胃に穴が開きそう
◆注意◆
この話の真ん中辺りでサニーに対して一方的に軽度のセクハラ表現あり。
(※神様への報告後からちょっと怪しくなります。)
苦手な方は薄目で読み飛ばしてやり過ごしてください。
クーヴェルト助祭は辺りを見回すと左側の本棚の方へと足を向けゆっくりと遠ざかっていった。
何だ、単に探し物があっただけか。と知らずに強張っていた身体から力が抜けた。その時視線を感じふと見たファレノが訝しげな表情で私を見ていた。
「やっぱりクーヴェルト助祭と何かあったんだろ。そんなに身体を強張らせて、怯えている様に見える。俺には話せない?それとも話さないように言われてる?」
「ううん、ううん、何もない。会ったのだってこの前が初めてだし、本当に」
「アア、ここに居たんですネ。」
その声に反射的に私の身体が硬直すると、それを見てとったファレノが椅子から立ち上がり私とクーヴェルト助祭との間に立つと庇うような体勢を取った。
駄目だ、危ない。
そう思うも私は恐怖で思うように動かない身体を叱咤し何とか後ろを振り返るとファレノの背中に手を伸ばした。
「どうしたノです?ファレノ。貴方に用はないのですガ」
「クーヴェルト助祭、友人が怯えています。無礼を承知で言わせて頂きますが、こちらに近付かないでもらえませんか。」
「ファ、ファレノ」
ああー!ファレノ!刺激しないで!庇ってくれるのは大変嬉しく思うけれども君が危ない!って口が全然回らない!
クーヴェルト助祭の目が細められると彼の後ろにいた私の姿を捕らえた。そのまま無言で互いの瞳を見詰め合った。
まるであの時の再現だ。間に守りたい人が挟まれていることを除くと、だけど。
しかし、悪魔が何を考えているのか本当にわからない。
想像していた様な悲惨な修羅場にはならず、そこにはただ静かな時間があった。
そう、立ち塞がるファレノに暴力を奮うでもなく、感情のままに回りを破壊するでもない。本当にこの人は悪魔なのか、疑ってしまう程にその狂暴性は身を潜めている。
しかしその瞳は赤いし髪は黒い。その事が紛れもなく彼が悪魔であることを示していた。
では何故教会の人達はこの如何にも悪魔然とした容姿を持つ彼を受け入れているのだろう。
ファレノもこの前は普通の人間相手と変わらない対応をしていた。
何故、私が、おかしいのだろうか。
思考の海にダイブする寸前で悪魔は目を閉じファレノに応じた。
「そうですカ、それは悪いコトをしまシタ。ではマタ、時を改めまショウ。○○」
クーヴェルト助祭は最後に聞いた事のない言葉を喋ると、口に笑みを浮かべ静かに書庫から出ていった。
詰めていた息が私の口から長く吐き出される。
何なんだあの悪魔は。悪魔ってもっとこう、血だー!肉だー!オラオラ糞雑魚共泣き叫べー!
って感じじゃないの?私他の悪魔を知らないからそんなイメージを持っていたんだけど。
昔、村人も恐らく彼が、村単位で大量に殺したらしいし。証拠はないんだけど。どうなってるんだ。ああー!わからーん!
疑問で頭が一杯になっているとファレノに肩を捕まれて、説明を求められた。
私が言い澱んでいるとファレノは自分の思っていることを明かしてくれた。
「あんまり考えたくない事だけど、もしかしてクーヴェルト助祭がサニーを襲った犯人なんじゃないかと、俺は疑っている。
でなければサニーがあんなに怯えるとは思えない。彼が居るだけで明らかに様子がおかしくなるし。無理に思い出せとは言わないけど、少しでもその可能性があるのなら、サニーはもう教会に近付かない方がいい。司祭様にもどうにかならないか相談してみる。」
真剣な目をして話す彼は、真摯に私の事を考えてくれていた。でも真実を明かせばファレノまで危険な目に遇うかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。
最低でも悪魔がここにいる目的が判明するか、彼が人間に危害を加えないと確信が持てるまでは話すわけにはいかない。
私が悪魔を恐れるあまり監視が疎かになるのも避けたい。
そして、せめて今話せる分だけでも本当の事を彼に伝えたい。
私は決意を込めて彼の瞳を見詰めると、彼も応えるように目を合わせ頷きをくれた。
「ファレノ、今はまだ詳しくは言えない。でも打ち明けられる時が来たら、必ず全部話すよ。だから信じて待っていて欲しい。私が彼を恐れるのにも理由があるけれど、でも、もしかしたら私の思い違いなのかもしれないし。上手く言えないけど。私は、彼の事を知らなくちゃいけないんだ。」
ファレノは、私の言葉を聞き終わると静かに瞳を閉じた。そして、また開いた時には何時もの優しい雰囲気に戻っていた。
「分かったよ。サニーがそう言うなら、待つ。でもサニーはまだ七歳だ。俺も子供で頼りないだろうけど、一緒に考えることくらいは出来るし教会の内部は少しならわかる。人間関係とかな。勿論司祭様程じゃないけど。俺に出来る範囲で協力はするし、無理そうなときは一緒に司祭様に頼みに行こう。だから、一人で抱え込まないでくれ。」
「ファ、ファレノ!」
その胸に飛び込むと、力一杯に抱き締め高ぶった感情のままに叫んでしまった。叫ばずにいられようか。私の親友がこんなにも頼もしい!神様、感謝します!
ファレノは私が満足するまで優しくあやすように背中を撫でてくれた。
「さて、クーヴェルト助祭の事は一旦保留にして、折角書庫にいるんだから出来るだけ文字を覚えてしまおう。覚えたら一通り書いてみて、簡単な本を声に出して読んでもらおうか。」
「ファ、ファレノ…」
そこから本気のお勉強モードになったファレノは夕方まで私を離してくれなかった。
お陰様で簡単な読み書きが出来るようになった。これは神様にも報告して誉めてもらおうかな、なんて。
帰りは書庫から警戒しながら出たが、クーヴェルト助祭の姿は見当たらなかった。
今のうちにと急いで鍵を返しに行き何事もなく孤児院へと帰ることが出来た。
教会に向かう前に干していった洗濯物を回収し、部屋に戻ると丁度夕食の時間になったので食堂に向かい美味しく晩ご飯を頂いた。そして今日こそお風呂に入るべく再び部屋に戻りお風呂セットを持つとファレノと共にお風呂場へと向かった。
結論から述べると期待以上に気持ちが良かった。
洗い場からもうわくわくが止まらなかったが、お作法通りに先に湯をかけて身体を洗い、洗髪も済ますと髪を上の方で纏めてからお湯に浸かった。
「んあ~~~~」ってのに濁点をいっぱい付けたような声が出て隣で一緒に浸かっていたファレノや他の子達に笑われて、わかるわかると頷かれた。
こうして私は無事お風呂デビューを果たしたのだった。
部屋に戻るとレオスがまた机に向かって書き物をしていた。何を書いているのか聞いてみれば字の練習をしていると答えが返ってきた。目指している職に就くためには字が綺麗な方が有利だと現役の先輩に教えてもらって字母から練習し直し、今はよく使われる例文なんかを書いているらしい。
ちょっと見せてもらったらお手本の字の様に綺麗だった。凄い。私も練習をしようかしら。字が綺麗に書けるのってカッコいい!
オリバーはもうお眠の限界なのかさっさとベッドに入って寝てしまった。寝る前にふらふらになりながらも包容だけして頂いた。可愛い。
ベックは相変わらずよく分からない目で私を見てくる。目障りなら見なければいいのに。
マーディンはレオスの隣でパンの構想を練っている。絶対に邪魔はできない。良いアイデアが出て美味しいパンになるよう神様に祈っておく。
ファレノは用事があると部屋を出ている。早く戻ってこないかな。
と、こんな感じで平和に夜の時間を過ごし、皆に就寝の挨拶をしてから眠りについた。いや、眠りに就く前に神様に報告だ。どうやったらいいんだ、とりあえず祈ってみた。
_________
神様、神様、聞こえていますか?こちらサニーです。
本日の報告です。
今日は教会の書庫へ行きました。その時悪魔と接触しましたが彼は特に暴れる事もなく、乱暴な口も聞かず、私の親友が凛々しく言放った「近付くな」と言う言葉に従いその場を去りました。
その前に彼と少しの間見詰め合う事態になったのですが、相変わらず感情の読めない赤い瞳と艶のない黒い髪をしていました。
しかし、そこで私はふと疑問を抱きました。何故教会の人達はこの如何にも悪魔ですという色合いの人を身近に置いているのだろうかと。あの親友ですら以前は普通の人間にするような態度をとっていたのです。
もしかして私にだけそんな色に見えているなんてことありませんよね?ちょっと不安です。
親友にはどんな色に見えているのか聞くのを忘れていました。明日聞きます。
こんなものでしょうか。あ!あと私今日親友に教えてもらって簡単なものですが人間の字の読み書きが出来るようになりました。
それと、初めてお風呂に浸かりました。最高でした。神様にも入ってもらいたかったです。
あ、そう言えば、悪魔が去るときに悪魔語、って言うんですかね?よく分からない言葉を喋っていました。でもその後も今のところ異変があるわけでもないので、呪いの類いでは無さそうです。
以上です。
明日はもう一度教会に行こうと思います。
では、おやすみなさい!
________
これで大丈夫かな?何かの記録に残ってれば良いんだけど。相槌とか何か反応が欲しかった。
毛布を肩まで上げてふと思い立ち、目の前のカーテンを開けて隣のベッドを見やるとファレノのベッドのカーテンは閉められていた。どうやらいつの間にか戻ってきていたようだ。良かった。
小さな声でおやすみと声をかけると満足してそのまま眠りに落ちた。
真夜中、夢現に人の気配を感じた。もしかしてファレノがまた添い寝でもしてくれるつもりなのだろうかと思い、天井を向いた体勢のままで眠りに戻ろうとしたとき毛布が持ち上げられるのがわかった。
やっぱり添い寝してくれるっぽいな、と思い温もりが寄り添うのを待っていると中々入ってきてくれない。
ちょっと寒いな、なんて感じ始めたときに頬に冷たい手が触れる感触がした。まるで死人のような冷たさのそれに、この人物はファレノではないと思い至った。
驚きに目を開けようとするが身体がまるで石にでもなったかように指先一つ動かせない。
そんな状況に叫びだしたくなる自分の意識とは裏腹に呼吸も心音も乱れることはなく、その異常事態に思考ばかりが空回るばかりだった。
何も抵抗が出来ない内に冷たい手は何度か顔を撫で頬から滑るように首筋を辿り肌着越しに胸の上を、下腹部を撫でるように通るとそのまま躊躇いもなく股間へ。手に触れたものを一纏めにして揉んだり脚の間に指を這わせたりしてきた辺りでもう限界だった。
ちょちょちょっ、かっ神様!神様ー!もしもーし!元部下ピンチです神様ー!ファレノォーー!
必死で脳内で救難信号を発した。するとそれに応えるように背中の聖痕が熱を持ち始め、それが身体中を覆った瞬間、弾かれるようにその手は離れていった。
それと同時に身体の硬直が解け、心臓が激しく鼓動し震えが来てすぐに起き上がることが出来なかった。
毛布を何とか被り直すと暫く横になったまま耳をすませ、目で見える範囲に不審者がいないかと神経を研ぎ澄まし探ってみたが、自分の心音と漏れる息、皆の寝息や寝返りの音がするだけで他の者の気配は感じられなかった。まだ室内に居るであろう冷たい手の持ち主がどこに潜んでいるのか気が気でなかった。
と、その時手の甲に何かが触れた。反射的に手を引き、しかし再び用心しながら恐る恐る手を下ろしていくと指先につるりとした質感の何かがあり、拾い上げて見てみればそれは黒い小さな珠だった。
寝る前はこんなのなかったと、指先で摘まんで色々な角度から観察しているとそれは突然、幻の様に消えてしまった。
もう、わからないことだらけである。
あのセクハラをしてきた手も、それを撃退してくれた聖痕の不思議な神パワーも、消えた黒い珠も。
とりあえずもう何も考えたくない。明日の事は明日の自分に任せて安全を確認したらもう寝よう。うん。
起き上がれるまでに落ち着きを取り戻した私はベッドを静かに降りて室内を慎重に見て回った。変質者がいる所では寝れたものではないし、皆が危ない目に遭わないとも限らないからだ。
隠れられる所として、机の下を見たり一人ずつカーテンの隙間からベッドを覗いていった。変質者は室内にはいない。
ならばと扉を少し開けて廊下に顔覗かせて見るもそこには静寂があるだけだった。
では先程自分が遭遇したあの冷たい手の主はどこから来てどこへ消えたというのか…
不気味な恐怖に身を縮め今日はもう一人では寝れない気がしてファレノの所に避難させてもらうことにした。
明日落ち着いたときに相談しよう。
毛布と枕を持って静かに隣のベッドのカーテンを開けて、彼の寝顔を確認してから少し強引に彼の横へと滑り込んだ。
彼から寝惚けた不満の声が漏れたがまたすぐ眠りに落ちたようだ。寝心地のいい場所を探り落ち着くと、彼の健やかな寝息に誘われるように私も再び眠りについた。
結局その日は神様からの呼び出しを受けることもなく夜が明けた。
「おはよう、朝だぞ。」
控えめな音量の聞き慣れた声に鼓膜をくすぐられ眠りを妨げられる。気持ち良く寝ているのに、と無視していれば毛布を剥ぎ取られた。
それでも丸くなって寝ようとすれば起きて来たベックに見付かり、彼は眉間に皺を寄せ喧嘩腰に言葉を吐いた。
「うわ、お前ら一緒に寝てんのかよ、気持ち悪い。」
心底嫌そうな表情で述べるそれに、ファレノは至って冷静に言葉を返した。
「ベック、そういう事は例え思っていても口に出して言うのは止めろ。憎まれ口を叩いていると結果的に自分が損することになるぞ。」
「ふん、煩せえよ、偉そうに!」
ベックはそう言い捨てるとファレノの肩にわざとぶつかる様にして部屋を出て行ってしまった。
朝からベックを不快にさせ二人がが険悪な事になってしまったのは私がしたことが原因なので申し訳ない気持ちになる。
ファレノのベッドから這い出ると毛布と枕を抱え自分のベッドに戻ろうとするが、その途中で肌着の裾を引っ張る存在が現れた。
「おはようサニー。僕もサニーと一緒に寝たいなぁ」
オリバーだ。髪の毛が一方向に勢いよく跳ねた寝癖が付いている。可愛い。
「おはようオリバー。じゃあ今日は私と一緒に寝てくれる?」
「うん、一緒に寝るぅ。どっちのベッドで寝る?楽しみだなぁ、早く夜にならないかなぁ!」
小さな顔の前に小さな両手を添えてうふふと笑むオリバー。なんて可愛いらしい、天才!癒された。
「ファレノ、朝から嫌な気分にさせてごめんなさい。」
「別に謝る程の事じゃないし、気にしてない。最近ベックの奴、妙にカリカリしてるんだよな。」
「まあ、何にせよ複雑な思いでも抱えてんじゃないのか?まあ、あんまりにも酷くなるようならフォローしてやるから」
何やら訳知り顔のレオス先輩が朝の身支度を終え笑いながらそう言った。
今からでも遠慮なくフォローお願いします。
レオス先輩は一足先に食堂に行くようで、私は持っていたものを急いでベッドに戻すと洗面道具を持ち、オリバーと手を繋ぐとファレノに声をかけ一緒に洗面所の方へと向かった。
因みに今日はマーディン先輩が朝の食事当番らしく結構前に部屋を出た様だ。
洗面所でまたもベックと会い睨まれたりオリバーの寝癖を直したり自分の用意をしたりして、皆揃って食事へ移動した。
今日もハチャメチャにご飯が美味しかった。
夜中にあんな目に合ったのだから食欲なんて失せてるかと思っていたが、全然そんな事なかった。もしかしたら私、神経が図太い方なのかもしれない。
オリバーは今日は友達と勉強すると言い楽しそうに食堂で別れた。
私達は一度部屋に戻り今日の予定のすり合わせをすることにした。
室内に入ると無人で、どうやらベックもあのままどこかへ出掛けたらしい。好都合だ。
まず今日の予定を決める前にファレノに聞きたかったことを確認して、昨晩の不思議な恐怖体験の話も聞いてもらおう。
落ち着いて話が出来るように窓際の方に移動して椅子に腰かける。
どう切り出そうか悩むが、話し出せば何とかなるの精神で意を決して口を開いた。
「あの、クーヴェルト助祭の事なんだけど、ファレノから見て、えと、どんな色してる?あと出身地とか?知っていることがあれば教えて欲しい。」
「ど、どんな色?例えば髪の色とかか?まあ聖職者にしては少し濃い目の灰色だと思う。珍しいよな。瞳の色は茶色だな。あと出身地はここからずっと西の方に行った所にあるモタンっていう所の出身って聞いたな。シラキで修道院に入って助祭にまでなって、最近ここに転勤して来たって話。」
「ありがとう。そうなんだ。出身はモタン、ていう所で、シラキの修道院で助祭に、か。」
モ、モタンって消えた三つの村が嘗てあった地域じゃなかったっけ?わ、わああ。神様、あいつが犯人です。
それにやっぱり見た目の見え方が違うっぽい。どう言うことなの?ああ、今晩報告する事が増えていく…
「サニー、大丈夫か?顔色が悪くなってる。手も血の気が引いたからか冷たくなってる。無理するな」
ファレノが私の手を摩りながら心配そうな顔をしている。こんな調子じゃ駄目だ、落ち着け私。深呼吸。
そしてそのまま両手を握られてあの話を始めた。
「それとさ、ファレノ。昨日の夜中に変なことがあって。」
「ん、変なこと?」
それから昨夜の不思議な恐怖体験を話した。話しが進むにつれファレノの顔が無表情になっていくのが怖かった。
長い沈黙のあとファレノが出した答えはこう。
「それは夢魔の一種じゃないか?」
「夢魔、夢魔か。言われてみればそうなのかな。消えたし。でも私その時夢は見てなかったんだよ?いや、見てないと思わせておきながら実は夢を見ていたのかな?でも証拠になる黒い珠も消えちゃったし…ええ、夢だったのかな。わかんなくなってきた」
夢魔か否かで混乱の最中にある私の隣では眉間に皺を寄せたファレノが暫く考え込んでから、司祭様に相談しようと提案してきた。
「昨日あんなに格好付けたことを言っておいて早々と司祭様に頼るのも情けないけど、サニーがこれ以上変な目に合う方がよっぽど嫌だし。それに、今日司祭様が帰ってらっしゃる予定なんだよ。」
教会に寄った後に一度司祭館の方に荷物を置きその後孤児院にも顔を出すらしいので、その時に相談に乗って欲しいことを伝えて都合のいい日を教えてもらう。
それまでは暫くファレノと一緒に寝るという事で話がまとまった。
今晩はオリバーと寝る約束をしているので明後日からファレノと寝ることにした。
「話を聞いてもらって何だか心が軽くなったよ。ありがとうファレノ。」
「まだ何も解決してないけどな。そう言ってもらえるとこっちも救われるよ」
お互いに笑いながら、じゃあ今日は何をするかという話になった。
私は今日も教会に行ってクーヴェルト助祭の様子が見たいと直球で言ってみた。
ファレノは頷きで肯定を示した。
そしていよいよ教会に行こうと孤児院の玄関に向かったとき、入り口にオリバーと一緒に大きな人が立っていることに気が付いた。
隣のファレノも気が付いた様で動きが止まっている。
背中に嫌な汗が滲む。嫌だ、直視したくない。
「サニーにお客さんだよぉ。」
「助祭さんだよ!孤児院の前でじっとしてたから声をかけてみたんだ!」
「何をしてるのか聞いたらサニーお兄ちゃんを待ってるって言ってたからさ」
「それなら、と思いましてサニーさんをお呼びに来ましたの。お外でお待たせするのも失礼かと思いまして、こうして中に」
オリバーの他に今日一緒に勉強すると言っていた子供達が我先にと話し出した。
そもそも君たち今日は室内で勉強の予定だったでしょ、何で外から帰ってくるの。小さい子自由過ぎる。
「でしたら教会の方でお話しましょう。俺達も今から向かうところでしたので。ね、サニー。」
私の手を握りこちらに視線を向けたファレノはそう促す。何か考えがあるのかしら。
そうか!このままここに居て万が一にも子供達に何らかの被害が出たら大変だからこの場を離れる事にしたんだ。
この提案には乗った方が良いと思い私も急いで頷きを返した。
上の方から視線を感じる。きっとあの赤い瞳でこちらを見ているのだろう。怖いから見ないで欲しい。
「オリバー、みんな、俺達は助祭様と一緒に教会に行くから、君達は勉強の続きをしたらいいよ。案内してきてくれてありがとう。」
「いいえぇ、どういたしましてだよぉ。」
「ではわたし達は植物の観察に戻りましょう。」
ファレノは子供達の頭を順番に撫でると来客の対応について礼を述べた。子供達はくすぐったそうに笑みを浮かべて、口々にクーヴェルト助祭に向けて「失礼します」と挨拶をしてから玄関を元気に出ていった。
最後に出た子の手には重そうな図鑑が収まっていた。
「ではクーヴェルト助祭、俺達と一緒に教会に戻って頂くということで宜しいですか。」
「ああ、構わないですヨ。じゃあサニー、行きまショウか。」
クーヴェルト助祭の手が私に向かい延びてくるがファレノがそれを防いでくれた。
「道が少し狭いですから縦一列になって行きましょう。」
と。ひゅー!上手いこと言うねえファレノ、ありがとう!
クーヴェルト助祭を先頭にファレノ、次いで私の順に並ぶと私達は教会まで歩き出した。




