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「ああ、二人が帰って来たわ」
美菜子さんが呟くと、私は来客として椅子から立ち上がり、振り返ってかえってきた二人を出迎える体勢を取る、するとリビングの扉が開いて、美菜子さんの夫と息子がリビングに入ってきた。
「初めまして、お世話になる……」
私は「金本ゆりね」とフルネームを名乗ろうとしたが、目の前の状況が理解できずに言葉が出なかった。
部屋に入ってきた二人には、顔が無かった。
すぐに次の言葉が出なかったことを不審に思ったのか、顔のない親子の父親らしき存在は「ん?」と訝しい時に漏らす呻きを上げた。私は失敗をごまかすように、慌てて「金本ゆりねと言います」としぼんだ声で名乗った。
「ああ、美菜子が言っていたフリーライターの方ですね。ようこそ飯塚家へ。私は夫の信一郎。こっちは息子の勇将です」
顔のない父親らしきものは、低く透き通った声で優しく自己紹介をしてくれた。目鼻立ちが整った、理想の男性像を詰め込んだ顔立ちであったら、妻帯者である理解しつつも、美しい女として振舞おうとしたかもしれない。だが、私の視界にいるのは男性の姿と声を持つ、顔の無い不気味な人間のシルエットだった。
「ほら勇将、ご挨拶は?」
顔の無い信一郎さんは傍らにいた顔の無い息子らしき存在に声を掛けて、挨拶するよう促した。子どものような存在は顔があれば呆気にとられたような表情で、口を半開きにして私を見つめているのだろうが、顔が無かったからそんな様子なのかは分からなかった。
「初めまして、飯塚勇将です。六歳です」
促された勇将という子どもらしき存在は、子どもらしい様子と声で私に自己紹介をした。顔があれば微笑ましく思えたが、顔が無ければ不気味な子どもモドキに思えた。
「外に停まっていたバイクは、あなたの?」
「はい、バイクでここから来ました」
私はすっかり委縮した声で信一郎さんに応えた。すると美菜子さんが不意に気づいたように声を上げた。
「そうだ、まだ泊まる部屋を案内していなかったですね。今から案内しますね。荷物も部屋に入れないと」
「はい、おねがいします」
助け舟を出されたような気がして、私は即答してしまった。




