6 森の均衡に生じた歪み【森の管理者視点】
森は、生きている。
それは比喩ではない。
魔力が循環し、生物や精霊が生まれ、役目を終えれば消える。
生と死、発生と消滅、そのすべてが均衡の上に成り立っている。
私は、その均衡を監視する存在だ。
森の管理者。
支配者ではない。
神でも王でもない。
異変は、数日前から観測されていた。
低級精霊の数が、異常値を示している。
最初は誤差と判断した。森では稀にあることだ。
だが、減らない。
通常、低級精霊は長く留まらない。
自我も希薄で、魔力も乏しい。
魔法など論外だ。使えば生命活動を維持できず、消えるだけ。
それが世界の理。
にもかかわらず、記録には「戦闘」の痕跡が残っていた。
低級精霊が、魔法を使っている。
しかも、複数回。
あり得ない。
解析を進めると、さらに異常が見つかった。
精霊たちが、同一地点を中心に循環している。
戦闘。
損耗。
帰還。
回復。
再配置。
……回復?
低級精霊が、回復している?
私は即座に結論を出した。
――外部から、魔力を補給する存在がいる。
精霊とは、魔力が独立し、個として存在できるようになったもの。
魔力とは生命力そのものだ。
つまり、精霊を回復させるという行為は、
魔力を回復させているということを意味する。
魔力を直接回復させることは不可能に近い。
肉体の傷や疲労を回復させ、魔力が溜まるのを促進することはできる。
しかし、低級精霊に肉体はない。
そんなことができる存在は、限られている。
私は、興味を覚えた。
神話の記録が、脳裏をよぎる。
――精霊を癒し、精霊を従えた存在。
神話の時代、女神のような姿をした精霊たちを率いた者の、あの記述。
私は、現地へ向かった。
低級精霊の集合体。
本来なら、あり得ない規模。
そこで、私は見た。
群れの中心。
ひときわ魔力の流れが歪んでいる場所。
小さな存在が、そこにいた。
ただの聖属性の低級精霊。
支配しているわけでもない。
命令しているわけでもない。
ただ、中心に在るだけで、
精霊たちが勝手に集まり、守り、循環を作り上げている。
そして、接触することでの魔力の回復…。
確かに低級精霊どころか上級精霊にもできない芸当だが、
(神話の再来かなどと胸が躍ったが、馬鹿馬鹿しい。)
目の前にいるのはまるで違う。
従えているのは、低級精霊。
姿も力も、神話には程遠い。
期待外れ――
そう判断しかけた、その瞬間。
低級精霊たちが、私を見て、明確な敵意を示した。
守ろうとしている。
核を。
……なるほど。
私は一歩、距離を詰めた。
火、水、風、雷。
無数の魔法が、一斉に放たれる。
一つ一つは取るに足らない。
だが、数が多い。
――数の力とは、確かに恐ろしい。
だが、それでも届かない。
低級精霊たちは怯え、しかし逃げない。
むしろ、中心を守るように動いている。
「貴方が核ですね?」
その言葉を発した瞬間、
この存在がただの異物ではないことを、私は確信した。
精霊たちはこの存在に何を見ているのだろうか。




