こんなに早く出てくるなんて聞いてない
ごめんね
孤児院の裏庭にある井戸で、主にファレノが手早く洗濯物を洗い、絞り、洗濯ロープへと干していく。今日は私の分までなんやかんやで洗ってもらってしまったが、後日洗い方から教えてくれる事になった。すみません。
そうして昼下がりに揃って教会へと向かった。
教会は入り口を潜るとホールがあり真っ直ぐ聖堂へと繋がっている。そして、左に小部屋
が二部屋、右側が書庫になっているそうだ。
司祭様に時間があるときは司祭館の方に置いている本も読ませてもらえるみたいだけど、今日は不在なので教会の方へお邪魔することにしたみたい。
教会は司祭様の他に助祭二名と修道者が二十名で管理されているようで、今日みたいに司祭様が不在でも滞りなく教会の機能を全うすることが出来るらしい。へー。
目的の書庫に入るには鍵を開けてもらう必要があり、ファレノは鍵を扱える人を探して来るから書庫の前で待つよう言い、探しに行ってしまった。
私は教会内で一人で聖堂以外の場所にいるのが初めてだったので、つい回りに目をやりながらふらふらと歩いて前方への注意を怠ってしまった。結果、人とぶつかってしまい尻餅を付いた。
「わっ」
「オ、と、すみまセン。おケガはないデスか?」
すっと差し出された手を支えにして起き上がると私は言葉を返した。
「大丈夫です、すみません。前をよく見てなくてぶつかってしまいました。」
この辺じゃ聞かないイントネーションに大きい街なのでそりゃあ色んな人が来るよね。と、思いながらその人物の顔を見た瞬間、雷に撃たれた様な衝撃が走った。
な、なんでここにいるの?!
それは嘗て天使だった頃に一度だけ出会ったことのある悪魔だったからだ。
いや、悪魔そのものではないだろう。悪魔ならば教会のような神聖な場所、神の領域には入れない筈だし仮に入れても相当な苦痛を伴うと聞いたことがある。こんな普通にはしていられない筈だ。
私が悪魔と遭遇したのは、まだ幼い姿をしていた頃のこと。私は好奇心が抑えられず天界と魔界の境目がどうなっているのか探検しに行ったことがあった。
当時から天界と魔界は冷戦状態で互いに接触しないように境目からある程度の距離は双方立ち入り禁止という事で合意していた。
なので、そんなところで悪魔と遭遇するとは夢にも思っていなかったのだ。今にして思えば考え甘々で馬鹿だった。
鼻唄混じりにその辺で拾った棒を振り回して呑気に飛んでいた時、魔界からちょっと外れた天界の領域で一匹の黒い小さな生き物を見付けてしまった。遠くの方から観察してみればそれは苦しそうに身を捩っていた。
黒い生き物は悪魔か悪魔の使い、または魔物と相場が決まっている。
そいつはきっと何かの弾みで魔界から転がり出てしまい動けなくなってしまったのだろうと思った。だって形がとても丸かったから。恐れ知らずにも間近に見てみれば、真ん丸でふわふわで円らな赤い瞳が何とも可愛らしかった。
他の天使や神様に見つかったら浸入した方が悪いとして消されてしまうかもしれない。だから見なかった振りをして魔界側に叩き戻してやったのだ。持っていた棒で。丸いから良く飛んだ。
幼さとは時に残酷なものなのだ。
これでもう事件は解決!一つの命を救ったと満足をしたが、めでたしめでたしとは終わらなかった。
魔界側にホールインワンした丸い毛玉は魔界の瘴気を一気に吸い込んでみるみるうちに巨大化し弾けて中から一人の悪魔が姿を現したのだ。
そう、丸くか弱い毛玉とは仮の姿。実態は私など指先一つで消すことが出来る大人の姿をした悪魔だったのだ。
あんまりにも想定外の事態に目が釘付けになった。太く長い尻尾に鋭い爪。羽織った黒い毛皮の下には筋骨粒々とした身体。血の色を思わせる赤い瞳に艶のない黒髪。
私は恐怖した、絶望した、産まれてたった数十年で消えてしまうのかと。きっとあの時人間だったなら穴という穴から体液を吹き出しビビり散らして失神していた事だろう。
私は動けないでいた。視線を反らさず相手の出方を窺うことしか出来なかった。
その時一歩、悪魔が前に進んだ。私は一歩下がった。
どのくらいの時間が経っただろうか、目を逸らすことなく悪魔を見ていると心なしか元気がない気がした。もしかしたら凄く消耗しているのかもしれない。さっきまでこちら側にいたのだ、そうに違いない。ということは、今なら逃げ切れる可能性がある。よし。
「あ、悪魔さん、何だか元気が無さそうだから、お家でゆっくり休んだ方が良いよ。じゃあ私行くね。」
よくもあの場でそんなに口が回ったものだと思うが、バイバーイと、精一杯の愛想笑いをしてその場を猛ダッシュで、いや猛飛行で逃げ帰った。
その記憶が一気に蘇った。
当時の上司である愛の神様にも報告はしていない、封印していた記憶である。今の今まで完全に忘れていた。
「あ、」
キャパオーバーで失神しそう、いや失神している場合じゃない。ファレノはどこにいる?早く連れて逃げないと。
しかしそんな思いとは裏腹に足に力が入らずその場にへたり込んでしまった。全身があり得ないくらい震えているのがわかる。血の気が引きすぎて吐きそうだ。
目の前の相手はそんな私の様子に気付いていない訳がない。だってまだ手が触れあっているのだから。
「あ、いたいた。クーヴェルトさん、そんなところに居たんですね。って、どうしたんだサニー、顔が真っ青だ」
駄目だファレノこっちに来ては、首を左右に振って彼を拒むが容易く私の元まで来てしまう。
彼は私の空いている方の手を取ると、驚きに目を丸くした。
「何でこんなに冷えて震えて。すみません、クーヴェルトさん。書庫で勉強をさせてもらおうと思って来たのですが、友人の様子がおかしいので今日はもう戻ります。呼び止めてしまってすみません。」
そう言うとファレノは腰の抜けた役立たずな私を背負い急いで孤児院へと連れ帰ってくれた。
部屋に戻り私は手早く肌着姿にされるとベッドに寝かされた。ファレノは私の毛布の上に更に彼の毛布を重ねて掛けてくれた。
震えはまだ治まらないが気持ちは少しだけ落ち着いて来た。彼は一度部屋を出ると箱を手にして戻るとカーテンを閉め私の横に座った。
「サニー、目を瞑って楽にしてて。効果があるか分からないけど気休め程度には楽になると思う。」
「ファ、ファレノ、あのさっきの修道者の人は知り合い、なの?」
あの人悪魔だけど、とは口が避けても言えやしないけど。正体を知られた悪魔が何をするかわからない。
ファレノは箱から何かを取り出しながら答えてくれた。
「クーヴェルトさんは修道者じゃなくて先月に助祭として受階されて教会にお勤めされている人だよ。彼に何かされたの?」
「いや、私がぶつかってしまって、助け起こされた、だけ」
ファレノは少し何かを考える様な仕草をして、座った体勢から私に添い寝する形をとった。
「俺の主神は治癒の神様なんだけど、お祈りできっと心も落ち着かせてくれると思う。この像のお方なんだけど。」
と視線で促され下を見れば彼と私の身体の間に美しい姿をした像が置かれていた。
「神様のお姿を模したものを媒介にすると祈りの効果が上がると、前に本で読んだことがあるんだ。この像は実は司祭様の私物なんだけど、前にサニーの背中を治療した時に司祭館から借りて来てまだ客室に置いたままだったのを思い出して持ってきたんだ。」
「そう、なんだ。本当に勉強熱心だね、ファレノは」
私を落ち着かせる為なのか普段より口数の多い彼は優しい口調でゆっくりとそう話す。
私も見習わなくちゃねと続けて言うと、彼は向かい合った私の背中を毛布の上から優しく撫でながら
「ほら、お祈りを始めるから目を閉じて、力を抜いて、なるべく楽にして。息を深く吸って、吐いて」
私は彼の言葉に従い、聞こえてくる優しい祈りの言葉に身を任せた。
__________
はっ、ここはどこ?
そこは何時もの見慣れた魂センターの謁見広間ではなく、布の多いふわふわした空間だった。
「あなたが噂の問題児ね。私の可愛い子が必死に癒しを求めるものだから、何事かと思ったわ」
優しく響くソプラノに、条件反射で跪く。
「前回はまあまあ酷い怪我をしていたようだけど、今回は怪我も見当たらないし、もう直接呼び出して聞いた方が早いと思ってあいつに許可も取らずにここに呼んだのだけれど、何があったの?」
あ、あいつとはまさか導きの神様のことでしょうか、いや、今はそんな事はどうでもいい。
「教会に、悪魔が現れました。」
そう言った瞬間肌が粟立った。治癒の神様からただならぬ神気が一瞬溢れ出たせいだ。
「そう。でもおかしいわね、あの教会はちゃんと機能しているのに。悪魔の様子は?どんな姿をしていたの?」
「それが、教会にいるというのに苦しむ様子もなく、しかも助祭にまでなっていました。姿は、黒い髪に赤い瞳、角は生えていませんでしたがあいつは間違いなくあの悪魔でした。」
姿を思い出すだけでも背筋が寒くなる。こうして話している間に孤児院が襲撃されてやしないだろうか。
「あの悪魔だった、とは。あなたその悪魔に以前も遭遇したことがあるの?あるとして生きて帰ってこれたと?そんな口振りに思えるのだけれど」
あ、と思ったときには遅かった。その反応で察しの良い神様に見抜かれてしまった。
「ここ四百年程は悪魔と冷戦状態とはいえ揉め事もなく平和が続いているのだけれど、あなたはいつ、どこで悪魔と遭遇したというの?仕事上夢魔になら会うこともあるでしょうけれど、彼らは角を持っているし、それが力の源なのだから切り捨てる事など出来ないわ。」
「はい、仰る通りです。」
「他に業務上出くわすとしても人型をしていないもののはずよ。人型で、角がなく、赤い瞳を持つ悪魔と、いつ、どこで、どんな状況で遭遇したというの?正直に答えなさい。」
こ、怖い。でもこれが切っ掛けで万が一にも戦争が再開するなんて事になったら大事だ。保身は捨てろ、私。そんな場合じゃないんだから。
それで、包み隠さず申し上げました所、歴代上司が呼び出され、お前達の監督不行き届きだと治癒の神様が神様方に大目玉を食らわしてらっしゃる姿はとても恐ろしかった。
隠し事、駄目、絶対。
私は勿論、散々怒られた。三柱から。罰として追加の聖痕も付けられた。それも魂に直接刻まれるという酷いものを。己の存在が揺らぐ程痛かった。監視の目的があるのだそうで、この魂が消滅するまで効果があると言われてしまった。怖い。
人の生を終えて天使に戻ったとしても、あの悪魔の監視業務が続くということだ。
私史上最悪の状況で行われた四者懇談のあと、悪魔問題についての処遇が決まったのだった。
懇談内容の詳細を話すとこう。
私は全然知らなかったのだが、(これについても何故知らないと散々詰られた。)天界では知らぬ者はいないとう程有名な話だった。
曰く、ある日魔界でも高位の悪魔がある日突然『俺、いや、私は悪魔を辞める。』と言い出したのだそうだ。
そんな事が出来るわけがない、己の存在を根底から否定するような事が。悪魔を辞めるとはどういう事か。消滅する気か。と悪魔達は口々に罵ったそうだ。
その悪魔は、魔界でも悪魔王以外が持つことはないとされていた赤い瞳を持ちとても頭が良く、魔法の腕も魔界一と言われる程で次の悪魔王は彼だろうと悪魔は皆そう思っていた。
しかしそんな噂が天界にまで流れてきた頃には当の悪魔は姿を消していたという。
その悪魔が根城にしていた場所には夥しい量の血と肉片、それらをつかって描かれた解読不能な魔方陣にその中心で何かが焼け焦げた跡。それだけが残されていた。
その惨状を鑑み、またそれ以降全く姿を現さない事から残念ながら何らかの術に失敗して消滅したと結論が出された。
それから三十三年が経った頃、下界で怪事件が起きた。
三つの村の村人達が皆、一夜にして死に絶えてしまったのだ。そのあんまりな異常事態に魂の案内人が急ぎ迎えに行くも、その場に大勢いるはずの魂が一つも残っていない。それどころか村人の肉体すらない。建築物などそのままに人だけが忽然と姿を消したのだ。
神々は素早く調査に乗り出した。
ところが、その一夜以来村人が消失するような事が無くなり無人となった村を調べるもどこに消えたのか痕跡すら見付からず、結局何も解らずじまいで事件は幕を閉じた。
村に派遣されていたお産の記録を録る天使も気付けば担当の夫婦が消えおり、自分は気絶していた様だ。と語っていたという。
それ以来おかしな事が起こることなくこの事件は記録を残すのみとなり、現在に至るそうだ。
「ここまで聞けば分かるな。馬鹿天使のふざけた暴露話とこの赤い瞳の悪魔の話とを合わせれば、十中八九その悪魔がそこのアホボケ天使が助けた毛玉で、且つ、何らかの術で村人を大量虐殺し、その魂と肉体を利用し己の肉体を得て間抜けなお前の前に現れた人間の正体だ。」
「こうなったからには相応の対応が必要とされるわ。あなたには申し訳ないけれど、仕方ないわよね。」
「お前という奴は。本当に、お前という奴は。最近ちょっとはマシになったと思っていたが。忘れるか、そんな強烈な体験を。今の今まで。」
という訳で先程の聖痕の罰に繋がる。
因みに一番口がよく回り汚いのが私の最初の上司である愛の神様だ。
そうして悪魔の監視を言い渡された。様子を見て出来るなら目的を聞き出せと仰せで。容赦がない。無理味が凄い。下っ端の元天使には荷が重い。今は只の児童ぞ。
尚、この事が向こう側に露見してしまうと理由により非常にややこしい事態になり戦争不可避になるだろう。と。消滅したと思っていて、何も問題が起きていないようならもうこの話題には触れずにおこう。ということになった。
何か向こうで動きがあった場合はその限りでない。という事で。ひょっとしたら向こう側の作戦の可能性もあるので、とにかく事態の把握に努めなければ話にならない。と
長くなったけど、一応あの事件以来下界では大きな問題は起きていない。油断せず監視する事と、厳命を言い渡し神様達はフェードアウトしていった。
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「サニー!サニー、良かった、目を覚ました。」
目が覚めれば抱き締められていた。
聞けばあれから丸一日眠っていたらしい。
話し合いが長かったから仕方ないね。
心配かけてごめんなさいと謝れば、心配はしたが謝る必要はないと言われた。
「途中で凄く魘されていたけど、今はもう顔色も良い。どこか辛いところはないか?」
「大丈夫。ファレノ、あれから教会の、あの助祭の人がここに来たとか、ない?」
「いや、特に訪ねて来られたりはしていないけど。やっぱりあの人に何か嫌な事でもされた?」
「それは本当に、大丈夫、何もされてない。」
今のところは、と後ろにつくが。
ある意味嫌な事をされたと言えばそう言えるんだろうけど。例えば教会にいること自体とか。切実に私の知らないところで平和に生きていて欲しかった。
ファレノは暫く私を見詰め、短く息を吐くとわかったと言った。
それから今日は特別と言って、パン粥を持ってきてくれてベッドで食べさせてくれた。美味しい。空っぽのお腹が優しく満たされた。
白湯は流石に自分で飲めると言いコップを渡してもらった。駄目だ、ファレノの過保護が進行している。
お風呂は体力を使うので身体を拭いてくれる事になり、お湯で濡れた布で丁寧に拭いてくれさっぱりとしたところでもう一度寝ると良いと再び毛布を掛けられた。
ファレノの毛布は?と聞けば予備倉庫から借りてきているから大丈夫と言われた。何でも置いてるのね、あそこ。
私としては精神的ショックはあったがそれだけで身体は元気なので、教会に探りに行きたい所だったがファレノがベッドから出ることを許してくれなさそうだったので大人しく寝ることにした。
明日から頑張ります、神様。
当たり前のように添い寝してくるファレノの温もりにさっきまで寝ていた筈なのにあっという間に眠りに入った。
それからは夢を見ることもなく、気が付けば朝になっていた。
さあ、今日は教会に奴のことを探りに行くぞ。
鼻息を荒くしていてふと、そう言えば神様達は悪魔を助けたこと自体は責めていなかったことに気付いた。
このまま何も起こらずに丸く収まることを願ってやまない。
同室のメンバーに虚弱体質を疑われつつ心配させた事に申し訳なくなった。突然倒れて一日目を覚まさなかったのだから仕方ない。オリバーにも泣かれた。ごめんなさい。
朝食を食べ、洗濯物を裏の井戸でファレノに教えられながら洗い、コツを聞いてから絞り洗濯ロープに干した後、共に教会へと向かう。
彼は心配からか、教会へ行くことを渋ったがどうしても勉強したいと言い連れて行ってくれることになった。因みに一人で行くのは猛反対された事は言うまでもない。
「また体調が悪くなったら我慢せずにすぐに言うんだぞ。」
道すがら何度かそう言われ、勿論、とか、大丈夫、と返すがあまり信じて無さそうだった。悲しい。
あっという間に教会に着くとファレノは今日はもう一人の助祭を探して鍵を借りると、早々に書庫の中へと足を踏み入れた。
彼は私があんな状態になった原因がクーヴェルト助祭にあると薄々気付いているのかもしれなかった。
さて、ここからどうするか。
書庫の中は意外と広かった。入り口は一つで小部屋二つ分の空間を有している様だ。
天井が高く取られており圧迫感はない。
薄暗い室内には等間隔で本棚が並び、そこには所狭しと本が収納されていた。入ってすぐ右側に階段があり、そこを上がると座って本が読めるスペースが設けられており椅子が四脚と少し大きめの机とランプが二つ置いてあった。
壁には薄く横に延びた明かり取り用の窓がありそこから僅かに日の光が入り室内をうっすらと照らしていた。
悪魔の事を探りに来たはいいが、いざ書庫に入ってしまうと周りと隔絶されてしまい、探りたくても探れないという事に気が付いた。
きっとどこに移動するにもファレノが着いてくる気がするし、どうしたものかと本棚の間を移動しながら考え何気なく一冊の本を手に取り椅子に座ると本を数ページ捲る。うーん、読めない。
悲報!私、字が読めなかった。
それはそう。つい四、五日前は天使だったんだもの。人間の文字なんて読めるわけがなかった。完全に失念していた。
深呼吸をして、書庫特有の臭いのする空気を肺に送ると隣で本を読むファレノに声をかけた。
「ファレノ、邪魔してごめん。連れて来てもらって言いにくいんだけど、私、字が読めなかった。」
そう言ったときのファレノの顔よ。そんな顔出来たのね。
軽くへこむと、じゃあ文字から教えよう。と用意周到な彼が持ってきていたメモ書きが出来る紙、数枚に基本の文字を書いて説明され、神話の書かれている文字数の少ない本と照らし合わせて教えてくれた。小さな子供用にそういった本も置いてあると言っていた。
少しの間、悪魔の事など忘れてそちらに集中していたとき書庫の扉が重く軋む音を立てて静かに開かれた。
そこには例の監視対象の姿があった。




