一本目 お荷物承りました(1)
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「畜生! どうしてこうなった!!」
コックピットに怒声が響く。
ギアをハイに入れ替えながら、ナナホシさんが怒鳴った。
機体は勢いよく向きを変えた。
間一髪。
追手の煙草機甲の撃った弾丸が、機体をかすめてコンクリートの地面にめり込んだ。
「チッ、バカヤロウが、俺のセッターに傷をつけやがって。
おいボウズ、後で修理費用、配達料金に割増すっからな!」
僕に目もくれず、ハンドルを握りしめながら、ナナホシさんが何か叫んだ。
踏み込まれたアクセルに応えて、エンジンが爆音を上げる。
揺れる、揺れる、なお揺れる。
全速力で夜の街中を駆け抜ける機体。
「おわっと!? えっ!? あっ、はっ、はい……!?」
エンジン音がうるさくて、何を言われたか聞こえやしない。
が、とりあえず返事をしておこう。
今は……そう、このピンチを逃げ切ることの方が大切だ。
僕達は今、対立組織の刺客に追われている。
正確に言えば、追われているのは、僕。
いや……もっと正確に言えば、狙われているのは、僕の抱えている「荷物」だ。
僕の前方、運転席で、必死で機体を操作しているのは、ナナホシさん。
――ナナホシ・ケムリ。
町はずれで、小さな「運び屋」を経営しているお兄さん(?)だ。
疑問符が付くのは、その老け顔のせい。
あごひげと金髪、いかつい体のせいで、見た目は完全にヤンキーだ。
口調からすると……まぁ、中身もたぶんヤンキーだ。
そして、そのヤンキーと僕が乗っているのは、煙草機甲。
半国営の日本技術産業株式会社、通称JT(Japan・technology)が、製造販売を手掛ける人型のロボットだ。
機体の名前は、セブンスター。
通称で、セッターとか、ブンタとか呼ばれている。
ちなみに、追手の機体は、マイルドセブンと呼ばれる機体だ。
――その昔、といっても僕の曽曽曽曽祖父さんが生まれる前の、大分昔の話しだけど、人類は煙草を嗜好品として径口摂取していたらしい。
でも、体に悪いとか何とかで、嫌煙派と呼ばれる団体が喫煙文化を否定。
愛煙家と呼ばれる団体と最終的には国内紛争にまでなったそうだ。
それから、まぁ、いろいろと紆余曲折経て、煙草の別の使用方法が研究され、最終的には、煙草1箱(大体20本)を燃料に1000kmの機動距離を実現した「煙草発動機」の開発に成功。
それを積み込んだ煙草機甲が発明されて、政府が製造販売を独占、そして今に至るのだそうだ。
僕は、昔、ハイスクールでそう習った。
まぁ、詳しいことは今でも良く分からない。
第三次世界大戦の頃に全部うやむやになっちゃったらしい。
当時は、エネルギー革命がどうたらとかで、アメリカなんかとも喧嘩になったそうだ。
「おい!! ボウズ!!」
僕の思考を引き裂いて、突然、怒声が飛んできた。
「荷物」を抱き締め、目を瞑り、必死に振動に耐えていた僕の前方で、ナナホシさんが何か喋っている。目を開き、前を見る。いつの間にか機体は、ハイウェイに乗っていた。
「はいぃ!!? 何ですかぁ!!???」
相変わらず、騒音が酷くて聞こえやしない。
大声を出して答えた。
「少し、無茶すっからよぉ!
その荷物しっかり、持っとけよぉ!!」
「えぇぇ!? 何ですかぁぁ!?」
「荷物だよぉ! 荷物ぅ!!」
爆音の中から、微かにその言葉を聴き取った瞬間。
――機体は、ハイウェイの壁をぶち破って、空を舞った。