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三度目の正直だ。
今日は事前に約束してあったので大丈夫だろうと鼎神社へ向かう。
学校を出る時に二日続けて勉強会をサボるとは何事かと抗議の声を昌美があげたが、早貴さんと前もって約束をしていたと言うと不承不承ながら本日の欠席も許してもらえた。
昌美は昨夜の事などなかったかのようないつもと同じ態度で、俺としては少し拍子抜けだった。黄昏時の逢瀬にドキドキしていた自分が馬鹿みたいだ。
鳥居の前に立って柱の近くに寄り、まずは一礼をする。
それから真ん中を通らないように境内に入ると、そこには早貴さんがいた。
「あら、来たわね」
「こんにちは。今日も境内の掃除ですか」
早貴さんが手に持った箒を指差して尋ねる。
「境内の掃除だけがお仕事じゃないんだけどね。なんだか圭二くんにはこういうところばかり見られちゃって恥ずかしいな」
「神社は神様がいる場所なんですから、綺麗にしておくのはいい事だと思いますけど」
「うふふ、ありがと。それより見てたわよ。鳥居を通る時にちゃんと一礼して、それから真ん中を通らないで隅を歩いてたわね」
「せっかく教えてもらったんだし、できる事ならやっていこうかなって」
「やっぱり圭二くんは真面目よね。そういう男の子、わたしは好きだな」
早貴さんの言う好きの意味は男女のそれではないとわかっていても気恥ずかしい事には変わりなかった。顔が赤くなるのをとめられそうにない。
「それよりカナちゃんはいますか」
「ええ、お待ちかねよ。上の境内で遊んでいるんじゃないかしら」
「じゃあ、失礼します」
早貴さんの顔を見る事ができず、走ってその場を後にした。
境内の北東側にある立派な階段を駆け上がり二の鳥居をくぐると、そこには俺が来るのを待っていたかのようにカナが立っていた。
「お前……どうしたんだ」
不機嫌そうな顔をしてカナは突っ立っている。
「なんじゃ、文句があるのか」
おまけに声もかなりイラだっていた。寄らば斬ると言わんばかりのピリピリした雰囲気を醸し出している。
「いや、だってそのカッコウがさ。なんていうか……その、似合ってるよ、うん」
「くっ」
カナの顔が羞恥に染まる。
「じゃからわしはいらぬといったのじゃ。しかし居候の身だから無碍に断る事もできずにじゃな……おのれ、笑うな!」
フリルのたっぷりついた白いシャツにカーキ色のシンプルなデザインのVネックのワンピース、黒のタイツに同じ色の大きなリボンを頭につけていた。
華美にならず、少女らしい愛らしさを感じさせる格好だ。
「こ、こんなゆったりとした服では、そ、その心許ないと言うか……じゃから笑うなと言っておろうがっ」
「笑ってないよ。可愛いと思うから褒めてるんじゃないか」
「これは井奈の母上がどうしてもと言うから仕方なくじゃな……」
顔を真っ赤にしてスカートの裾をぎゅっと握り、どうして洋服を着ているかの理由を説明しているが、その態度からそれなりに今の格好を気に入っているのがわかる。
本心では褒めて欲しいのだろう。カナも女の子だった。
「似合ってると思うぞ。カナは和服姿もよかったけど、普段着が和服だとちょっと目立ちすぎちゃうしな。いいんじゃないか、その服」
「そ、そうか。そうじゃな。おぬしがそう言うのであればこれからも着るようにするか」
まんざらでもなさそうな表情で頷く。
その場でくるりと回ると、上目遣いで見つめられる。
「すごく可愛いな。また新しい洋服を着たら見せてくれよ」
「うむ、おぬしがそういうのであれば見せてやらんでもない」
得意げな顔をするところがなんとも微笑ましい。
「ところで早貴から狐の事で話があると聞いているが」
「うん、いろいろあってさ。ちょっと長くなりそうなんだけど」
「ならばついて来い」




