予言するラジオ
障碍持ちで金のなくなった俺は、生活保護を申請して暮らしていた。住むところは市営住宅街。最初は地元と違って怖い所だと思ったが、住んでみれば案外平気だった。
強いて言えば、交通の便が悪いことと、スーパーやコンビニが近くに無いことだ。
生活保護でもらえる金は意外と少ない。いくら医療費等がタダだとはいえ、贅沢をして生きるには、やはり少なかった。
でも、悪いことばかりではない。ここの市営住宅街に住んでいる人の多くは、「助け合い」の精神が根付いている。俺が生活保護と知ったら、近所のおじさんおばさんが、使い古した布団や毛布などをくれた。
このラジオもそうだ。ついさっき、「要らなくなったから」と、お隣さんが俺にくれた。テレビなどという豪華なものは俺の部屋に置いていない。殺風景な部屋に、音の鳴るラジオがあることに感動した。
早速つけてみる。FMとAMがあるそうだ。沢山あるボタンを適当にいじる。音のするAM450という数字の所で止めてみた。すると、
「○○商店街のスクラッチくじ。午前〇時〇分。三万円があたる……」
という音声が読み上げられた。
まさか……。とは思うが、一度その情報を聞いてしまうと気になる。それに、スクラッチくじは一回三百円。負けてもそんなに痛くはない。暇つぶしだ。時間になったら、○○商店街に行ってみよう。
――しかし、ラジオの電源が何をしても止まらない。やはり中古品だから壊れていたのだろうか。仕方ない。音量だけ下げてラジオを付けたまま部屋を出る。
午前○時○分。○○商店街。
スクラッチくじの売り場には人の気が全くなかった。俺は、売り場のお婆さんに、
「スクラッチくじを一枚ください」
と声をかける。
「はい。当たるといいね」
結果が気になった俺は、その場で十円玉を出してスクラッチくじを削った。見えた文字は一等。三万円だった。そんなバカな。あのラジオはこの事を予言していたのか。
財布を持っていない俺は、当たった三万円をポケットに詰め込んで、市営住宅に帰ろうとした。また次の予言が聴きたい。きっと、またいい話が聴けるはずだ。俺は浮ついた顔で歩いていた。
人の気のない曲がり角に差し掛かった時、背中に何やら熱く鋭いものがブスリと刺さったような感覚がした。それがナイフだということに気が付いたのは、倒れてからだった。
全身黒ずくめの者が、俺のポケットから当選した三万円を取り出して走っていく。ははは。美味しい話には、必ず裏があるよな。俺、こんな所で死ぬのかな……。
目が醒めると、そこは病院だった。どうやら近くを散歩していた人が、血を流して倒れている俺を見つけて通報してくれたらしい。その人はなんと、ラジオをくれたお隣さんだった。
俺は、お隣さんに貰った予言するラジオの話をした。するとお隣さんは、
「あのラジオの予言には私も驚いていて。良いことばかりを予言する物だから、君に幸運が訪れるようにとあげてしまった。君の部屋から微かに聴こえるラジオの音を聴いていて喜んでいたら、〈○時〇分ちょうど。三万円は男に刺されて奪われる〉と、さらなる予言がしたもので、慌ててとんできたって訳さ。ごめんね、もうあのラジオは、粗大ゴミ置き場に捨てておいたよ」
そう語ってくれた。言いたいことは山ほどあるが、お隣さんが助けてくれたことや善意であのラジオをくれたことには違いないと思った。俺は、
「助けてくれてありがとうございます」
そう言って、即日退院した。
――とはいえ、あのラジオが気になる。俺はひっそりと深夜にゴミ捨て場に行って、予言するラジオを探した。それは、粗大ごみ置き場の電子レンジの上に置いてあった。
やたらボタンが多い。微かに聴こえる独特な機械音。間違いない。あの予言するラジオだ。
俺は音量を上げて、予言を聴いた。
「……奪われた三万円は犯人によって焼肉に使われる。そして、刺された男は犯人によって殺される。なぜなら。今、後ろに刃物を持ったお隣さんが――――」