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反省はちゃんとする

そろそろいちゃいちゃ注意っていれた方がいいのだろうか…

 部屋の前で見詰めあっていると後ろから声がかけられた。


「何してんの、二人とも。部屋に入らないの?」


 二人で同時に声のした方を振り向くと、さっきお風呂場で見た顔がそこにいた。


「レオス!」

「はいはい、二人してハモらなくても聞こえるよ。今日から部屋に新しい人が入るってさっき食堂で聞いたんだけど、もしかしてお前?」

「は、はい。サニーと申します。先程は大変失礼致しました。」


 もう一度頭を下げて謝罪する。お騒がせして本当に申し訳ございません。

 無言が続くので顔を上げれば、眉間に皺を寄せ怪訝な表情になったレオスがいた。


「サニーは何で女子の服を着てるの?もしかしてそういう趣味がある?」

「違う!それは、俺のせいだ。俺が勘違いして服を渡してしまったから。」

「それにしたってその時に言えばいいんじゃないのか、なあ、サニー。」

「はい。着てみたときにもしかして性別間違えられてるんじゃないか、とも思ったんですけど、まあ良いかって流してました。すみません。ファレノ、本当にごめんなさい。」


 言い訳をすると、天使に性別はないから服くらい本当にどっちでも良かった。その感覚が抜けなくてあんなことになったってことなんだけど、そんな事言えないし言うつもりもないし、いい加減な私が悪い。


 と、その時頭に手を置かれ優しく撫でられる感触がした。位置的にファレノだ。


「おいおい、甘やかすなよ。こういうのはわかったときにしっかり反省させないと、何時までたってもいい加減な行動をして周りに迷惑をかける癖が抜けない馬鹿な奴になるぞ。」


 その通りだ。返す言葉もございません。猛省。

 それでもファレノの手は優しく私を撫で続ける。


「分かってるよ。サニーもきっと、理解している。」


 頷きで肯定の意思を表すと、改めて謝罪した。

 レオスから大きな溜め息が聞こえ、わかったんならいい、早く部屋に入りな。と言って部屋の中へと先に入って行った。

 ファレノは相変わらず私を撫でている。そして荷物を置いたら予備の倉庫から男子の服を借りに行くことを約束してくれた。


 という事で荷物を置くには一旦部屋に入らないといけない。妙な緊張から生唾を飲み込むと扉の取っ手に手をかけた。

 音を立て扉が開かれるとレオスは自分のベッドに寝転がるでもなく窓際に置かれている机に向かっていた。


「やっと入ってきたか。どれだけ部屋の外でベタベタしてるつもりだよ、なんて思っていたけど。」


 そう言うとレオスは私達の方に振り返り椅子から立ち上がるとこちらに向かってくる。


「ベタベタってなんだよ。そんな事してないだろ。」

「いいや、あれをベタベタと言わずして何をベタベタと言うんだ。まあいい。そんな事よりサニー、これから俺がここを卒業するまでの間、同室になる。名前はいつの間にか知られていたけど、レオスという。宜しく。」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします。レオス、先輩。私はサニーといいます。七歳です。」


 うっかり呼び捨てしそうになり慌てて敬称を付けたらニヤリとされてしまった。そう言えばさっき部屋の前で思いっきり呼び捨てで呼んでしまっていたのだった。忘れて下さい。

 互いに握手を交わしたら、またレオス先輩は机に戻っていった。見るともなくそれを見送りファレノの方を振り返れば、私に割り当てられたベッドの向かい側、その上段にいた。

 少し声を落として話しかける。レオス先輩の邪魔になるといけないからね。


「ファレノはそこで寝てるの?お隣さんだね」


 自分の荷物をベッドの足元の小棚に置くと、天井に近い位置から話しかけた。


「そうだよ、宜しくな。元気一杯寝返り打って落ちないように気を付けるんだよ。ん、じゃあ荷物も置いたし倉庫に行こうか。」


 ファレノも小声で答えて下へ降りてくると、レオス先輩に一声かけてから連れ立って倉庫へ向かった。


 倉庫は二階の端にあり、様々なものが棚一杯に収納されていた。整理整頓されており、どこに何がどのくらい保管されているのかも記録されていた。


「ええと、男子、服。これだ。サイズは、こんなところかな。」


 ファレノは積まれている服を崩すことなく器用に引っ張り出してこちらに渡してくる。


「じゃあ一度着てみて。このサイズで上下いけると思うんだけど。」

 そう言われて今着ているものに手をかけるとその場で脱いだ。わっ、と彼の声が上がったがもう反射で出てない?その声。

 手早く肌着の上に着ていくと、サイズは丁度良いものだった。ファレノ凄い。


「着た?ああ、ぴったりだね。でも丁度過ぎるかな、もう一回り大きいものにしておこうか。サニーもすぐに大きくなるんだろうし。」


 じゃあ脱いで返してと言われ素直に従う。そうだよね、すぐに大きくなるんだから。


「こっちを着てみて。うんうんやっぱりこっちでいいね。じゃあこれを借りていこう。」


 と言うと、ファレノは服の棚にぶら下がっていた紙に日付と持ち出した服、サイズと枚数を書き込んでいた。

 今まで着ていた女子の服はどうするのか聞けば汚れを落としてまたここに返しておくのだそうだ。

 劣化しないように布に特別な祈りの言葉が縫い付けられているので余程の事がない限り、解れたり色褪せたりはしないと言っていた。色々と工夫してるんだな。

 私も早く祈りの言葉の一つも覚えたいものだ。


 女子の服を手に持ち貸してもらったばかりの男子の服を着て部屋に戻ると人が増えていた。

 順に自己紹介をしてまわり、握手を交わした。

 これで同室のメンバーが全員揃った。


 一番年上、十四歳のマーディン、飴色の髪に緑瞳、ベッドは窓際の右側下段。将来自分のパン屋を持てるように今から腕を磨いているそうだ。応援しています。試食の際は是非とも呼んで下さい。待ってます。


 次いで十二歳のレオス、榛色の髪に同色の瞳、ベッドは窓際の左側上段。


 次いで十一歳の我が心の友ファレノ、蜂蜜色の髪に漆黒の瞳。ベッドは入り口から左側上段。出会って二日目で既に過保護の片鱗を見せる。初手、私が大怪我を負っていたのが原因かもしれない。


 次いで同じく十一歳のベック、亜麻色の髪に薄藍の瞳、ベッドは窓際の右側上段。さっきお風呂場で倒れ込んできた時一番上に乗っていた子だった。何やら視線が突き刺さる。


 次いで私。七歳のサニー、薄い金色の髪に瞳の色は多分金色。ベッドは入り口から右側上段。ファレノの向かい側でお隣さんだ。元天使。


 次いで最年少四歳のオリバー、鼈甲色の髪に蜂蜜色の瞳、ベッドは入り口から左側下段。可愛い。ひたすら可愛い。何してても可愛い。君に幸あれ。


 以上六人部屋だ。たまに寝床の移動があるらしいので、汚さないように飲み物、食べ物の持ち込みは厳禁ということだ。

 分かってるよ、ファレノそんなに見なくても持ち込まないよ。


 という訳で、後は洗面スペースで歯の汚れを落として、お手洗いを済ませ、今日一日あったことを主神へと祈り報告して就寝、の筈が私はベッドに横になった途端に意識が夢の世界に刈り取られてしまったのだった。





 はっと気が付くと、何時もの見慣れた魂センターの謁見広間にいた。

 またか、やはりこれは夢ではなく現実?


「どうだ、そちらの様子は。問題なくやっているか。」


 ああっあー、神様!勿論で御座いますよ!と何時もなら答えるところだが今日は違う。

 寝転がった体勢から静かに跪くと今日の自分の反省点を述べていく。


「私は今まで自分がどれ程自分勝手に振る舞って周りを掻き乱し傷付けていたのかを痛感しました。」

「ほう、続けろ。」

「私は今日、神様が昨晩仰っていた人物と一日過ごしました。彼は昨晩は私の傷が癒えるまで治癒の神様に祈り続けました。あまり睡眠時間も取れなかった筈です。

 なのに朝は私が目覚めるより早く私の為に色々と準備を整えてくれていました。昼には孤児院内や街の方を案内してくれました。常に私の体調を気遣ってもくれました。そして、夜、私は私の自分勝手でいい加減な考えが原因で彼を傷付けてしまいました。

 真摯に献身的に尽くしてもらいながら私は、それに誠実さを欠く態度を取っていました。それと、他の子供達にも混乱を与えてしまったこと。これが今日の出来事で、反省すべき点です。」


 膝にのせた右手が震える。声に出せば本当に私は何ということをしてしまったのか。今まで仕事で関わってきた人間達にもこんな酷い振る舞いをしていたのではないか。だから今回のような事になったのではないか、と。そんな事が脳内を駆け巡る。


「ふん、やっと気付いたようだな。でもまだ足りんな。しかし、この様子なら毎日呼び出さなくても良さそうだと、私に思わせるくらいには少しは成長したか。やはり彼はお前とって良いパートナーであるようだな。」


 その言葉に思わず顔を上げて見た神様は、今まで見たこともない穏やかな表情で私を見ていた。ああ、神様。


「では、引き続き頑張るように。次の呼び出しは、そうだな半年後辺りになるか。私も忙しいのでな。祈りでの簡易報告は毎晩するように。」





 _________



 朝、目覚めると枕が涙で濡れていた。

 カバーを洗わないと。あと昨日の汚れ物も出来れば洗いたい。今日の予定をファレノか院長先生に聞いてから動こう。

 私の当番はもう決まったのだろうか。


 枕からカバーを外していると、向かいで人の動く気配がした。簡単に髪を整えるとカーテンを静かに開けた。すると向こうのカーテンも開いて眠そうな顔が覗いた。


「やあサニー、おはよう。いい朝だね。」

「ファレノ、おはよう。」


 手で口元を覆い小声で朝の挨拶をする。まだ朝の早い時間なのか他の子達はまだ夢の中だ。ファレノは今から何をするのかと聞いてみれば、今日は朝の食事当番の日らしい。付いていっても良いかと聞けば頷きが返ってきた。あまり喋ると皆の睡眠の妨げになるからだろう。

 私もそれ以上喋ることなく、布を一枚手に持ってベッドの階段を降りたファレノに続いて私もベッドを抜け出した。


 廊下を極力音を立てないように気を付けて歩く。

 お喋りもなしだ。只黙々と朝の仕度を済ませることに集中するんだ。途中でお手洗いに行くところで、先に入るか後で入るように言われた。軽くショックを受けたがファレノがそう望むのなら従おう。先に行かせてもらい、廊下で彼が出てくるのを待った。


 そこからは普通に戻って顔を洗い、口をゆすいで髪を整える。寝癖なんかはこの時に直すのだ。

 ファレノは豪快に髪の毛を濡らすと持ってきた布で何度か絞りながら拭いていた。

 そうね、頭があれだけ爆発していたらそれ位しないと直らなさそうだもんね。

 私は髪が長いのでどうとでもなる。纏めてくくってしまえばおしまいだ。そうそう、そう言えば昨晩自分の顔をこの場所で確認出来たのだ。洗面スペースには鏡が置いてあるので。

 それで見た瞳の色は天使の頃と同じものだった。本当に見た目が縮んだだけだった。背中の傷を見ようとしたら肌着を脱ぐ必要があり、しかしこんな場所で肌を晒すのは良くないなと思い見れていない。背中の神語、私にならワンチャン読めるかなとも思ったのだけれど。

 しかし、昨晩はそう思ったものだが、神様に会って、自分の気持ちを整理した結果、この様な行動もまた気持ちを踏みにじる行為かもしれないと気付けたのでもう背中の傷の解読はしないことにした。

 神様は司祭様にも口止めをしていたのを思い出したのもあっての事だ。


 この二、三日で私は本当に結構成長したのでは?

 調子に乗らないように頑張ろう。気付ける私、かっこいい。


 そうこうしている間に部屋に戻って着替えも済ませ、いざ厨房へ。

 厨房内へ入るときは袖付きエプロンをして頭には帽子を被り布で口元を覆う。この帽子には髪の毛を収納するのだ。


「じゃあサニーはそこで見てて。食事当番は十歳から始まるから、予習とでも思って。危ないから絶対にそこから動かない様にね。絶対にだよ。俺はサニーに怪我して欲しくないんだ。」


 わ、何そのお顔、何だか煌めいて見えるけど。危ない。ファレノの顔はたまに危険。


 厨房には続々と当番の子達が集まってきた。総勢十名で約五十人前の料理を作るとのことだ。

 昨晩に朝のメニューの仕込みは済んでいるので仕上げの作業にはいる様だ。

 作業分担し、野菜チーム、肉チーム、スープと洗い物チームといった具合に効率よく盛り付けと振り分けをしていく。手の空いている子がパンを受け取りに二人出ていった。

 肉チームがタレに浸された肉を取り出して粉を全体にまぶして揚げ焼きしていくと、美味しそうな匂いが厨房内を満たしていく。

 パンを受け取った子達が帰って来て、それまでに出た洗い物を片付けていく。いつの間にか野菜チームが居なくなってると思いきや表でテーブルを拭いていた。

 こうして皆が一丸となって朝ご飯が作られていくのだと感動した。皆、格好いいよ。

 私は本当に置物のようにその場から動かず見学させてもらった。良いものを見せてもらったと心のなかで拍手を贈った。


 ある程度準備が調った時食堂の方がざわめき出す。どうやら子供達がやって来たようだ。


「さあ、配膳していくぞ!」


 トレイに出来上がった料理を乗せていく。どんどん乗せていく。なのに出来た瞬間から消えていく。凄い、凄まじい。水はセルフサービスなので水の入った樽に柄杓を突っ込んで表に出してある。

 あの樽には水の神様への祈りの言葉が彫られている。一定まで水が減ったら自動的に足される仕組みである。


 嵐のような一時が過ぎ今は皆五人ずつで交替でご飯を食べに行っている。残りの五人は洗い物をしたり遅れて食堂に来た子供にご飯を用意したりしている。

 置物として私は見ていただけなのに、圧倒され疲労を感じていた。ぐったりとして待っていると、最初の五人が食べ終わって戻ってきたので私達もエプロン、帽子、口元の布を取り食事をのせたトレイを持って表に出た。


 既に疎らになった食堂の厨房に近いテーブルに腰掛け一息付いた。


「大分と疲れたって顔してるな。思ってたのと違ったか?」


 私の隣が定位置になったファレノが私の頭を軽く撫で話しかけてくる。思ってたより大分と大変そうだった。と正直に答えて、されるがままに撫でくりまわされていた。


「今日は皆大好きココ鳥の揚げ焼きだったから余計にね、勢いが凄かったわね。私も正直ぐったりよ。」

「揚げ物ってのも厨房が熱くなるし、このメニューは出来れば寒い時期にやって欲しいよな。俺も好きなんだけど。」

「そんな事より早く食べようよ!冷めちゃうよ!お祈りするよ!」

「はいはい、では感謝の祈りを捧げましょう。」


 私も無言で祈りに参加する。神様、美味しい糧をありがとうございます。いただきます。


「さあ、頂きましょう。」


結論から言えば最高だった。ココ鳥の揚げ焼き。美味しいが過ぎる。味覚の暴力や。


鳥自体の旨味と一晩漬け込まれ染み込んだタレの旨味。かりっとした歯触りに噛んだ所からじゅわりと溢れる肉汁。肉の弾力。正直無限に食べられると思う。

そのままでも十分美味しいが、賄いで味見ということでピリ辛ダレを絡めたバージョンも一つ貰えてこれがまた、すーーーーんごく美味かった。ピリッとした辛味がアクセントになって甘いタレとの相性が抜群で。

あーーーーー、すきーーーーーー!


「満足したみたいで良かったよ。」

「うん、凄く美味しかった、最高だった。ご馳走さま。」


「まあ、確かに美味しかったけど目の前の光景にちょっと胸焼けがしそうなのは私だけかしら。」

「いや、俺もだ。」

「仲良き事は美しきかな。ですね。」

「おかわりほしーーーー。」



その後も洗い物を一通り済ませ、晩ご飯の仕込みをするのもずっと見ていた。

洗い物くらいなら出来そうと思って挙手してみたが、身長が足りず台に乗ってやろうとすればバランスを崩して落ちそうになりと作業の邪魔にしかならないので早々に置物に戻ったのだった。

両膝を胸の前で抱えるようにして見ていたのだが途中で寝てしまっていたらしい。

身体を揺すられる感覚に目が覚めた。


「お待たせ。今日の朝の食事当番が終わったよ。もう昼近い時間だが何かやりたいことはあるか?」


よだれを拭きながら考える。やりたいことか。


「ファレノだったら普段何してるの?」

「うーん、そうだな。教会の書庫にお邪魔して祈りの言葉の勉強をしたり、司祭様に付いてこの街の周辺にある教会のない小さな村に行って病で苦しんでる人に治癒の祈りを捧げたり、かな。他は普通に計算問題をやったり他の奉仕活動もたまにしたり。最近は可愛い後輩の面倒見たり?」

「聞いておいて何だけど、ファレノ勤勉だよねぇ。ちゃんと息抜き出来てる?」

倒れちゃわない?大丈夫?と続ければ、頭をやや乱暴にかき回しながら、可愛い後輩の面倒で十分息抜き出来てるよ。と返ってきた。


「あいつらあれでベタベタしてるつもりもないし、自覚もないってのが最高に終わってる。」

とは後のレオスの言葉である。



祈りの言葉が気になったので、洗濯物を洗ってから教会の書庫に向かう事にしたのだった。





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