4話
少しずつ一話分が長くなってきています。
短く区切る事って難しいですね。
俺の廉涯での生活は、二日目で喧嘩尽くしになったが、あの日以降特に騒動も起きずに、平和にダラダラと過ごしている。
一週間ぐらい経っただろうか。
「そういえば、チヒロ。初めて会ったときに追おうとしていたのは誰だよ?」
「藤岡明雄って奴だ。自称情報屋だとよ」
いい加減チヒロというあだ名に慣れた右京。
特に何の反応もしなくなったので、俺達は普通にチヒロと呼んでいる。
「何でチヒロから逃げたんだよー?」
今度はタツも話に加わった。
(まぁ、その藤岡って奴のせいで俺達は喧嘩したんだようなもんだ。
興味はあるよな。
まぁ、逃げた先に俺達がいただけだが)
「『情報屋って言うからには、俺のことは知ってんだろうな?』って聞いたら、藤岡の奴、知らないと言ってよぉ、そんで怒って詰め寄ったら逃げやがった」
「………」
「チヒロ沸点低すぎ。ただお前が無名なだけじゃん」タツは会話を放棄してしまったが、俺は続けた。
仲間の悪い考え方は修正しておくに限る。
「まぁな、でもよう、和麻に負けた時に、自分が井の中の蛙だって気が付いたから、もうあんな真似はしねぇよ」
「そうか」
(まぐれ勝ちが二人ともをいい方向に導いてくれたな)
ちなみに、俺達はまだ溜まり場を作っていないので、教室で椅子に座りながら過ごしている。
俺とタツを襲った連中は、すでに溜まり場を作ったのか、教室にいない。
チヒロとその手下(武田、内山、斉藤って名前の三人)が仲間になったので、全員で六人となり、数は三倍になった。
(そろそろ、溜まり場作るか)
「っし、まずは情報屋探しだ!」
「ワット? どうした、和麻?」
「溜まり場持つためには奪うか、作るかあるだろう。どちらにしても、廉涯に詳しい奴が必要になる」
「おい、まさか藤岡の奴を使うのか? 俺がいたら逃げちまうだろうよ 」
「探すのダルいから、適当に奪えばいいじゃんよー」「いや、いるだろ情報屋」「パパッと奪えばいいよなー、チヒロ」
「ああ、タツの言う通りだぜ。和麻、今から一つ奪いに行くぞ」
「え、ちょ、マジかよ……」
こうして、情報屋の件は保留になり、何故か、溜まり場強奪だけが実行になった。
(早くも、敗北の予感がするんだがなぁ……)
俺達は、一階の一年の教室とは反対側の端まで歩いてきた。
「んで、どこ奪うー?」
「んなもん、人数が少なそうな所をぶっ潰せば終わりじゃねぇか」
「おいおい、そんな簡単にはいかないって」
楽観的な二人を嗜める。
俺が止めないと、とんでもない奴らに喧嘩を売るはめになるだろう。
「あ、この空き教室とか、ベターじゃね?」
「落書きも少ないねぇな、教室だから広さも十分だ。和麻、ここ奪おうぜ」
(あ、勝手に進められても最終的な決定権は俺にあるのか)
「ちょっと入ってみて、人が少なかったら即急襲。多かったら、『間違えました』って逃げるぞ」
臨機応変な対応を心掛けて、少しでも危険を減らしておく方がいい。
「オーケー」
「問題ねぇ」
そして、俺達は、一気に教室に入った。
「あん?」
「誰だよ」
二人しかいなかった。
(チャンスだ! 今のうちに攻撃するぞ)
そう思ったが、
「だらっしゃー!」
「わりぃな!」
すでに、タツとチヒロが潰していた。
タツは竹刀。
チヒロは、ボディブロー。
それぞれ、一撃で倒した。「……お前ら、誰のテリトリーに手を出したかわかってんのか……」
「……お前ら、終わったぜ、ハハハ……」
床に伏して意味深に呻く二人を、隅に退かして教室を見渡す。
「いい所が手に入ったな」「空調がついてるのはグッドだ」
「元から椅子や机があるから、まぁ楽だな」
(簡単に済んだな。この調子なら、何個か、溜まり場を奪えそうだ。今後、人数が増えたら分ける必要があるしな。
しかし、上級生だよな、倒したの)
そんな風に、楽観的に計画を練っていた時、
「……誰だい、君たち」
なんか、来た。
滅茶苦茶でかいのが来た。
二メートル以上のがっしりとした体の大男だ。
短く切りそろえた髪に、彫りの深い顔。
若い頃の某ターミネーターさんを巨大化したみたいだ。
威圧感が半端じゃない。
熊と対面しているみたいな感じだ。
「おう、ビックガイ、お前こそ誰だよ」
「わりぃが、ここは俺達の溜まり場になったんだ。他の奴らは出てけ」
(早速、二人が臨戦体勢になったよ、おい)
「……いい目だ。……だが、ここは聡さんのテリトリーだ。……大人しく出ていくのは、君たちだ」
(聡さん? ああ!? ヤバい、刈谷総一かよ! 絶対敵にしたらいけない奴じゃん!)
「ハハハ、アメリカンジョークかい? もしくは頭大丈夫?」
「おい、舐めてんじゃねぇよ」
俺の内心の焦りとは裏腹に、事態は一触即発の雰囲気になっていく。
「タツ、チヒロ、ちょっと黙ってろ。
なぁ先輩さんよ、俺等六人だ。それに、結構強い。一年生だからって舐めていると痛い目にあう。ここは譲ってもらえないか?」
ひとまず、交渉をしてみる。
大男の目がこちらに向く。それだけで、一歩後退ってしまう。
「……君がリーダーか。……何人だろうと、何年生だろうと、聡さんのテリトリーを奪うの奴は、倒す。……引いてくれないか。……君たちは、いい目をしている。……できれば暴力なしで解決したい」
(廉涯の中では珍しいくらいに平和好きな人だな。まぁ、互いに譲れないからどうしてもぶつかるよな)
「残念だ。喧嘩で決めるしかないみたいだな」
俺がそう言うと、
「おい、ぶっ飛ばせ」
チヒロが手下三人に指示を出した。
三人は頷くと、大男に殴りかかった。
「……そうか」
その時の彼の目は少し悲しげだった。
「……はぁっ!」
一瞬だった。
横凪ぎに振るわれた極太の腕が三人を机ごと吹き飛ばす。
三人は地面に叩きつけられて、呻いている。
「は?」
思わず、惚けた声が出てしまった。
(三人が一撃? なんという馬鹿力だよ。人間か、こいつ?)
「和麻! 来るぞ!」
俺はチヒロの声に反応し、何も考えずただ右に跳んだ。
顔の左側を、風が起こる音と共に何かが通り過ぎる。「……避けたか」
それは、大男の腕だった。
冷や汗がドッと出てくる。反射的に跳ばなければ、当たっていた。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい! 強すぎだろ!)
俺がそう思っている時も、攻撃はきた。
後ろを向き転がる。
大男の拳は、近くにあった机を破砕してしまった。
木の板を粉砕し、金属のフレームが曲がる。
(三人凪ぎ払う時より威力が増してるよな!? なんだよ、リーダーだから手加減なしかよ!)
「せぇいっ!」
タツが首筋に思い切り竹刀を叩きつけた。
しかし、
「……なかなかだが、俺を倒すには木刀ぐらい持ってくるんだな」
全く効いていなかった。
それどころか、竹刀をタツから奪い、片手で折ってしまった。
「シット!」
武器を失ったタツが下がり、チヒロが突撃した。
チヒロは大男が動く暇も与えず、体当たりを決めた。鈍い音と共に、大男が一瞬揺らいだかに見えた。
「寝とけぇ!」
チヒロが大男の顔面に、体重を乗せた右ストレートを打ち込む。
「……甘いな!」
大男はそれを右手で止め、左手でチヒロの腹を殴った。
「ぐぁっ!」
大男のパンチは見事にチヒロの腹に入り、チヒロのがっしりとした体を吹き飛ばす。
(俺の蹴りよりよっぽど強い!)
チヒロはそのまま教室の戸にぶつかり、轟音と共に戸を吹き飛ばしながら廊下に転がった。
「ファッキン、ビックガイ!」
叫びながらタツが椅子を振り回し、大男の膝を何度も強打する。
(今なら、隙を突ける!)
俺は走りだした。
「終わりだ、デカブツがぁ!」
勢いをそのままに、椅子、机へと駆け上がり、ジャンプして叫ぶ。
「うおぉぉぉ!!」
タツに気を取られていた大男の側頭部に、俺の全力の膝蹴りが突き刺さった。
俺はバランスを崩しながらも、床に着地した。
大男はフラフラした後、真後ろにぶっ倒れた。
「っしゃあ! 勝ったぞ!」
(よし、これでひとまずこの溜まり場を奪えたぞ。新しい溜まり場を作るまでここで過ごすか)
「ヘイヘーイ、床とのキスがそんなに好きかー?」
タツがふざけたことを言いながら、倒れた大男に近づく。
「……まだ終わっていない」
「へ?」
大男は起き上がると同時に、呆然としているタツにタックルを食らわした。
「あがっ!」
タツが机の積んである所にぶつかった。
タツは、机を吹き飛ばし、体がそこに埋まってしまった。
首がガクリと下がったので、多分気絶したのだろう。
大男がこちらを向く。
(うわ、みんなやられたよ。俺一人とか無茶だろ)
大男が歩いてくる。
俺は覚悟を決めた。
「はぁぁ!」
近くにあった机の足を掴み、回転して遠心力を付けた机を大男の顔面に叩きつけた。
はずだった。
しかし、当たる前に大男がパンチで机を粉砕してしまった。
(ちっ、机以上に固いものはない。特攻するか?)
「……まだ、諦めないか」大男は不思議そうに問う。
確かに今の状況では、万に一つも勝ち目がない。
しかし、逃げるのは、戦って倒れた仲間に申し訳ない。
「友達の前で逃げれるかよ」
「……フッ、良い奴だ。ますます、倒すのが惜しい」初めて、大男が笑った。
(なんか、笑っても戦士の笑みって感じだ。優しげだけど)
しかし、拳はしっかりと握られていた。
俺は走りだす。
そして、大男のパンチが来た。
体を捻って避ける。
そのまま奴の懐に入り、殴りまくる。
「おら、おら、おらぁ!」
鈍い音が響く。
奴は倒れなかった。
そして、
「……いいパンチだ」
両肩を掴まれた。
そのまま投げ飛ばされ、俺は中を舞う。
「があぁぁ!?」
廊下側の窓ガラスを突き破った。
轟音が廊下に響く。
まともに受け身をとることもできずに、廊下に転がった。
(あー、痛ぇ。負けたな)
ジャリジャリとガラスを踏み付けながら、大男がやってきた。
俺は立ち上がろうとするが、指を動かすのが精一杯で床に倒れたままだ。
廊下に叩きつけられた俺には、もう起き上がる力さえは残っていなかったのだ。
「……一年生、君の名前は?」
攻撃もせず、ただ立って喋りかけてくる。
「坂倉和麻だ。あんたは?」
「……西条権太、三年だ」
「そっか、三年かよ」
(西条権太、強敵だな)
「……そうだ。……だから先輩として、一つ忠告がある。……敵を知れ、そして仲間を把握しろ」
「わかったよ……」
(ああ、もうダメだ。意識が……)
「‐‐‐---な奴だ。聡さんに‐‐‐‐」
最後に西条が何かを言っていたが、俺には聞こえなかった。
タツがどんどんチャラチャラした奴になってきているような……。
今回は彼らに廉涯の過酷さを知ってもらうために、一対六なのに惨敗という結果にしました。
まぁ、相手がチート過ぎですが。
そしてこれは作者の方針ですが、全てが上手くいくように物語を書くつもりはないので、その辺はご理解ください。
でも、ハッピーエンドにはするつもりです。
個人的にバットエンドは嫌なので。