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11 そういえば一文無しでした

石壁は思っていたよりもずっと高かった。

ところどころ見張り台が突き出ていて、いかにもファンタジー。


その下を、人、人、人。

荷車、商人、家族連れ――雑多な人が列を作っていた。


「荷車や馬車はこちらへ、それ以外は隣へお願いします!」


門番が列へ誘導する。


俺たちは徒歩組として、隣の列に並んだ。



「荷車や馬車はこちらへ、それ以外は隣へお願いします!」


門番の張りのある声に促され、列はゆっくりと前へ進んでいく。


俺たちはその流れに乗りかけて――

前に並んでいた男が、門番に何かを差し出すのを見て、足を止めた。


ちゃり、と小さく金属音。


門番が頷き、通行証らしき木札を渡す。


(……あれ、金いるのか、)


嫌な予感が、背中を伝っていく。


次の人も、その次も。

誰もが当然のように金を払って、街へ入っていく。


俺は、ゆっくりと振り返った。


「……みんな」


小声で呼びかけると、全員がこちらを見る。


「金、持ってる?」


一拍。


沈黙。


「……」


「……」


「……?」


期待していなかったが、ここまで揃って無言だと逆に清々しい。


「……ですよね」


セラが小さく咳払いをした。


「森を出ることを最優先していましたから。貨幣など、当然――」


「持ってない!」


ヴェントが胸を張る。


「そもそもお金ってなに?食べ物?」


「……わたしも……ない……です……」


アクアが申し訳なさそうに俯く。


「……俺も」


イグニスが短く言い、

テラは無言で土をすくって。


「…作る」


「犯罪!犯罪!」


ヴェントがテラの手から土を叩き落とす。


はい、全滅。


「……一旦、緊急会議」


俺たちは人の流れからそっと離れ、門の脇へ移動した。


見張り台の影。

視線はあるが、まだ注意される距離じゃない。


「どうする?」


ヴェントが気軽に言う。


「僕が上までみんな飛ばそうか?」


「なりません」


セラが即答した。


「正規の手続きを踏まずに侵入すれば、即拘束です」


「ですよねー」


俺は額を押さえる。


(街に入る前から詰むとは……)


その時。


「並ばないのか?」


背後から、低い声がした。


振り向くと、そこにいたのは――

明らかに“それ”と分かる一団。


先頭に立っているのは、腰に剣を下げた青年。

軽装だが隙は無く、視線は鋭い。


その一歩後ろ。

盾と重装鎧に身を包んだ大柄な男が、腕を組んで立っている。

壁みたいな存在感だ。


さらにその横には、杖を肩に担いだローブ姿。

眠そうな目をしているが、魔力の気配は隠しきれていない。


最後に、白を基調とした法衣の人物。

胸元に聖印を下げ、穏やかな目でこちらを見ていた。


(――冒険者パーティだ!!)


「何かトラブルか?」


最初に声をかけてきたのは、剣士だった。


「じ、実は……お金がなくて」


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


「ははっ!」


剣士が、腹を抱えて笑った。


「なるほどな。そういうことか」


タンクが低く頷く。


「新人か?」


「……事情は複雑で」


そう答えると、魔法使いが俺をじっと見てきた。


「ふーん……でもさ」


にやり、と笑う。


「見たところ、相当な手練れだよね?」


僧侶も、柔らかく微笑んだ。


「皆さんとんでもない魔力量です。普通の旅人ではありませんね」


剣士は腰の袋に手を突っ込み、銀貨を数枚取り出す。


「なら話は早い」


じゃら、と鳴る音。


「ここは立て替えてやる。まずは中に入れ」


「えっ?」


思わず声が裏返った。


「その代わり」


剣士が、にっと笑った。


「街に入ったら、冒険者ギルドに来な」


その一言で、俺の胸は完全に高鳴った。


(ギルド……!冒険者ギルド……!!)


セラが一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。


「……ご厚意、感謝いたします」


「気にすんな」


剣士は軽く手を振った。


「困った時は助け合いだ」


タンクが短く言う。


「街は安全だ。まずは入れ」


僧侶が門の方を見て、微笑んだ。


「さあ、行きましょう」


こうして俺たちは、

初めて――人の街へ、足を踏み入れることになった。


「ようこそ、グランベルクへ!」


重厚な門がきしみを立てて開くと同時に剣士の青年がそう言った。


一歩、街の中へ足を踏み入れた瞬間――

空気が、がらりと変わる。


石畳。

両脇に並ぶ建物はどれも背が高く、木と石を組み合わせた造りだ。

壁には看板が突き出し、通りには人の声と笑い声が満ちている。


「おお……」


思わず、声が漏れた。


露店の呼び込み。

鉄を打つ金属音。

パンの焼ける香ばしい匂い。


(……人の街だ)


「どうだい、坊主」


隣を歩く冒険者の剣士が、にっと笑う。


「初めてか?」


「はい!」


即答だった。


「いい反応だな。グランベルクは交易と冒険者で食ってる街だ。人も物も、仕事も集まる」


「だから騒がしいのですわね」


ルミナが周囲を見渡しながら言う。


「でも、活気は悪くありませんわ」


「確かに、森とは違う良さがあるな!って、アクア!早く来ないとおいてくぞ?!」


「ひ、人が、……お、おおお、多くて…」


イグニスがアクアの手を引く。


通りを進むにつれて、人通りはさらに増えていく。

革鎧を着た冒険者、杖を背負った魔法使い、商人風の男たち。

中には、怪我をして包帯を巻いた者もいた。


(冒険者って、やっぱり危険な職業なのか…)


「ほら、見えてきたぞ」


剣士が前を指差した。


通りの奥、ひときわ大きな建物。

石造りで、正面には剣と盾を交差させた紋章。


「冒険者ギルドだ」


「……っ!」


胸が、きゅっと高鳴った。


(これが……!)


「仕事探しも、登録も、金策も、だいたいここだ」


「金策……」


俺は小さく呟いた。


「ま、まずは中だな」


冒険者は気軽に言う。


「ここ最近魔物の数が多いからな、仕事は大量にあるぞ!」


そうして俺たちは、

人の流れに紛れながら、グランベルクの中心へ――

冒険者ギルドへと足を向けた。

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