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敬語でだらだら、でもリズミカルな文体でコメディ

唐突に、友人から闇バイトをするという電話がかかってきました

このシリーズは、基本、コメディなのですが、今回はイレギュラーで違います。

 唐突に、友人から闇バイトをするという電話がかかってきました。正確には「闇バイトをする」と言った訳ではなかったのですが、「臨時収入があるから借金が返せそうだ」とか「リスクはあるが高収入のバイト」とか言われたら闇バイトの可能性を疑うのが普通でしょう。

 彼に僕は十万円ほどお金を貸していて、計画性がないわりに誠実なところがある彼は、恐らくなんとか僕にお金を返そうとそんなアルバイトに手を出してしまったのではないかと思われます。

 よく闇バイトをやるような奴は頭が悪いだけだとかそんな事を言う人がいますが、そんな事は決してありません。彼は頭は悪くないし、とても優秀です。ただちょっとばかり不器用で生活管理能力が劣っているというだけで。

 だから、僕は何としても彼を助けたかったのでした。

 

 テレビ番組で時折本当かどうか疑わしいドキュメントを流す場合があります。いかにも嘘っぽく、それ自体はいかがなものかと思うのですが、それでも全否定はできないでしょう。何故なら、それが犯罪の予防などの役に立つ場合があるからです。その時が当にそうでした。

 「性悪の爺と婆らしいんだよ」

 問い詰められて闇バイトだと白状した彼は僕にそう説明しました。悪どい商売でたんまり稼いでいるのだとか。僕はそれを直ぐに疑いました。事前に観ていた嘘っぽいテレビのドキュメントと似たような内容だったからです。

 「それ、嘘だよ」と僕は言いました。

 「本当は十中八九、ただ普通に生きているだけのお爺ちゃんとお婆ちゃんだよ。お金を使わないから高額の貯金をしている老人が日本には少なくないんだ」

 「いや、でも」とそれに彼。どうも納得していない様子。僕は言いました。

 「その指示役は、証拠を出して来たのかい?」

 「ないけど」

 「なら、僕の言葉を信じてくれ。僕は君を犯罪者にしたくないんだ」

 彼は悪そうな顔立ちをしてはいますが、不器用で単純なところがあるだけで根は真面目である事は知っています。だから僕は彼に騙されて犯罪になんか手を染めて欲しくはなかったのでした。

 彼は言いました。

 「お前はいい奴だ。金がなくて困っていた俺に何度も金を貸してくれた。そんなお前を裏切りたくないんだよ」

 だからと言って、無実の人達からお金を奪って良い理由にはなりません。僕は少し考えると言いました。

 「もし仮に強盗致傷をやったら、君はほぼ100%捕まる。そうしたら、君は僕にお金を返せなくなる。しかも無期懲役になる可能性がかなり高い。そうしたら、僕は君という友人を失う事になるんだ。断っておくけど、重罪で無期懲役になったら刑務所からは出て来られないと思った方が良い。何十年間も閉じ込められて獄中で死んでしまうんだよ? 絶対に馬鹿な選択だ。

 そうなったら、その方が僕にとっての裏切りだよ」

 「でも、なら、どうすりゃ良いんだ?」

 少し考えると僕はこう返しました。

 「良い案がある。まず警察に助けを求めるんだ。このまま犯罪をすれば君は社会の敵になってしまうが、助けを求めれば、威信をかけて警察は君を守るだろう。そして、その体験談を週刊誌かなんかに売るんだ。上手くいけばかなりの高額で買い取ってくれるはずだ」

 しばらく間がありました。僕は固唾を飲んで彼の返答を待ちます。僕は彼を信じていました。闇バイトの依頼主は、彼を馬鹿だと思っているかもしれませんが、決してそんな事はないのです。賢明な選択をするはず。

 やがてこう彼は言いました。

 「爺と婆は悪人じゃないんだな?」

 その言葉に僕は安心をしました。

 「ああ、それはほぼ確実だと思う」

 彼が考え直してくれたと思ったからです。ところがです。それから彼はこう言ったのでした。

 「なら、やっぱり俺は行く」

 僕はその言葉に目を丸くしました。

 「は?! どうして?」

 「闇バイトは、俺だけじゃないからだよ。安心しろ。俺は空手をやっている。それに棒がある」

 棒?

 なんの事か僕には分かりませんでした。ですがそれから彼は電話を切ってしまい、かけ直しても出てはくれなかったのでした。

 

 それからは聞いた話です。

 闇バイトに参加したのは彼も含めて三人。彼らは老人宅に押し入り、手足をテープで縛って現金の在り処を吐かせようとしたのだそうです。指示役の言葉に従い、一人がお爺さんを殴りました。それで彼は罪状は充分だと判断したのだそうです。

 まずは体格の良い一人を後ろから鉄の棒で頭を殴りました。僕は知らなかったのですが、空手には武器術もあり、棒術もその一つなのだとか。不意打ちをくらった男はそれで動けなくなりました。

 「なにを!」

 と、もう一人が声を上げ切る間もなく、彼は今度は喉を棒で突きました。相手はゲホッと咳をして苦しがります。その隙に彼は顎を殴打。それで動かなくなったのだそうです。

 二人をテープで縛ると、彼はお爺さんとお婆さんを縛っていたテープを切って解放しました。

 二人に向けて彼は言います。

 「あなた達を襲うって話を聞いて、敢えて参加したんです。もう安心してください。警察を呼びますから」

 

 それから彼はヒーローになりました。当然ながら、テレビ番組や週刊誌のインタビューを受けたりもして、それで大金も稼げました。僕が貸したお金は倍にして返してくれました。警察も彼の活躍に感謝をし、そしてそれからは彼の真似をしたのか、闇バイトの直前で犯罪を未然に防ぐ行動を執る人達が増え、バックにいる犯罪者達も随分と動き難くなったようでした。

 つまり、彼は“闇バイトに参加してしまった”というピンチを僕のアドバイスを参考に逆にチャンスへと変えたのです。そして、世の中の役に立った。

 彼を頭が悪いと決めつけ、利用しようした連中は、きっと大いに悔しがっている事でしょう。

自分で捕まえるなんていうのは論外ですが、被害者が分かった時点で警察に通報すれば、ヒーローになる可能性はあると思います。

まぁ、その前に引っかからないのがベストですが。

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