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3 力の代償は命でした

森は想像以上に広かった。


先陣を切ったのは意外にも、ほとんど動くことのなかった土属性のテラだった。

その後ろに風属性のヴェントがついて周りを警戒している。


火属性のイグニスと、雷属性のルミナは少しピリピリした様子でそれについて行く。


最後尾に、水属性のアクアと聖属性のセラ。そして俺。


それぞれの能力に何の違いもないはずだが、まるで冒険者パーティのタンク、アタッカー、サポート、のような立ち位置になっている。

精神的なところの違いだろうか。


鳥の羽ばたく音や、虫の声が静かな森に時折響いた。


本来なら気にも留めない、もしくは自然の美しさを感じるその音さえ、今の俺達には恐ろしかった。


スライムがいるということはそれ以外のモンスターがいても不思議ではない。

スライムの餌である俺たちが敵う相手ではないことくらい容易に想像できる。


そんなことを考えていると、

ヴェントがぴたりと動きを止めた。


緑の光がわずかに揺れる。


(……警戒)


俺たちは急いで茂みに隠れた。


その先の小さな空き地。


半透明の塊が、のんびりと跳ねている。


(スライムか…)


次の瞬間。


草が乱暴に踏み倒され、

影が三つ現れた。


ゴブリンだ。


(本当にいた…)


ボロボロでサイズの合っていない服。

手には汚い棍棒。


「ギャッ、ギャッ、ギャッ」


スライムを見て笑っている。


一匹がスライムの進行方向へ回り込む。


スライムが慌てて跳ねた。 ーーその先に別のゴブリン。


棍棒が軽く振られる。


べちゃっ。


潰れない。

だが、弾き飛ばされる。


スライムはまだ生きている。


逃げようと跳ねるたびに、

別の棍棒が待っている。


べちゃっ。

べちゃっ。


ゴブリンたちは、順番に叩く。


強くはない。

殺さない程度に。


俺たちが恐れるスライムをまるでおもちゃのように扱っている。


スライムの動きがだんだん鈍くなる。


形が歪み、跳ねる高さも低くなった。その時。


一匹のゴブリンが、

急に棍棒を大きく振り上げた。


ぐちゃっ。


スライムは潰れ、

半透明の液体が広がる。


ゴブリンは、その中心から小さな核だけを拾い上げる。

そして、興味を失ったように放り捨てた。


一匹が、地面に散った粘液を踏みつける。

別の一匹が、鼻を鳴らした。


……そして。


こちらを見た。


視線が、俺たちの潜んでいる茂みに向く。


ごきっ、と肩を鳴らして、棍棒を握りなおす。


(……まずい)


一歩。

また一歩。


ゴブリンが、こちらへ歩き出した。


心臓がないはずなのに、胸の奥がバクバクとうるさい。


(逃げなきゃ…でも間に合わない…)


俺が後退しようとした、その瞬間。


テラが俺の前に出た。


小さな茶色の光が、ふわりと膨らむ。


それを合図にするかのように、他の精霊たちも飛び出した。


「は…?待て!逃げろ!」


スライムにすら勝てない俺たちがゴブリンに敵うはずがない…


セラだけが俺の近くに残ったが、俺を押して逃がそうとしてくる。


「やめろ、セラ!置いていけない!」


だが、セラは離れなかった。


白い光が俺の正面で光る。


―――逃げてください。


そんな感情が、直接流れ込んでくる。


「……っ」


空気がわずかに震えた。


ゴブリンたちは三匹そろって転倒した。

地面を見ると、不自然にゴブリンの足元だけが盛り上がっていた。


イグニスの赤い光が強く輝く。


ぱち、と乾いた音。


ゴブリンの薄汚い服に火が付いた。


「ギャッ!」


驚いたゴブリンは火をたたいて消そうとする。


しかし、突如風が吹き火の勢いは増す。

風上にはヴェントがいた。


別のゴブリンがアクアを攻撃しようとするが、水の小さな塊をびちゃりと食らう。

一瞬動きは止まったが、何のダメージもないその攻撃がおかしかったのか、


「ギャハッ!ギャハッ!」


と、笑いながら棍棒を振りかぶる。


そこに一筋の光が走る。


ばちっと空気を裂く音。


電撃は濡れたゴブリンの体を駆け巡り、そのまま地面に膝をつかせた。


―――殺せるほどの威力はない。


だが、それで十分だった。


無傷の三匹目のゴブリンは一目散に逃げ出し、その後を追って残りの二匹も逃げていった。


「…助かった?すごい!すごいぞ皆!!これならこの森でも生き抜けるかもしれない!!」


そう思ったところで異変が起きた。


精霊たちの光が一気に弱まる。


イグニスがふらつき、

ルミナの光は明滅を繰り返す。


「ど、どうした?おい……!」


テラの光は膨らみを失い、

ヴェントも今にも消えてしまいそうだ。


アクアは必死に光を保とうとしているが、

その光は不安定だった。


(魔法を使った代償…?)


「……頼むから、消えないでくれ。」


弱々しい光をほんの少しだけ明るくして、その言葉に全員がかすかに反応した。

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