一本目 お荷物承りました(4)
--4--
「嗚呼ぁ、どうしてこうなっちゃのかしら……」
「ナナホシ運争店」とかかれた事務所のドアを開けると、憂鬱な顔の受付嬢が、気だるい声を上げた。
ピンクのツインテール。真っ赤な口紅ルージュ。
かなりの美少女だが、パンクファッションに身を包み、頬杖をつき、来客を歓迎する気など、微塵も感じさせない様相だ。
僕は愕然として口を開いた。
「……あの、ナナホシさん。
そろそろ突っ込みが追いつきません」
「おう、そうだな。
おい、シガー。お客さんの前で失礼だぞ」
「いえ、まず字が違います。
何ですか運『争』店って、どこと一発やり合う気ですか」
「えっ!?
突っ込み、そっちッスか!?」
遅れて入って来たマッチさんの突っ込みが炸裂し、全員が玄関に揃った。
ドアの前に並ぶ男三人を一瞥し、シガ―と呼ばれた美少女は大きくため息をついた。
「はぁ~。
なにくだらないコントやってんのよ。
……ところで誰よ。そのチンチクリンは?」
初対面の女性に罵られると言う衝撃体験を済ませた僕を横目に、ナナホシさんが返事をする。
「誰って!?
お前が依頼を受けたんだろうが!?
ほら、例の、割高のカモの客だよ!」
「じゃあ、そんなら尚更知らないわよ。
あたしは、電話で依頼を受けて、今朝、タイチョーが客のとこまで迎えに行ったんでしょ。
『我が社の荷物を目的地まで、運んでくれって』っう、あの依頼でしょ?」
美少女は、若干、喧嘩腰だ。
ナナホシさんは、ちゃんと仕事しろとか、依頼の確認がどうとか怒鳴っている。
初利用の業者にカモ宣言されるという衝撃体験を済ませた僕を横目に、今度はマッチさんが割って入った。
「まぁまぁ、シガレットの嬢ちゃんも、タイチョーもその辺で」
両手をすり合わせながら、2人の間に立つマッチさん。
それでも少女の不満は収まらないようだ。
鉄パイプの席を立ち、ツカツカと近寄ってくる美少女。
華奢で低めな身長の身体が、厚底ラバーソウルに乗っかって運ばれてくる。
「うっさいわねマッチ。
あたしだってね。いつもニコニコ。
可憐で可愛いシガ―ちゃんで居たいの!
でもね、そりゃ、こんなお店に居たら愚痴の1つも言いたくなるわよ。
タイチョーは、また性懲りもなくセッターぶっ壊して!
毎度毎度、こんな赤字経営の店を経営する私の身にもなってよ。
もう会計帳簿なんて、赤字を越えて、真紅じゃない!
これじゃ、人類史上初の真紅経営よ!
真紅の経営者よ!」
「いや、経営者は俺だし」
マシンガンの様に捲し立てる美少女と、耳をほじりながら小馬鹿にするナナホシさん。
なんだかこの2人、あまり仲が良くないのだろうか?
「まぁまぁ、2人とも、嫌よ嫌よも好きのうち、ってね。
そうそう坊ちゃん。
こちらは、シガレットお嬢。
うちの可愛い受付嬢ですよ」
マッチさんが場の雰囲気を和ませようと、自己紹介を僕に振った。
それに気がついた美少女が、ナナホシさんにがるがる噛みつくのを止め、僕の方を向いた。
「『シガレット・ケース』!! 以上!!」
人類史上最速の自己紹介。
不機嫌な女性に近づくのはやめておこう、そう思わせる自己紹介だった。
他に人がいないところを見ると、これで、ナナホシ運争店のメンバーが全員そろったようだ。
ヤンキー2人に、パンク少女1人。
問題だらけのこのメンバーを見て、この先、僕の運命に大きな喧騒が待ち受けていることは……
……この時、既にうすうす気が付いているのであった。