第七話 二人の欲しい物
アレクヴェール視点
新しい友人が出来て、明らかにリアは機嫌がいい。
普段からもよく笑うが、今日は頬まで少し赤くなっていて抱きしめたいほど可愛い。
まぁリアがここまで喜ぶのも分かるから、他の奴らに見られないようにすればいいだろうと、リアを壁際にさり気なく寄せた。
「髪が伸びてきたわね。結んでみるのもいいかも」
と、リアが肩ぐらいまで伸びた俺の髪を櫛で梳きながら言い始めたのは、十歳くらいの時。
動きの邪魔になるし、従者としても剣の稽古でも師匠であるマクシムさんが短髪なのもあって短くしていたが、最近は体の使い方も分かってきて、それほど邪魔にならなくはなってきていた。
だから切るタイミングを逃してここまで伸びたのはあったけど、リアが梳かしてくれるのが気持ち良くて、そのままにしていたのもある。
「今度、髪紐を見に行ってみましょう」
ウキウキとしているのが声からも表情からも伝わってきて、俺は一も二もなく頷いた。
そんな話をした数日後、御者のジャックが買い物に出るからと、俺達も領地にある雑貨店に連れて行ってもらうことになった。
ジャックの買い物を終えて、次は俺達の番ということで、侍女のナタリーさんから聞いた女の子に人気だという雑貨店に向かった。
ジャックは馬車で待機し、俺とリアだけで入店する。
店の中は色々な物が置いてあった。その雰囲気に少し圧倒されつつも、お目当てのものを探すためにリアについて店の中を歩く。
髪飾りなどが置いてある前で立ち止まったリアが、飾ってあった髪紐を見てすぐに反応した。
「この色合い、アレクの瞳に近いわ」
そう言って手に取ったのは、確かに青みがかった緑色の髪紐だった。
少し青が強いかなとは思うが、並んでいるものの中では一番近いだろう。
けれど俺が気になったのは、別の色だ。
「俺はこっちがいい」
言いながら手を伸ばしてすくったのは濃いめの紫色。
リアもすぐに勘づいたようで、ふわっと笑った。
「もう少し赤が入るといいわね」
「中では近いのはこれだろ?」
リアが勧めてくれたのは俺の色。でも俺が欲しいのは、リアの色。
「好きな人同士はその相手の瞳の色の物を持つってジャックに聞いたから」
この頃には既にリアにも周りにも、俺はリアのことが好きと言っていたから、ファルマージャン家に勤める人達からもこの手の話題は教えてもらいやすかった。
絶対にお嬢様を喜ばせるのよ、と背中を押されたことも何度もある。
出来ることは実行してきて、今回のもジャックから教えてもらってすぐにやろうと心に決めていた。
「そ……それなら、私もアレクの色が欲しい……」
照れたように小さくなった声で俺の服の裾を握りながらそんなことを言うのは勘弁してほしい。可愛すぎて頭がどうにかなりそうだ。
「じゃあ、リアは今持ってる方、俺はこの紫にしよう」
「うん!」
「俺、自分じゃ結べないから、リアが結んでくれる?」
「もちろんよ。練習しましょう」
本当はずっとリアにやってほしいけど。
まぁ、大きくなれば今よりもっと色々出来るだろうから髪を結ぶくらいは自分でやろう。
「いつかはもっと自分たちの色にぴったりの物が欲しいわね」
帰りの馬車の中でまた可愛いことを言うから、我慢できなくてその手を握った。
それから数年。どちらかの色はあれど、両方同時に見つけることは出来なかったところ、クララック商会が現れた。
商人が、希望の色がなければお作りしますよ、と言っていたので希望を出してみれば、本当にこの色味で出来上がっていて少し驚いた。
リアはすごく喜んで、次からもクララック商会に頼みたいと願い出ていた。
クララック商会のご令嬢は、リアからすれば数年来の希望を叶えてくれた相手だ。加えて初対面であれだけ友好的に話ができたら、それは嬉しいだろう。
「もっと仲良くなれるように、たくさんお話ししたいわね」
「そうだな」
リアが喜ぶなら何だっていい。
リアに害を及ぼすようなら排除すればいいだけだ。見極めはこれからしていけばいい。
俺は、リアが幸せであれば、それこそ何だっていい。