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第十五話 二人は止まらない

アレクヴェール視点

いつもよりイチャイチャしています


 リアの部屋へ入ると、備え付けのソファに彼女は座っていた。机の上に本が置いてあったから、それを読んでいたのかもしれない。迷うことなく隣に腰を下ろし、するりとその細い腰へと手を回す。

 その時に、少しだけいつもよりリアが緊張しているのが分かった。原因は間違いなく、旦那さまと俺の話の内容だ。

 

「旦那さまから聞いた。釣書を俺に見せるように言ってくれたのは、俺のためだったんだよな?」

 

 俺の言葉に小さく息を吐き出したリアは、俺の肩へと頭を寄せた。

 

「ええ。私以外にも、アレクのことを結婚を望むぐらい素敵だと思っている方々がいるってことを知っていてほしいと思ったの」

 

 腰に回していた手で、黒くまっすぐ伸びた髪を撫でる。

 スルスルと指から抜けていくそれらは、近くで見れば見るほど艶めいて綺麗で、今のリアの雰囲気も相まって儚く感じる。

 

「あんなに来てるとは思わなかった。見せられた時はリアはこれを俺に見せてどうしたいんだろうとは思ったけど。俺の考えた通りだと旦那様からも言われたし、リアは本当に俺に優しすぎるよ」

 

 包み隠さずに全てを話すことが必ずしも良いとは言えないかもしれない。けれど俺はリアに隠し事をするなんて器用なことは出来ないから、思ったことをそのまま口にすると、リアは少しだけ笑った。

 

「そんなことないわ。それに私はあれでも少ないと思っているのよ。アレクはとても優しくて何だって出来るし、勉強をしてても剣を握っててもかっこいいもの。きっと釣書が来ていないだけで、アレクを好ましく思っている方は多いわ」

 

 俺のことを優しいなんて評価するのはリアだけだと思うけど、今は否定をせずに受け取る。

 

「私にはもったいないぐらい、素晴らしい人だもの。アレクのことをちゃんと知ってくれたら、皆アレクのことを好きになる」

 

 心地良い声色だが、少しだけ不安が見え隠れする。

 それをちゃんと引き出したいし、これからリアを不安にさせる種となることなら取り除かなければならない。

 

「俺は、リアがそんな風に思ってくれていることが一番嬉しいよ。もったいないなんて言わないで。リアが一緒にいてくれたから、今の俺はあるんだ」

 

 髪から手を離して今度は肩を抱き、更に自分へと引き寄せる。

 

「……ううん。私が何かをしたんじゃないわ。アレク自身が努力をしてきたからよ」

 

 リアが首を上げたので顔を向ければ、俺を見上げていた。切なげな表情も綺麗だなんて。

 

「アレクはもっと高く評価されるべき人間なの。平民だなんて関係ないわ」

「うん」

「釣書が来るということも、嬉しいことなの。それだけ正当に評価されているということだもの…………でも……でもね、アレクには見せたくないと思ってしまう自分もいたの」

「うん」

「もしかするとアレクが綺麗だと思う方が現れるかもって……綺麗と判断するのはアレクの自由だもの。私がどうこう言えるものじゃないのは分かっているんだけど。私よりも好ましい部分があって……それが私にはどうにも出来ない部分だったらどうしようって。アレクにがっかりされるかもしれないと思ったら……もう、どうしたらいいのかしらって考えてしまって……」

 

 ……あぁ、どうしようは俺の方だ。どうしたらいい。

 リアは声が震えるほど不安がっているのに、俺は言葉に出来ない感情で胸が潰れそうだ。

 

 新しい選択肢を与えられた俺がリアから離れていくかもしれないことに怯えているなんて。

 俺達は小さい頃からお互いを、特に俺はリアが好きだと伝えてきたし、行動にも移してきた。平民であり従者の俺が貴族の令嬢と話すような機会、学園に入るまでほとんどない。それこそメロディぐらいだ。

 だからリアがこんな風に不安がるようなこともなかったはずだ。

 

 釣書という目に見えた相手からの好意はここまでの効果があるのか。煩わしいとすら感じたが、少しだけありがたく思ってしまう。

 だってリアは不安に思うほど、俺に自分のそばから離れてほしくないんだ……それだけ俺を好きだと思ってくれているということだ。

 

 嬉しいに決まっているだろう。

 

「……旦那様の部屋に呼ばれた俺のことはどう思ってた?」

「……少しだけ怖かったけど……必ず私のもとに帰ってきてくれると信じていたわ」

 

 一人で待つのは心細かっただろう。それでも健気に待ってくれたリアに、愛しさが振り切れる。

 

「アレクがすぐに来てくれて……とても、嬉しかった。すぐに隣りに座ってくれて、温もりをくれて、安心した。ありがとう、私のもとに帰ってきてくれて」

 

 見つめていたリアの瞳に涙の膜がはり揺らめいた瞬間、俺は彼女を抱き上げて足の上で横抱きに座らせていた。

 

「ア、アレク!?」

「しっ。大きい声を出すと、ジャックが入ってくる」

 

 パッと両手で自分の口を抑えるリアがあまりにも可愛くて、その指にキスをする。

 驚いたように目を丸くするリアの目元、額、頬と思いの儘に口付けていると、リアの手でそれを止められた。

 

「リア、手どけて」

「話の途中よ」

「リアが好きすぎて、ちょっと一旦俺の好きにさせて。リア、好きだ。大好きだ、好き、リアのことが本当に好き。今すぐ結婚したい。大好き」 

「……あ、ありがとう」

「何であの人は早く認めたと言わないんだ。俺がどれだけ我慢してると思ってる」

 

 塞がれた手にキスをしながら何度も好きだと告げれば、リアはどんどん真っ赤になり、指先にも力がなくなっていく。

 その手を取って指を絡ませて握りしめ、また頬へとキスを落とした。

 

「小さい時から毎日毎日好きが更新されていくんだ。どんな人がいても、リア以上には思えない。出来ることなら今すぐに結婚して、俺だけのリアなんだって周りに知らしめたい」

「……ふふ、それは……とても素敵ね」

 

 リアの表情が綻んでいき、俺の好きな笑顔が出てくる。

 

「絶対に離さないし、離してほしくない。リアもそう思ってる?」

 

 うん、と頷いて嬉しそうに俺を見つめるリアが可愛くて、繋いでいる手の甲に口付ける。

 

「また今日みたいに不安を感じたり、何か我慢するようなことがあれば話し合おう。俺にはリアが全てなんだ。リアを一人で悩ませるようなことはしたくないし、リアのことは全て知りたい」

「アレク……」

 

 少し涙が滲んだリアの目尻へとまた唇を寄せる。リアはそっと目を閉じ、俺が離れるのに合わせて目を開けた。

 

「ありがとう、アレク。私も離れたくないし……結婚相手はアレク以外には考えられないの。誰よりも大好きなの」

 

 そう言いながら、リアは上半身を伸ばして俺の頬へと唇を寄せた。

 一瞬だったがその柔らかさに、完全に心臓を射抜かれ、半ば呆然としながらリアを見る。

 

「こ……こんなこともしちゃうくらい、好きだもの」

 

 照れくさそうにはにかんだリアに、頭の中で何かがブチッと切れる音がした。

 それはたぶん、ここまでどうにか耐えていた理性だったんだと思う。

 

「リア!」

「は、はい!」

 

 ぐっと目を覗き込んで、リアの名前を呼べば、ひっくり返った声で返事をされる。たぶんちょっと怖かったんだと思う。

 それもそうだろう。この時の俺は瞳孔が開ききってたはずだから。

 

「キスしていい?」

「……え?」

「というより、キスさせて。もう無理だ。リアが好きすぎて頭がおかしくなる」

「おかしく……?」 

「うん。おかしくなる。だからお願い」

 

 懇願するのは卑怯だと思いながらも、必死にリアに許しを請う。許されるまで土下座してもいいくらいの気持ちだったが、リアは頬を赤くしながらも優しく微笑んでくれた。

 

「私もアレクが大好きだもの。アレクのしたいことをしてほしい」

 

 リアがそれを言い終わる前には、俺の体は動いていて、リアの唇へと自分のそれを合わせていた。

 

 この瞬間、俺は体中の血が沸騰したかと思った。

 

 それぐらいの衝撃と多幸感が一気に押し寄せて、正直、何が何だか分からない。初めて触れる唇はとても柔らかくて、ずっと焦がれていた感触に夢中になる。

 チュッと音を立てて少し離れて見つめ合うと、照れてながらもまた笑ってくれたリアにたまらなくなって、再び唇をくっつけた。

 

 短いキスを何度か繰り返していれば、息を止めていたのか、ぷはっと呼吸を求めてリアが口を開ける。

 俺はその隙を見逃さず、小さな口を塞ぐようにして今度は舌を差し入れる。本能の赴くままに行動し、クラクラとする心地で口付けを続けた。

 

「んっ……アレク……」

「……もう一回」

 

 気持ち良すぎて離れたくない。

 小さく震えてる指先で俺の服を掴んでいるのも可愛過ぎるし、抱き込んだ感触が柔らかくて愛らしいし、漏れる吐息が色っぽくて頭が茹だるようだ。

 これ以上やれば本当に止まらなくなると思って、最後にしようと心に決め上半身を乗り出して、よりリアに密着するようにして抱き込んだ。

 

「……大丈夫?」

「……うん」

 

 やっと口を離して問いかければ、とろんとした眼差しで俺を見上げ頷く。

 出来る限り優しく抱きしめ直して、ありがとう、と言えば、

 

「……私も……ありがとう。大好き」

 

と言ってもらえて、つい腕に力が入ってリアからはクスクスと笑われた。

 

 その日から隙あらばリアにキスしそうになる俺に、困ったような照れたような顔をしながらも、リアは二人きりの時はけっこう許してくれた。

 

「私だって、その……キス、したいと……思ってるのよ?」

 

と耳まで真っ赤にして告げられて、馬車の中だからと理性を保てた俺はすごいと思う。

 

「……全然保ててないわ」

「ん?」

 

 またもや俺の足の上で横抱きにされ、しばらくキスをされ続けたリアが頬を膨らませて抗議の声を上げたのも可愛かった。

 

 この頃から俺は、本格的にリアと結婚するために動き出した。

 そしてその機会は、思っていたよりも早く俺達の元へと舞い込んできたのだった。

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