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 その日の朝は、私はこの集落に来てから最も楽しい朝だった。今まで信一郎さんと勇将くんの顔が無かったから、表情を読み取れず、躊躇して受け身の側に回り続けていたが、二人の顔がはっきりと認識できるようになり、表情が分かると、私も二人に声を掛けやすくなった。

「ゆりねさんの顔色を見ると、かなり回復されたようですね。体調が戻って本当に良かったです」

「いいえ、私も悪い物が身体から出ると気分が楽になりました」

 信一郎さんの言葉に、私は少し照れながら答えた。喜んだ顔の年上男性に声を掛けられると、妙に嬉しく思うのは、身体の体調がリセットされて、動物的な感覚が強くなっているからだろうか?

「表情も、なんだから晴れやかですよ」

 今度は美菜子さんが声を掛けた。〝夫は私のものよ〟と私を嗜めるニュアンスが含まれているかと思ったが、言葉には年上の女性、母親としての慈しみがある事を感じ取って私は少し安心した。この地域の男の顔が分からなかったのは、私の脳の錯覚か何かなのだろうか?と一瞬考えたが、今はこの瞬間が楽しかったので、深く考えない事にした。

 美菜子さんが入れてくれた温かいほうじ茶を一口飲むと、信一郎さんが話題を変えるようにこう答えた。

「ご存じかと思うんですが、今日は地区のフリーマーケットが開催される日でしてね、僕達もそこに行こうかと思っているんです、ゆりねさんはどうされますか?」

 信一郎さんの提案に、私は少し考えた。この体調と心理状態でフリーマーケットに行けば、それまでの不調で書けなかった分の記事が書けるかもしれない。それに、昨日から美菜子さん実家の修理工場に私のハーレーを置いたままにしていたから、それを引き取りに行く必要があった。

「私も行きます。最後にもう少しこの地域を知りたいので」

 私はそう告げた。


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