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私にあてがわれたのは、二階にある四畳半ほどの小さな部屋だった。普段から何の用途にも使っていない部屋らしく、床も壁も人間が寝起きして、誰かと会話を交わした後に着く、使用感のような物か希薄だった。家具は無く、天井の照明と私が寝るためだけの布団とマットレスが用意されているだけの、拘置所か独居房のような印象さえあるような部屋だった。幸いだったのは窓が大きく、日当たりのよい方向に合って昼間なら天井の照明が不要なくらいに部屋が明るいことだった。二泊三日の取材の寝床としては充分すぎる環境だった
「何か必要な物はあります?」
美菜子さんは私に訊いた。先ほどと変わらない、張りはあるがどこか柔らかい快活な声だった。
「いいえ。大丈夫です。WiFiのルーターも持ち込んでいますから」
私は自分を平静な状態に引き戻そうと必死になって、浮ついた声で答えた。
「そうですか」
美菜子さんはそう答えて、部屋を立ち去ろうとした。美菜子さんの顔が部屋の外に向いた時、私は「あの」と思わず声を漏らしてしまった。美菜子さんは出るのを立ち止まって、私を見て何か?と言った様子で訊き返すような表情になった。
「その、旦那さんと息子さんは……」
私が本当の事を言えずに語尾を濁していると、美菜子さんは急に笑顔になって、こう続けた。
「ああ、旦那は同じ中学の先輩だったんですよ。初めて出会った時は私が一年生で、旦那が三年生。新入生歓迎の頃から付き合い始めて、私が卒業するころにはもうカップルがする事は一通り全部済ませていました。その後は進学やら就職なんかで、親密にならない時期もありましたけれど」
美菜子さんは基礎的な内容を説明するように語った。その様子は自分のバイクについて自慢する語り方とほとんど同じだったが、私の中の疑問も不満も解決してくれるものでは無かった。
「旦那は住んでいる家は離れていますが、実家の農業を継いでいます。あと地元で中学校の先生になった義理の姉が居ます。私は一旦地元を離れて保育士として働いた後、戻って結婚しました。今でも地元のこども園にヘルプで行ったりしています」
「そうなんですか」
私は鷹揚に答えた後、美菜子さんの次の言葉を待った。信一郎さんと勇将くんの顔がない理由を彼女が語り出してくれるのを待ったのだ。
「そういえば、もうお昼ご飯は食べました?」
不意に美菜子さんが訊いてきたので私は咄嗟に「いいえ」と答えてしまった。
「それじゃあ、これから準備しますね。その時、色々金本さんの事も教えてくださいね」
「わかりました」
私は素直に答えてしまうと、美菜子さんは意気揚々と一階へ降りて行った。私は信一郎さんと勇将くんの顔がない理由を聞くことも出来ず、ただ立ちつくす事しかできなかった。




