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迂闊が過ぎる気がしてきた

気持ち長めです。

 教会へと戻る道すがら、先程案内された料理屋『マヨイ亭』の刺激的な香りがする料理は何なのかファレノに教えてもらった。

 カウリィという名の食べ物らしい。香辛料が使われ肉や野菜をよく煮込んだルゥに平べったいパンに付けて食べるそうな。この領地の名物料理だそうだ。覚えたぞ。




 前庭を通り、教会の正面に着くと石造りで幅広の階段を二段ばかり上り中へと進んだ。

 聖堂に集まっていた人は皆帰ったようでそこは私達の足音が響いているばかりだ。

 聖堂から続く他の部屋を見て回るファレノの後ろを付いて回ったがどこにも司祭様の姿はなかった。


「ここじゃなくて司祭館の方かもしれないな。」


 というファレノの言葉に、ならばと再び移動を開始。教会から少し離れた位置に建っている修道院の裏に回るように進んで行くと、見えてくる建物に向かう。勿論移動中の会話はカウリィについての質問だ。

 そうして司祭館へはあっという間に着いた。

 こじんまりとした可愛いお家だった。


「司祭様、居ますか?」


 ノッカーでドアを打ち付けながら大きめに声をかける。きっとあの開いている窓から中に声が聞こえるはずである。

 すると中から足音がこちらに向かって来てすぐに扉が開けられた。現れたのはお探しの司祭様だ。


「ごめんごめん、ちょっと調べたいことがあったからこちらに戻っていたんだよ。呼びつけておいて申し訳ないね。じゃあ、教会の方に行こうか。」


 爽やかな笑顔を浮かべながらファレノと私の背を軽く押し、私達は教会へと足を向けた。




 ___________



 聖堂に再び入るとファレノは等間隔に並ぶ椅子の一つへと腰を掛けた。そこで一連の作業が終わるまで待っていてくれるらしい。

 私は司祭様に連れられ祭壇の前へと進むと跪くよう促される。跪くのは慣れっこの私はそれはもう自然な動作で跪く。さぞかし堂に入った跪きようだろう。


 司祭様は私の頭に向かって手を翳すと、あのバリトンボイスで朗々と神々へと祈りを口にした。


 私は目を閉じてその声を聞きながら導きの神様の事を思い浮かべていた。司祭様の祈りからもたらされる気配がやはりあの神様と似ていたからだ。


 どのくらいそうしていただろうか、不意に声がかけられ我に返った。


「はい、終わりましたよ。やはりあなたは洗礼済みのようです。主神として、導きの神があなたに祝福を与えている様です。それと、いえ、なんでもありません。私も主神が導きの神なので同じですね。これからも神に恥じぬ人生を送らねばなりません。」


 そう司祭様から聞いて、納得と安堵と歓喜の気持ちがどっと押し寄せる。私、捨てられた訳じゃなかった!

 分かっていたつもりでも心の何処かで私は神様に捨てられたと思っていたのだ。気が付けば私の涙腺は崩壊していた。




 一頻り気が済むまで泣くと司祭様のチュニックの裾は私の体液で濡れそぼっていた。申し訳ない。

 傍らにはファレノが心配そうに寄り添ってくれていた。良い奴だ、ありがとう。

 腫れぼったい目で司祭様を見れば、ファレノに持ってきてもらったのだろう椅子に腰掛けて私が泣き止むのを待ってくれていた様だ。

 何とか詫びと礼の言葉を述べると、司祭様はまた祈りを口にし私の目元を手で覆った。


 何とも心地好い冷たさに熱くなった目元から熱が引いていくのを感じた。ファレノの治癒の神様への祈りとは違う神様への祈りの言葉の様だ。

 後日聞いてみると水の神様への祈りの言葉だと教えてくれた。最大手の神様の一柱じゃんと震えた。全方位に敬礼。


 もうすぐ夕方に差し掛かるという時間帯、落ち着きを取り戻した私はファレノと共に孤児院へ戻ろうとしたが、司祭様に出生について話があると言われファレノだけ先に帰らされる事になった。

 彼も心配だから残ると言っていたのだが、それは許されなかった。



 そうして司祭様と二人だけになると、司祭館の方へ移動を提案された。第三者に聞かれるとまずいと判断されたのだ。

 何だか嫌な予感がする。大人しく司祭様の後について司祭館へと移動すると中へと通される。


 こじんまりとした外観の割には広く感じる玄関を抜け、リビングへ。キッチンスペースに小さなテーブルと椅子が二脚置かれている。そこに座って待つように言われ大人しく待っていると、司祭様は窓を閉じて回り少ししてから戻ってきた。


 手にしっとりと汗が滲む。

 お茶とお菓子を出されたがどうにも飲み食いする気にもなれず、どんな話をされるのか戦々恐々としてその時を待った。

 司祭様はお茶を一息に飲み干すと静かにカップをソーサーに戻す。

 一呼吸置いて口が開かれた。


「あなたは元、天使様、ですね?」


 あーーーーーーーーーっ!あああーーーーーーーーーっ!!ですよねーーーーーーっ!バレてますよねーーーーーっ!

 心臓が止まるかと思った。いや実際数秒は止まっただろう、確実に。肩に力が入る。まさかとは思うけど追い出されたりしないよね。


 頭が真っ白になり言葉が一つも返せない。


 そんな私の姿に何を思ったのか、確信を得た彼は語っていく。


「あなたの背中にあるそれは、聖痕と呼ばれる類いのものです。治癒の神とは違う濃密な神の気配がそちらに残っていましたし、だからこそあれを使ったとはいえファレノの拙い治癒の祈りが、願いがあんなにも早く聞き届けられたのでしょう。それでも傷は癒せても他の神に付けられた痕までは消せません。

 ひきつっているように見える皮膚の一部には神語で文字が刻まれているのです。」


 な、なんだってーー!


「僕は解読しようと家中の文献を引っくり返しましたが悔しいですが分かりませんでした。僕には閲覧できる権限のない書物には或いは記されているのかもしれませんが、力不足を痛感しました。」


 興奮した様子の司祭様はティーポットからお茶を注ぐとそれもまた一息で飲んでしまう。私も正体バレしちゃったし開き直ってお茶を頂こう。


「それで、先程の祈りの際に、正解を知ってしまったのです。僕の様な一司祭に、いと尊きお方の、ご意思が直接伝えられたのです。」


 どこか恍惚とした表情をした司祭様に向かってお茶を吹き出してしまった。

 それにも一切動じず司祭様は話を続ける。


「あなたは、導きの神の元、天使として働き続けたが業績振るわず修行に出すと、そう告げられました。」


 か、神様ーーーーー!?

 駄目だ、手が震える。お菓子を食べて落ち着こう。美味しい!


「しばらくの間ここで生活させるように、と。あなたの背中に刻まれた内容は話さぬよう言われていますのでお教え出来ませんが、神様のお気持ちの籠ったお言葉を戴いている、とだけ伝えておきます。」


 か、かみしゃまぁーーーーーっ!!


 さっき治まった涙がまた溢れてくる。何やかんやで甘やかしすぎですよ、もーーー!目が溶けるじゃないですかぁ


 また腫れてしまった目元を再びリセットしてもらい、私の前職については厳密に秘匿してもらうことに。

 あくまでも今の私は只の人間なので何も出来ないことを強調して伝えておいた。天使だった頃も録に仕事出来てなかったけど、そんな余計なことは言うつもりもないけれど。でもその上で、できる限りの努力をすることを誓った。


 余談だがそれからというもの、たまに司祭様から背中に熱視線をいただくようになったのは言うまでもない。



 何やかんやで孤児院に帰るのが遅くなってしまった。孤児院も教会の敷地内に建っているとは言え暗くなると危ないので司祭様が送ってくれる事になった。

 すぐそこなのであっという間に到着だ。

 すると孤児院の出入り口に人影があった。ファレノだ。


「院長先生、お帰りなさい。サニーもお帰り。もうすぐ晩ご飯が出来るよ。院長先生も今日はこちらで召し上がって行って下さい。」


 ファレノは私達の到着を厨房へ伝えに行くと言い、中に戻っていった。


「司祭様も、あ、ここでは院長先生でしたね。早く中に入りましょう。ご飯が待っています。」

「慌てると転けますよ。落ち着きも身に付けましょうね、サニー。」



 手を洗い食堂へと着くとすでに食事が二人分用意されていた。仕事が早い。

 他の子供達もそれぞれの席について各々晩ご飯を楽しんでいる。食堂はほぼ満席だ。


「今日のメニューはポク肉とニャクコの旨辛煮とポルテサラダとスープよ。」


 用意された食事に目が釘付けになっていると聞いたことのない声がしてそちらに目をやる。

 少し大人びた可愛い女の子だ。


「やあ、シェリンの得意料理か。久し振りに食べられるとは良い時に戻ってきたよ。」

「今晩は先生。お久しぶりです。それと、あなたがレオナの言っていた子ヌヌコちゃんね。私はシェリンよ、宜しくね。」

「宜しくお願いします。シェリン先輩。」

「じゃあ、慌てずゆっくり味わって食べてね。先生も、ごゆっくりどうぞ。」


 優雅に厨房へと戻っていくシェリン先輩と入れ違う形でファレノがトレイに自分の分の夕食を載せ隣に腰掛けた。


「では、神に感謝の祈りを捧げよう。」


 院長先生がそう言うとファレノは手を組み祈り始めた。私も目を瞑り祈る。神様、喋りすぎですって!でも、ありがとうございます。いただきます。


 その後食べたご飯は言うまでもなく美味いものだった。もうこの美味しい食事を食べられるだけで受肉した甲斐があったというものだ。

 途中で私の様子を見に戻ってきたシェリン先輩にまで微笑みを浮かべながら子ヌヌコ扱いされ辟易したが食事は美味しく完食しました。ご馳走様でした。



「サニーは落ち着いて食べることも覚えないといけないね。さて、この後は七歳から十二歳までの子供達のお風呂の時間だが場所はわかるね?入り方は?」

「はい。午前中にファレノに教えてもらいました。問題ないと思います。」


 院長先生の駄目出しを聞きつつ食器を下げる。


「サニーの部屋の割り当ても決めたからね、今日から共同生活が始まるよ。」

「はい。」

「男女で別の部屋だから、サニーも同室の奴と仲良くね。」



 因みに部屋は孤児院の二階にあり、一部屋に付き二段ベッドが四台設置されており机が二台、椅子は四脚置かれているそうだ。男女共にどの部屋も同じ内容の家具が置かれており部屋割りは男女別に、くじ引きで決められるらしい。

 そんな部屋が合わせて七部屋、最大五十六名分の孤児の部屋が確保されている。

 現在は、下は零歳から上は十六歳までの男女合わせて、私を入れて四十三名が生活している。

 天候不良や戦争なんかで孤児の数が増えれば都度対応するというのだから凄いと思う。


 院長先生とは食堂でお別れしてお風呂の用意を取りに部屋へと向かう。二階に上がり自分に割り振られた部屋の番号を探しながら歩く。

 ファレノはじゃあまた明日と言い残し、一足先にお風呂場へと向かった。何でも気まずいらしい。何が気まずいと言うのか。


 目当ての部屋に辿り着くと早速中に入る。

 自分の割り当てられたベッドの上には着替えが数点置かれていたのですぐにわかった。

 一応カーテンが天井から吊るされており、ある程度のプライベートは確保されているようだ。

 替えの下着と体を洗う布や拭く布も用意されていたので有り難く持つと、ブーツを脱いでサンダルに履き替え部屋を出た。


 さあ、お風呂だ。


 天使の頃の風呂と言えば、そもそもそんなものなかった。天使は汚れないのだ。溝に嵌まっても肥溜めに落ちても薄皮一枚のところで清潔が保たれているのだ。軽く身を震わせればそれはいとも容易く落ちていく。

 そろそろ天使の頃の話をし出すと昔語り乙と言われないかと不安が過る。


 そんなことより、お風呂だ。噂によると暖かくてまるで天国のようらしいが、天国って天界のこと?

 天界も確かに居心地は良いけどそんな感じなの?

 とにかく楽しみだ。


 午前中に案内されたお風呂場へと到着。お風呂場の入り口に男湯、女湯と書かれた暖簾が掛けられている。万が一にも間違えて入ってしまったら大惨事だと言われているので確認は怠らない。


 私は迷わず男湯の暖簾を潜った。


 ここからは口頭でしか説明を受けていない。

 先ずは棚に篭が置いてあるから一つ取ってそこに脱いだものと着替えを置く、と。


 思い出しながら移動して篭を手に持ち、升目状になった棚の空いている所に置く。


 次は脱いだ服の上に着替えを置く。

 隣の篭にちらりと目をやればきちんと畳まれて綺麗に置かれていた。

 私も服を脱ぐと丁寧に服を畳み篭へと入れた。

 肌着や靴下、下着何かは庭に出て自分で洗うので肌着に包んで纏めて置いておく。


 最後に注意点、浴槽に入る前に体を洗う。髪の毛は浴槽に浸けてはいけないから頭の上の方で纏めること。


 こんな感じだったかな。髪は一本の三つ編みにしてお団子にしていたので一度ほどく。

 体を洗うついでに頭も洗ってそれからくくり直せばいいと思ったのでこのままで浴室に向かう事にした。


 手には体を洗う布を忘れずに持ち、意気揚々と浴室へ続く扉に手をかけた。

 その時、向こう側にいた人も扉を開けようとしていたようで私がスライドさせる間もなく扉は開かれた。

 そこには見知った顔があった。


「あ、ファレノ。私もお風呂に来たよ」


 笑顔で声をかけたら凄い勢いで扉が閉められた。予想外の反応に固まっていると扉越しにファレノの絶叫とも言える声で、何でこっちに入って来たんだと言っているのが聞こえてきた。

 何でも何もないのだが。


「ファレノ、開けてよ。お風呂入れないじゃない」


 扉を叩き訴えるが、無理無理無理と返事が聞こえてくる。その内に浴室内にいた他の子達の声が聞こえたきた。


「ファレノ何やってんだよ、意地悪するなんてらしくねえな。早く入れてやれよ。」

 扉が揺れ出した。

「あっばか、やめろ!駄目だって、サニー早く服を着て風呂場から出るんだ!ちょっうおお、やめ」

「暑い!逆上せちゃうだろ」

 と、その時扉が嫌な音を立て始めたことに気付いた私は必死に中に声をかけた。

「ファレノ、扉が壊れそうだよ何か変な音してるって」

 言うが早いか、扉がこちらに向かって倒れてきた。

 持ち前の反射神経で後ろに飛び退くと尻餅を付き事なきを得た。

 目の前には扉の上で折り重なる三人の少年達の姿があった。

 ファレノが一番下敷きになっていたので慌てて助け出そうと布を放り出して少年達の元へ向かう。


 一番上に被さっていた少年がこちらをみて驚きに目を見開いていたが構っていられない。退いてもらって目を回している二番目の子に声をかけるが、真っ赤な顔をして動こうとしない。どうやら逆上せると騒いでいたのはこの子の様だ。


 と、浴室の方からなんだなんだと他の子達が出てきた。皆一様に私を見て足を止めるが、逆上せた子を運んで欲しいとお願いすれば、冷静になったのか二人がかりで運んで寝かせてくれた。


 少年達から解放されたはファレノも全身を真っ赤に染めながら意識を失っていた。

 呼び掛けながら頬を二、三度軽く叩いてみるが反応がない。

 他の少年達はいつの間にか体を拭き着替えがすんでいた。大分と着崩れているようだが素早い。

 逆上せた少年は身体に布をかけられ、体の大きな少年が逆上せた少年の頭に手を翳しながら神に祈りを捧げていた。


 その手があったかと思ったが、私は祈りの言葉を知らない。焦れったい思いをしていると私の身体に頭から大きめの布がかけられた。


「何で女子がこっちにいるのか知らないけど、そこを退いてもらえるかな?」


 と、声がかかる。違う、私は女子じゃない。

 何て言ってる場合でもなく、素早く立ち上がるとその場を少年に譲った。

 その少年もファレノの身体に布をかけてから頭に手を翳すと神に祈りを捧げ始めた。先程の体の大きな少年と同じ祈りの言葉だった。


 薄ぼんやりと少年の手が光を放ち、ファレノに向かって降り注ぐ。暫くの間そうしていると、ファレノは身動ぎをして意識を取り戻した。


「うう、なんで俺こんなところで寝て?ん、レオン?」

「そこの考えなしの女子が何でかこっちの風呂場にいたんだよ。お前はそれに気付いて扉の前で騒いでいたんだろう?で扉が外れてあいつらの下敷きになっていたんだ。」


 と、レオンと呼ばれた少年がその後ろを指し示す。


「そっか?悪かったな。助かったよレ」


 ファレノの視界に私が入ったのだろう。その瞬間、彼は綺麗に二度見して固まった。気まずいどころの話ではない。もう、どう声をかければいいものか。

 とりあえず誤解を解けばいいのか。ああ、こんなことになるのなら、女子用の服を渡された時にちゃんと言っておけば良かったと激しく後悔した。


 深呼吸を一つして、恐る恐る話しかけた。


「ファレノ、その私、誤解されてる事があるというか、私入るお風呂場間違えてないよ?男風呂で合ってる!」


 と言えば伝わるか、まだか。彼は疑問符を一杯浮かべた表情でこっちを凝視している。ついでに隣にいるレオンも同じ顔をしている。更についでに言えば後ろの少年達も。


 静まり返る男風呂。


 もういっそのこと見てもらった方が早い気がしてきた。私の性別を象徴している下半身を。よし。


「ファレノ、とにかく見てもらったらわかるから、見て!」


 そう言うが早いか私はさっと羽織っていた布の前面を開いてみせた。しかしファレノは見てくれない。それどころか逆に目を固く閉じてしまった。


「わー!やめろやめろ!何してるんだサニー!お前らも見るんじゃ」

「え、付いてる。」

「髪に隠れて見えにくいけど確かに、あるな。」


 いいぞいいぞ、もっと言ってやって。

 しっかり凝視してくれたレオンと後ろの少年達は口々に発言してくれる。

 って、待って待って、そんなにじっくり見られるのは何かちょっと恥ずかしい。


 急に湧いてきた羞恥心に顔が赤くなっていくのがわかる。そっと腕を閉じ再び身体を布で隠すと呆然としているファレノへと近付く。

 その間にもわいわいと私の下半身話で盛り上がる一同。

 と、レオンが私に謝ってきた。勘違いで怒鳴って悪かったと。いえいえ、こちらこそテンパってしまってすみませんでした。

 そうこうしている内に私達に割り当てられたお風呂の時間は過ぎていく。せめて一度湯船に浸かってみたかったけど今日は諦めよう。


「ファレノ、ごめんね、私が言い出せなくて、こんな目に合わせてしまって。」

「いや、勝手に勘違いしたのは俺だし、な。俺も、ごめん。」


 ファレノと一瞬見詰めあい互いの謝罪を受けあうと、私はレオン達に向き直り頭を下げた。


「皆様を巻き込んでご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。」

「いや、まあ今回は扉が一番の被害者だから。被害者って言っていいか判んないけど、俺らは気にしてないし。」

「そうだな、扉ちゃんと嵌まるといいけど」


 うう、ごめんなさい。扉が外れっぱなしだから湯気が脱衣場に流れ込んできてるし、本当にごめんなさい。

 もう後回しにしないです。大切なことはちゃんと伝えるようにします。


 扉を直そうと手をやると、更に横から手が伸びてきた。

「この扉、結構重いんだよ。俺も前に外したことがあってな、嵌めるのもちょっとしたコツがあるんだ。」

 と言いながら体の大きな少年が扉を持ち上げると嵌め直してくれた。

 と、丁度そこへ次のお風呂の時間帯の少年達やってきた。

 脱衣場にはまだ私もいれて七人居たので早く出ていかないと邪魔である。私は服を着ないとここから出ていけないので慌てて篭のところまで戻ると、あっと声を上げて驚かれた。またか、また見せないといけないのかと腕に力を込めると後ろから追ってきたファレノが、こいつ男ですよ。と一言告げてくれた。

 ええ、と多少疑われたり驚かれたりはしたが、髪も長いしまだ幼いので外見的にそう見えるだけ。と付け加えてくれた。


 一緒にいた早着替えの少年達はまたな、と声をかけてくれ脱衣場から出ていった。

 後で入ってきた少年達はそれぞれの篭に服を脱いで入れるとさっさと浴室の方へ行ってしまった。

 残されたのは未だに腰に布を巻いただけのファレノと布の下は全裸の私だけだ。


 どちらともなく篭に手をやると私が見本にした篭の持ち主がファレノだったことが判明した。その節はどうも。

 布を外して棚の上に置くと着替え始める。身体も何も洗えてはいないけれどせっかく持ってきたので綺麗な物に着替えた。

 下着を履くと何とも言えない安心感が私を包んだ。下着、最高である。

 替えの肌着の上にまたワンピースを着て部屋から履いてきたサンダルを再び履いて着替え完了。

 そう言えばこの大きな布を返さなくてはいけない。確かレオンが貸してくれた筈だ。ファレノにレオンの部屋を教えてもらおう。布を畳みながら、洗って返した方が良いことに気付いた。危ないところだった。


 脳内会議を繰り広げている内にファレノも着替えが終わったようだ。そのまま一緒にお風呂場を後にした。



 部屋に戻る途中でもう一度謝った。ファレノはもう気にしていないと言うが、さっきから私の方を見ようとしない。もしかしたら今はそっとしておくのが良いのかもしれない。


 とりとめのないことを話ながら部屋に向かうが、気まずい雰囲気を残したままついに部屋の前まで来てしまった。

 この時になって漸くファレノは私の方を見た。


 お互い目を合わせたまましばし部屋の前で佇む。


 私達はどうやら同室であるということを、この時知ったのだった。










~設定補足~

八人部屋は常に二人分くらい空きがあるのでベッドの上段下段戦争が起きにくい。


一部屋には色んな年齢の子供が入るので自然と面倒見が良くなっていく。

但し零歳児から三歳児は同室になり孤児院に残った卒業生が二、三人交替で面倒を見ている。


孤児院は十七歳になる月で卒業となる。

それまでに進路を決めておかないといけない。

奉仕活動でどれだけコネを作れるかが勝敗を別けるので皆真剣にお手伝いに取り組んでいる。


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