは瞳だ。青色はまるで空のように美しかった。




「筆頭子爵家第14代目当主として、レジネス・ツァリネータ。この国のため、王のために命を懸けて尽力させていただきます」


右手を胸にあて、一礼する。




(ほう…)



子爵家というと、爵位でいうと上から4つ目に当たる。貴族であるには間違いないが、貴族の中では下級貴族。子爵家全てをまとめる筆頭子爵家であることを加味しても中級貴族あたりだろう。



(それにしては…佇まい、口調、どれも洗練されている。良い教育を受けていた証拠だ)



この式典には参列者として上流の貴族・貴婦人が多く集まっているが、そのなかに入っても違和感はないだろう。それくらい優雅な一礼だ。



礼をしていた体をゆっくりと起こす。



ウィレとレジネスの視線が一瞬、交錯する。



(…あの若さで、この場で怖じ気づかんとは大したものだ)



レジネスが後ろに下がる。


最後まで堂々とした態度を崩さなかった。




気づけば国王の興味は、騎士団の人事よりこの不思議な魅力の青年に向けられていたのだった。







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