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不良人日記  作者: ローグ
6/7

5話

今回は喧嘩なしです。



「―――くん、和くーん、ご飯の時間だよー」



俺は頬を突かれている感覚がして気付いた。

(眠い。というか体がだるい……あれ、俺って寝てたっけ?)

「そうだ、西条だ!」

カッと目を見開き、横になっている体を一気に起こす。

その時、身体中からボキボキと、骨が鳴る音がした。

「うぐぉぉ!!」

身体全体に痛みが走る。

それは、頭に残っていた眠気を完全に吹き飛ばした。

「うきゃあ!?」

可愛い悲鳴が聞こえた。

首を動かして見ると、ノノムーがこちらを見て固まっている。

「あ、ごめん。驚かせた?」

声を掛けると、硬直した状態から脱し、息を吐きながら応えた。

「ふぅー、ビックリしたー。和くんの行動が突然過ぎたから、思わずビクッてなっちゃったよー」

ご丁寧にビクッとした場面を再現してくれるノノムー。

「それはすいません。んで、何で俺は保健室に?」

「それはね、権くんが気絶した君達を運んで来たからなんだよー。

権くんね、『……全員気絶してるだけだから、看病を頼む』ってボソボソ言いながら行っちゃったんだ」

「そうなんだ」

(倒れた奴は敵でも保健室に運ぶってのは暗黙の了解なのか? 俺もやったが、西条はただいい人だからか?)

俺が思考していると、

「あ、そうそう! 今はもうお昼ご飯の時間なんだよ。和くんも何か食べた方がいいよー」

言われて見れば確かに空腹感がある。

俺は二時間以上気絶していたことになる。

「そうだ、ノノムー。他の奴らは?」

「んー? 達くんや知くん達なら食堂に向かったよ」

(俺は置いてきぼりかよ。それより、チヒロは知くんかよ……)

俺は痛むからだを気にしながらゆっくりと立ち、

「ありがとう、ノノムー。行ってくるよ」

礼を言った後、ノロノロとした足取りで、保健室を出た。

「無茶しちゃだめだよー」と言いながらノノムーは送り出してくれた。

(本当にいい人だ。人気高いだろうな)






「ヘーイ、和麻! 初惨敗記念パーティーやろうぜー!」

食堂に着くと、負けたとは思えないような明るい声でタツが迎えてくれた。

「お、和麻来たか。まぁ、座ろうぜ」

チヒロが椅子を引いてくれたので、そこに座る。

食堂は、八人用のテーブルがズラリと並んでいて結構広々としている。

俺たちはその中の一つのテーブルを六人で使っている。

(何か、食堂は平和な感じがする。落書きも少ないし、みんなが昼飯を楽しんでるな。廉涯じゃ考えられない光景だが、何故だ?)


「知ってるか? 食堂は喧嘩禁止って今の会長が決めたらしいぜ。文句のあるやつはちゃんと暴力なしで説得したしよぉ」

チヒロの言葉で納得できた。


今の会長、つまり刈谷総一は、俺達全員がきれいに使わないといけないところを決めて、その場所でのマナーアップを校則に加えたらしい。

食堂の他は、保健室とか図書館等が喧嘩禁止で、溜まり場作りも禁止されていて、それらの場所が誰かのテリトリーになるのを防いでいるのだ。

昔は食堂の取り合いで、怪我人が続出したそうだ。

新しい校則が本当に最低限のマナーを守らせ、無駄な争いを未然に防いでいる。

(マジ、何で廉涯来たんだ、あの人? 他にも行くあては沢山あるだろうに)


「ひとまず何か食い物頼みに行こうぜー」

「タツ、んなもんこいつらに任せて反省会でもしようぜ。和麻それでいいよな?」

チヒロの手下三人が頷く。

(反省会か。西条に惨敗して、行き当たりばったりの行動じゃいけないことに気付いたか)

「ああ。んじゃ、俺は鉄火丼と味噌汁を頼む」

「ハンバーガーとフライドチキンとフライドポテトよろしくー!」

「俺は天そばだ。行ってこい」

チヒロは三人を行かせた。


この食堂はチケット制で、最初に料理のチケットを渡し、レジまで歩いていくうちに、トレーに料理を乗せてもらうという方法が採用されている。


「んじゃ、反省会やるぞ。まずは俺からの意見だが、やはり情報の無さが目立つ。早急に、情報屋の藤岡を仲間にする必要があると思う」

(西条との喧嘩でわかったことは、俺以外の仲間が何も考えずに喧嘩しているってことだ。あんな適当な行動方針を誰も疑問に思わないのが、その証拠だ)

俺達の行動は、自分達の都合と、相手の見かけだけで判断し、実行されていた。

俺のあの時の提案も、所詮みんなの考えと大した違いはない。

だが、そうやって策を練るといった行動をしたのは俺だけだった。


何となくいやな感じはしたが、特に何も無かったので確認せずに走って突っ切ったら、地雷原で全滅しました。

軍隊で考えれば、俺達の行動はこんな感じになるだろうか。

こんな風に動いていて、生き残る訳がない。

俺達は馬鹿だったのだ。


「まぁ、必要だよねー。やっぱ廉涯舐めてたってことかなー」

「藤岡か……、確かにしょうがねぇ状況だな。情報ねぇから、あそこが刈谷のテリトリーっつうことは知らなかったんだ」

二人とも概ね了解している。

あの惨敗が、彼らの思考を柔軟化させたのだろう。


「あぁ、俺は和麻の提案の次に大切なことを見つけた」

チヒロが、何か思いついたらしい。

「俺達はまだ少人数だからよぉ、これからもっと強くならないと、とても廉涯制覇とかは無理なんだよ。

んで、俺は情報屋探しの後は、溜まり場作りの前に、二組制覇を優先するべきじゃねぇかって考えた。どうだ?」

「溜まり場の方こそ保留かー」

「チヒロ、何時の間にそんな理性的になった?」

「おい、和麻。馬鹿にすんなよ」

(これは予想外だ。以前提案してもチヒロが納得しなさそうな方針を、チヒロ自身がするとはな。滅茶苦茶成長してるじゃん)


「で、どうなんだ?」

チヒロが意見を促す。

「俺は大賛成だ。二組を支配出来れば、戦力は数倍になる。そうすれば、溜まり場を作りやすくなるしな。タツはどうだ?」


意図的にこの方針の利点を並べる。

こうすれば、利点がはっきりと分かるので賛成しやすくなるだろう。


俺がタツを見ると、

「ま、そーだよな。そっちのほうが、効率的だしグッドなんじゃね?」

と、納得していた。

「よし、まずは藤岡の勧誘。次に二組制覇。それから溜まり場作りだ。それでいいな、タツ、チヒロ?」

「オーケー」

「おう」

話が一通り済んだところで、チヒロの手下達が飯を運んできた。


「んじゃ、昼飯食うか!」こうして、俺達は新たに方針を固めて、前に進もうとするのであった。







視点:刈谷総一


「……総一」

僕がとある溜まり場で、コーヒーを飲んでいると、権太が現れた。

「やあ、権太。君もコーヒーが飲みたくなったのかな?」

彼は俺が用意した新しいカップを見て少し笑う。

「……では、一杯お願いする」

「うん、わかった」

僕がコーヒーを淹れている間、彼は目を閉じて考え事をしている。

「権太、何か嬉しい事でもあったかい?」

彼は目を開けてチラリとこちらを見る。

「……分かるか」

「もちろん。表情が柔らかくなってる」

すると彼は微笑んだ。

(普段から微笑んでいれば恐がれることもないのにね)

「……面白い奴らにあった。……いい目をしていて、俺を恐れず立ち向かってきた。……久しぶりに、負けを視野に入れなければならない喧嘩をした」


僕は少し驚いた。

彼に立ち向かう勇気のある奴は久しぶりだ。

それに、権太を負かしそうな奴はもっと少ない。

興味深い話だ。


「誰なんだい、君にそれほどの言葉を言わせる奴は?」

「……今年入ってきた坂倉和麻という生徒の集団だ。……彼は君に似ているよ」

(僕に似ている? 廉涯じゃあ珍しいタイプなんだな)

「面白いね。一体どうして喧嘩になったんだい?」

「……俺達の溜まり場を襲撃していた。……結構な腕自慢が二人居たが、大した抵抗も出来ずに倒されていた。……俺が引けと言ったが、彼らは立ち向かってきた」


僕は絶句した。

いくら一年でも、僕の勢力の大きさを知っているだろうに。

馬鹿なのか、それとも僕たち百人以上の人数を恐れない蛮勇を持っているのか。

「坂倉和麻くんか」

「……彼らは必ず一大勢力になる。……対策を考えた方がいい」

「面白い。本当に面白いよ。それじゃあ、彼らの動きを観察して、何かあったら報告してくれくれないかい?」

すると、権太は立ち上がりながら言った。

「……わかった。……それとコーヒーありがとう」

彼は溜まり場から去った。

「どういたしまして」

小さく呟く。

それから、パソコンを開く。

(廉涯の勢力図に修正を加えよう。一年の要注意人物に坂倉一派を増やすか)

彼の目には、廉涯の地図と、そこに書き込まれている沢山の名前が映っていた。(今年で僕も最後。さぁ、廉涯を統べる大物は現われるかな?)

パソコンを閉じた僕は、これからの廉涯を想像しながらコーヒーを飲む。


今はまだどこも平和だ。

でも近いうち平和は崩れ、大きな争いが来ると確信している。

(来なよ。僕は誰が相手でも戦う。廉涯を舐めるなよ)

僕はいつか始まる戦いを待ち受けるのだった。


惨敗の結果に終わった西条戦の反省会でした。

主人公たちは失敗しながら成長していきます。


そして、刈谷達に過大評価されました。

刈谷達とどんな関係になるかはまだ、未定です。

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