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第四話 女神は舞う、男爵令息は踊る

とある男爵令息視点

 

 エルドーレ王国で唯一、王族の方々が通うグロワール学園は貴族の令息令嬢でも入学試験を合格しなければ入学出来ない。

 しかし、十五歳から三年間通う学園は、運が良ければ王族や高位貴族の方々とお知り合いになれるチャンスがあるため、我が子を通わせたいと思う家も多い。

 

 他国でも貴族であれば家庭教師をつけるところも多いと聞くが、この国ではよりレベルの高い家庭教師をつけて学園入学に向けて様々なことを学ばせる傾向にある、と僕の家庭教師が言っていた。

 逆に言えば、本人にその力さえあれば低位貴族でも入学可能ということで、競争率が毎年信じられない程高い。

 僕は幸運にも、歳の離れた従兄弟が学園を卒業していたため、彼に家庭教師を頼み、入学に向けて面倒をみてもらった。

 すごく厳しかったが、そのおかげで素晴らしい学園生活を送れている。

 

 そして今日は、入学して初めて第一学年の全クラスが合同で集められ、ダンスの授業が行われる。

 しかもこの授業だけは、いつも制服のところを練習用のスーツとドレスを着るようになっているため、皆少しだけいつもとは表情が違って見える。

 

 授業のダンスパートナーは事前に先生に相手が誰かを申請するので、見つけられなければ先生が決めた相手と踊る。大体が婚約者や恋人、友人同士で組むため、僕は同じクラスで余っていた者同士でパートナーを組んだ。

 

 まずはパートナーをエスコートして会場へと入るところから指導が始まり、ダンスの基礎などが教えられる。

 僕の視界の端には、密かに恋心に近い感情を抱いている御方がいて、極力そちらは見ないように気をつけながら授業を聞く。

 

 その方とは、隣のクラスのシトリア・ファルマージャン侯爵令嬢だ。

 

 初めて見た時はそのあまりの美しさに声が出なくなった。

 彼女は腰まで伸びた艷やかなストレートの黒髪に、切れ長の二重で赤紫色の瞳。小ぶりな唇は桃色にほんのり色づき、透けるように白い肌が女性らしさを際立たせている。

 背丈は女性の中では平均的だが、立ち姿の美しさからか、立ち込めるオーラからか、その何倍も凄みがある。

 

 こんなにも物語に出てくる女神様のように綺麗な子が同級生なのかと心躍ったのも束の間。

 

 直ぐ側に、恐ろしい目つきで僕を睨む男が佇んでいた。

 それこそ今もファルマージャン嬢にぴったりとくっついておきながら、完璧なエスコートをする超人。ファルマージャン家の従者であるアレクヴェールだ。

 

 ファルマージャン嬢は僕の理想の女性だったのに、その恋人が彼だと知った日の夜は密かに泣いた。

 

 だって彼には敵わない。

 

 平民ながら成績は学年上位グループに入り、剣の腕前は僕なんかは足元にすら及ばない。

 剣の授業で手合わせをした時は、僕の剣は一度たりとて彼に届かず、逆に僕は彼に手首への手刀をされたことで剣を落として終わった。僕以外も全員手刀で終わった。悲しかった。

 

 その上、顔まで良い。家族から可もなく不可もない顔と言われる僕とは大違い。

 二人が並んでいると本当に綺麗なんだ……悔しいけど。

 周りの生徒もため息をつきそうなほど美しい二人の姿に目を奪われているが、その隣にはそれぞれの婚約者や恋人がいる。

 その人達をそっちのけにして、彼らを見つめるのは駄目だろう……と、婚約者のいない立場だからこそ言える苦言もあるというものだ。

 

 まるで自分が少し偉くなったかのような気分になったところで、背後でワッと歓声が上がった。

 思わず振り返って見てみると。

 

「……ファルマージャン嬢が……舞っている……!」

 

 う、美しいぃぃ!

 ナイス! ナイスだ、アレクヴェール!

 

 皆の視線を集めた先にはアレクヴェールにお姫様抱っこをされたファルマージャン嬢が、くるくる回って二人で微笑み合っていた。

 こんなにも美しい光景があるのだろうかと、僕は息すらできなくなりそうだった。

 

 まるで二人だけの世界のようで、先生まで感嘆のため息をついている。それじゃだめだろう、先生よ。

 

 何周か楽しそうに回った後、ファルマージャン嬢を僕達から隠すように背中を向けて、アレクヴェールが彼女を床に降ろした。

 彼の体格からすると、彼女はすっぽりと隠れてしまうため、皆はもう少し見ていたかったというように残念そうな顔をして、再び己のパートナーへと向き直った。

 

 しかし僕は見てしまった。

 

 アレクヴェールが明らかにファルマージャン嬢を抱きしめていたところを。

 そしてそれを見ても、悔しいとか悲しいより、あんな風に寄り添える相手に出会えた二人を羨ましいと思った。

 

 今度の長期休暇には、父が薦めてくる縁談相手と会ってみて、僕のことを気に入ってもらえるといいななんて思うぐらいには、羨ましかった。


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