一本目 お荷物承りました(2)
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「あぁ……どうしてこうなったんだろう……」
「うるせぇな、男がいつまでもウジウジ言うな。
それよりも荷物。無事だろうな」
夜の森のなかで、ボロボロの機体を横に、これまたボロボロの格好で座っている。
どうやらハイウェイの下は、森になっていたようだ。
辺りには飛び降りたときに折った枝が散乱している。
ナナホシさんは、イジける僕に檄を飛ばし、隣に座った。
さっきまで、セブンスターの通信機で、どこかに通信していたみたいだ。
そのセブンスターも、かろうじて原形をとどめているが、ところどころへこんだり、壊れたりしている。
「あぁ、もうほら、一応は無事ですよ。無事。
まったく、大切な『荷物』なんですからね」
僕は抱えていた「荷物」をナナホシさんに見せた。
「おっ、そうか、なら良かった。
さてと…
それじゃあ、どうして、こんなことになったのか説明してもらおうか。
……たしかに破格の依頼だったが、街中で銃をぶっ放されるとまでは、聞いてなかったぞ」
ナナホシさんが僕と「荷物」を睨みつけながら、問いただした。
「……あれは、たぶん。
禁煙連合会の人達だと思います」
「……禁煙連合会?
なんで奴らが、『荷物』を狙う?」
「それは、実は……」
――僕の所属している組織は、JTのとある子会社の下部組織……のさらに下部組織で、煙草機甲の開発・研究を行っている。
そして、その子会社で、ついこの間、新型の「煙草発動機」のパーツが開発された。
詳しい理屈は良く分からないが、従来の発想を超えたとんでもないパーツらしい。
自分の会社で作ったものなら、説明しろよと言われても、それは困る。
確かに、作ったのはうちの会社だ。
しかし、僕の所属しているのは、その下部組織の下部組織。
さらに言えば、僕のそこでの肩書は、「準研究員補佐助手見習い」別名、パシリとも言う役職だ。
つまり……僕はそれくらい下っ端なんだ。
「で、そのパシリが、何の『荷物』を預かってるんだ?」
「あぁ、それはですね。
っ、というか、あの……
一応、僕、お客なんですから、ボウズとか、パシリとか止めてくれません?」
「あっ、そうか。悪かったな。ボウズ」
「……話、聞いてました?」
「……?
だから、謝っただろ?
いいから、話を先に進めろよ」
「……はい」
――それで、そのパーツだけど、販売のためにその試作品を、JT本社に届けることになった。
だけど、そこには1つ問題があった。
どこで嗅ぎつけたのか、禁煙連合会が、そのパーツを奪取・破壊しようと目論んだのだ。
禁煙連合会とは、煙草機甲タバコロイドが、地球の環境を悪化させているという名目で、その禁止を訴えている団体だ。
近年、その活動は過激化しており、煙草機甲タバコロイドを使ったテロ行為も持さない構えだ。
……つまり、平和主義武装団体と同様、存在自体が自己矛盾みたいな団体だ。
僕の組織は、その禁煙連合会の目を逃れるため、ある策略を巡らした。
あえて、政府の輸送機関を使用せず、民間の、さらには、「ウラ」の輸送機関である「運び屋」にそのパーツを運ばせることにしたのだ。
……そう、報酬次第で、ヤバい仕事も引き受けるという、この「運び屋」に。
「……なるほどね。
それじゃあ、その『荷物』は、そのパーツってことか」
「……えぇ。そうです。
でも、これ、内緒ですよ。
喋ったら、守秘義務違反ですからね」
「わぁーってるよ。
俺は、仕事の金さえ貰えれば、やたらな詮索はしねぇし、細かいことにはこだわらねぇよ。
ただ、前もって聞ぃとか無かったからな。
そんなにヤベェ仕事だったのか……
ったく、うちの『受付嬢』は、ほんと仕事しねぇなぁ……」
先ほどの襲撃に得心がいった様で、ナナホシさんは、僕に質問するのを止めた。
パンッ!と膝を叩きながら立ちあがると、セブンスターの方へと向かう。
「っさてと、もうそろそろか……
あぁ……そうだ。
俺も1つ言い忘れたわ。
どこからか煙草機甲タバコロイドとは別のエンジン音が聞こえる。
豪快に森の木をぶち倒しながら、大型のトレーラーがこちらに向かってくる。
どうやら追手ではなく、ナナホシさんが通信していた相手の様だ。
「……?
話し忘れたこと?」
近づいて来るフロントライトを全身に受け、影だけになったナナホシさんが告げた。
「さっきの話。
うちの『メカニック』には、すんなよ。
あいつ、無類のタバコ好きだからな」