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 朝の楽しいひと時が終わると、私と飯塚家の皆さんは昨日ホイールを交換したCX‐5に乗り込んで、フリーマーケットが開かれる場所に向かった。外の気温は低く、冷たい風が強く吹き付ける陽気だったが、雲一つない青空から降り注ぐ日差しは暖かった。

「フリーマーケットは、定期的に開かれるものなんですか?」

 私は自分から飯塚家の人に質問した。晴れやかな気持ちで自分から飯塚家の人に質問をしたのは、これが初めてかもしれない。

「コロナの後、地域の人たちが一堂に集まれるイベントは何かないだろうかと企画したのが始まりです。最初は小規模な物だったんですが、二回目から離れた地域から出店する人たちも現れるようになりましてね、今回が三回目です」

 信一郎さんは上機嫌に答えてくれた。昨日、私を気遣うような言葉を掛けてくれたから、私の事を気にかけてくれていたのかもしれない。

「これから規模が大きくなって、地域の名物になってくれるといいですね」

「そうなって欲しいんですけれどね」

 私の言葉に応えたのは美菜子さんだった。

 私たちを乗せたCX‐5は、昨日私が体調を崩した辺りを通り過ぎて、集落のはずれにある多目的広場の一角に設けられた駐車場に入った。駐車場には地元ナンバーのさまざまな車たちがもうすでに駐車しており、離れたイベント会場からは人々の賑わいの音が聞こえて来る。車を降りると、朝方よりも暖かくなった気温のおかげで、イベントの楽しい空気が強く感じられるような気がした。

 会場に入ると、入り口付近には不要になった日用品を売る店があり、その奥には隣町の窯元からやって来た陶器の販売や、木工品の販売などがあり、いかにも地方の屋外イベントといった趣が漂っていた。

「これから、別々に行動しますか?」

 会場全景を見渡していると、不意に美菜子さんが私に訪ねてきた。飯塚家と別々になるのはちょっと心細いような気もしたが、上機嫌な様子で信一郎さんに話しかけて、あらぬ疑いを美菜子さんに抱かれるのも嫌だったので、私はその提案を受け入れる事にした。

 飯塚家と別れて別行動をとると、私は土産物や雑貨を売る店のエリアから、食品を売る屋台が立ち並ぶエリアに入った。立ち並ぶのは焼きそばに広島焼、ケバブといった定番の物から、地元の精肉加工会社が作ったハーブ入りソーセージやベーコンを売る店、クラフトビールを提供する店などがあった。もし今日が最終日ではなく、自分で運転しない日であれば真っ先に飛びついただろう。

地元産の蜂蜜とレモンを使ったハニーレモンソーダを売る店があった。それに興味を持った私はその店に行き、展示用のジャーの奥にあるメニュー表を見た。

「あら、この前の人じゃないですか」

 不意に聞き覚えのある若い女の声が耳に入ったので視線をメニュー表から外すと、一昨日自転車でひっくり返って、私が助けた明坂七菜香という少女が、黒いパーカー姿で立っていた。

「ああ、この前の明坂七菜香さんね、お手伝い?」

 私は気さくに声をかけると、七菜香は少し頬を緩ませてこう答えた。

「はい、兄が婿入りした家がレモン農家で、知り合いの養蜂家とコラボレーションしてはちみつレモンを売っているんです。その手伝いです」

 七菜香はそう答えた。以前会った美和子という女性以外にもきょうだいがいるのかと思ったが、地方なら普通だろう。

「何か飲みます?」

 七菜香が聴いてきたので、私は再びメニュー表を見た。そこに『はちみつレモン・ホット/アイス五〇〇円』と書かれていたので、私はちみつレモンのホットを頼んだ。

 コインで代金の五〇〇円を支払うと、テントの奥から補充用のプラスチックのカップの持ってきたスポーツ刈りの少年が現れた。髪型からして、以前会った謙介君らしかった。

「補充用のやつを持ってきたよ。あとフタとストローも」

 謙介君は背後のテーブルにプラスチックのカップ、フタとストローを置いた。初めて見た謙介君の目鼻立ちは整っており、彼のような少年がスポーツで汗を流していたら、年頃の異性として胸に感じるものがあるだろう。

 すると、謙介君は私の視線に気づいたのか、私の方を振り向いた。少しすると私の事を思い出したのか、「ああ、この前の」と声を漏らした。

「こんにちわ。頑張っているわね」

「はい、休日でする事もないので手伝いに来ているんです」

 謙介君は少し照れ臭そうな返事を返した。

「二人とも頑張ってね」

 私が激励すると、二人は小さく頭を下げてくれた。初々しい二人の姿に、喜びにも似た満足感を覚えると、私はホットの蜂蜜レモンを持って店を後にした。


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