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20/21

20.温泉だ!不穏だ!次回観光だ!

※更新が遅れてすみませんでした。


すぐ思い悩む子サニー。しかし切り替えも早い。

 

 翌早朝、宿屋で携帯食を人数分作ってもらいダブフェ子爵領に向かう馬車に乗り込んだ。


 観光地として有名だからだろうか、乗り合い馬車は早朝にも関わらず既に定員に達していた。


 軽快に進んで行く馬車内には親子連れや新婚さんだろうか仲睦まじく会話をする夫婦、老人等様々な人が乗っていた。


 そんな中、私の隣に座っていた親子連れのお子様が退屈なのか愚図りだしてしまった。

 母親がおやつを出しても要らないと言い、駄々を捏ねていた。馬車を走らせるうるさい音が止むことなく振動と共に響き続けているのもその子のご機嫌を損ねてしまう原因の一つだったのだろう。


 何か気をそらせる物がないかリュックを探ろうとした時、足元で大人しくしていたクーさんが私の膝の上に飛び乗ると鼻歌を歌い出した。


「キュンキュン、クゥ~~ン」


 見た目に反して格好いい声でビブラートを効かせて紡がれるそれが、そのお子様の関心を大いに引いた。

 お子様は最初は驚き目を丸くしていたが恐る恐る手を伸ばし、ふわふわの毛に触れると笑顔になり夢中で撫で出した。


 それを見ていた母親は最初はクーさんの毛色に驚き、次いでその鳴き声に目を瞬かせていた。

 実にその表情は親子でそっくりであった。

 クーさんの初見ショックを乗り越えた母親は、はっとした様子で私に声をかけてきた。


「ありがとう、助かったわ。この子一度機嫌を損ねると長く引きずるのよ。…ところでその変わった毛色のポメポメは首輪をしているしあなたが飼っているの?」


 動き出すまで変わった柄の鞄か何かだと思っていたの。あ、気に触ったならごめんなさいね。などと続けて、恐らくは同じく退屈をしていたのだろう母親が一息で言ってのけた。


「い、いえ、彼は飼っていると言うか、一緒にいるだけと言うか…」


 改めて聞かれると困る。しどろもどろと答えていると彼女の隣にいた夫らしき人がこちらに顔を向けて詫びてきた。


「いやぁ妻と子供がすみません。あなた達も次の街で降りるのですよね?是非お礼をさせて下さい」


 思いがけない事を言われて隣のファレノに目をやると、ファレノはそのまた隣の隣のレックス助祭に訊ねてくれた。


「大変有難い申し出ですが、お礼をされる様な事はしておりませんのでお気になさらず」


 にこやかに申し出を断ったレックス助祭は、彼に何か邪な思いでも感じ取ったのだろうか。

 面倒事に発展しても恐いので突っ込まないでおこう。私はお気楽に過ごしたいのだ。


「キャフン」


 あら、クーさん。受ければ良いものをとでも言いたげな鳴き声ね。クーさんは小さなお子様の相手はプロフェッショナル級なのだ。クーさんだけはお礼を受け取る権利はあるだろうし主張もしたくなるものか


「逆に失礼な申し出でしたか。ではまた向こうで会うことがあれば、その時はご縁があったということで…」


 それだけ言うとお子様の父親は、妻子に一声かけ顔を手元の本に戻した。うーむ、酔わないのかな?




 と、この様なふれあいがありつつ私達を乗せた馬車はその日の夜にダブフェ子爵領へと到着した。


 馬車内からそれとなく思っていたのだけれど、降り立ったことで確信を得た。すごく独特の臭いが漂っている。

 何の臭いだろう…


「これが温泉のにおいですヨ」


 胸元で抱えたクーさんが小さな声で教えてくれた。私の心が読めるのだろうか…ごくり


「早く宿を探しましょう。空きがあると良いのですが」


 レックス助祭はそう言うと御者に宿屋がある辺りを聞き、そちらに向かって足を向けた。


 雑踏のなかを行き宿屋を巡ること三つ目で漸く宿泊可能な宿を取れた。

 この宿は露天風呂というものがあるらしくそういった宿は本来なら予約がないと宿泊出来ないそうのだが、他と比べて客入りが少なく空いており心なしか淀んだ雰囲気がしていた。


 部屋番号を聞き二部屋分の鍵を受け取ると、やや薄暗い廊下を進み部屋へと辿り着いた。


「ここですね。私とルイスでこちらの部屋を使いますので貴方達は隣の部屋をどうぞ」


 レックス助祭はそう言うと鍵を差し込み室内へと足を踏み入れた。

 ちらりと見えた室内はやはりそこも纏わりつくような嫌な気配が漂っていた。

 気になってそのまま足を止めて見ていると、レックス助祭は素早く聖水を作り室内へと振り撒き清め始めた。

 その指先から空中へと聖水が撒かれると、あっという間に嫌な気配が消え去った。


「何やら訳ありの宿みたいですね。貴方達の部屋も清めましょうか」


 という事で私達の使う部屋も清めてもらうと荷物を置き、一息つこうとしたのだけれど、元よりそんな気配などどうでもいいと言わんばかりの態度でいたクーさんに追いたてられる様に風呂の準備をさせられた。


 隣の部屋をノックしてレックス助祭達にも露天風呂に行かないかと声をかけたが後で行くと返されたので、ファレノとクーさんと私とで先に行くことにした。


「クーさん、ここにも悪魔がいるの?」


 薄暗い廊下を見回しながらクーさんに話しかけると、その小さな頭が横に振られた。


「何かは居ますが悪魔ではありませんネエ」


「悪魔じゃないなら何なんですかクーさん」


「恐らく悪魔信仰をしていた人間の魂…ですかネ。随分とどろどろしたのが居ますが、この宿屋の人間に恨みでもあるんでショウ。だとしても悪魔に回収されていないのは不思議デスが」


 あっさりと告げられる言葉に絶句する私とファレノ。どろどろしたの、か。

 浄化出来ればあるいはその魂が救われる道もあるはずだけれども、復讐に囚われた魂の浄化は難しいと教会の書庫にある本で読んだ覚えがある。


 そもそもそこに落ちる過程で悪魔に信仰を捧げている場合がほとんどなので神による救済を魂が受け付けないと言うか、受け入れることが出来ないと悪魔落ちとしてその魂が浄化により消滅してしまう事があるので神の元に戻すことが難しいとなる。みたいな…


 聖職者でもない私がどうこうできるものじゃないしファレノは聖職者見習いだけれど専門外なので、レックス助祭に丸投げするしか手段がない。


 という事で、道中のどんよりした気配をもらった聖水で乗り切り男湯まで真っ直ぐに向かった。


 暖簾を潜ると温泉特有の匂いが漂っていた。

 脱衣場で素早く服を脱ぐと、布を腰に巻きクーさんを抱えて先ずはペット用の洗浄、掛け湯コーナーでクーさんを洗う。


 この湯も源泉掛け流しだそうで、クーさんがうっとりとしている。

 いいなあ。私も早く洗って湯に浸かりたい。


 と、思っていたところに後ろから声が掛けられた。


「サニーごめん、先に身体を洗わせてもらった。ペット(クーさん)用の湯船が露天の方にあったから、洗い終わったら俺がクーさんを連れていくからサニーも身体洗っておいで」


「早いねぇファレノ。ありがとう助かる、よ」


 声で分かったけれど思わず振り向いて返事をすれば、当たり前だけど腰に布を巻いただけの裸のファレノがそこに立っていた。


 数年で育ったファレノの身体は私の知るそれではなく、やけに逞しく見えて戸惑ってしまった。

 最後に一緒にお風呂に入ったのはファレノが修道院に入る前で、その時はまだまだ少年といった身体つきだったのに。

 その濡れた健康的な身体は直視し続ける事が難しく、何とも言えない気持ちが湧いてでた。


「ファレノ身体結構鍛えてる?何だか逞しくなったよね」


 そんな気持ちを誤魔化すように、気が付いたら聞いていた。うんうん、だってファレノばっかり強そうになってズルい。


「そりゃあ体力がないとあちこち回れないし、ある程度は鍛えてるけど。サニーも成長期だし昔よりは背も伸びたし筋肉もついてきていると思うけど」


「キャンキャン」


 洗われながらクーさんにまで肯定するように鳴かれてちょっと嬉しくなった。

 そうして戸惑いの気持ちに混ざった何とも言えない感覚はいつの間にか霧散していった。


 たっぷりの湯でクーさんを濯ぐとファレノに渡して私も自分の身体を洗うために、洗い場へと向かった。




 身体を洗うと内湯には浸からずに露天の方へと向かう。

 外にあるお風呂というのがよく分からなかったけれど、実際目にすると解放感が凄かった。


 外から見えないように目隠しの壁が設置されていたけれど、それも素材が木や大きな岩等を使われていたので雰囲気を壊す事なくその役割を果たしていた。


「わあ、これが露天風呂か。あ、ファレノ!クーさん!お待たせ」


 内風呂に人が一人いただけのほぼ貸し切り状態なので、声を掛けながら二人のもとへと向かった。


「転ばないようにね。ゆっくりおいで」


 笑われた事にはしゃいでしまった事に少し恥ずかしくなったが、足を湯で軽く濯いで湯に浸かる。


「んはぁ~………気持ちいぃ…」


 その温めのお湯は馬車旅の疲れが溶けて出ていく様な気持ち良さがあり、クーさんが楽しみにしていただけはある。と納得してしまった。

 この気持ち良さ、一度味わうと癖になってしまいそうだ。


「あっちのお湯が出ている辺りは少し熱めでそれもまた気持ち良いよ。ほらクーさんも」


 ファレノも何だか喋り方がふわふわになっている。溶ける~


「ふあァ~~~良いですよファレノ…!」


 ファレノが手を伸ばして桶で掬った熱めのお湯をクーさんのペット用の湯船に入れていた。

 宿屋内の不穏な気配は露天では一切感じる事はなかったので、湯船の中で二人並んで湯を楽しんだ。


 途中でレックス助祭とルイスさんも合流して二人とも溶けに溶けていた。露天風呂、温泉、最高だ。


 温めのお湯なので長く浸かれるのも良い所だ。

 途中でレックス助祭が聖水を混ぜて宿屋内で溜まった体内の毒気を抜いてくれた。

 ちなみにレックス助祭もかなり格好いい身体をしていた。

 逞しい上腕二頭筋に盛り上がった胸筋、見事に割れた腹筋。そこから伸びる脚には発達した大腿四頭筋が。

 勿論腰に撒かれた布に隠された大殿筋も立派であることは想像に易くない。うーん、凄い。


 ルイスさんはまだ私寄りだった。この人もゆくゆくはむっきむきのばっきばきになるのだろうか…


「何ですかさっきからじろじろと見て。気分が悪いのですが」


「ああいや、すみません。ルイスさんも数年したらファレノやレックス助祭みたいな身体になるのかな、何て思っちゃって」


 今のところ出会った聖職者に弛んだボディの持ち主はいなかった。普段の緩い服装からでもその内に秘めたる筋肉が静かに存在をアピールしているのだ。

 主に治癒担当のファレノでもああなのだから、悪魔と対峙する聖職者はレックス助祭の様な格好いい肉体を持っている筈なのだ。


 湯を軽く掬い肩にかけながらまったりと過ごす。

 失礼なことを言ってしまってもこのお湯パワーで流してくれそうだからこの際仲良くなれたら嬉しいな、何て思ったり


「私は今回みたいに表に出てくることは稀だと思うのでレックス助祭の様になるのは厳しいかな、って貴方には関係のない事ですけどね!」


 なんやかんやで答えてくれるのでルイスさんもやはり良い人なんだろうな、と思った。

 初回のあの突っかかってきたのは何だったんだろう…



「サニー、そろそろ上がる?顔が赤くなっているよ。温いお湯でも浸かり続けているから逆上せたんじゃないかな。クーさんはどうする?」


「ク~ン」


 まだ入っていると言っているみたいだ。


「レックス助祭、ルイス、私達は先に上がって部屋で休んでいます」


 私はファレノに半ば抱えられる形で湯船を出ると、覚束ない足取りで着替えて部屋へと戻った。

 聖水入りの湯に浸かった効果か、行きよりは廊下の様子が気にならなかった。



 部屋に戻るとベッドに座らせてもらいファレノに飲み物を飲ませて貰った。

 こうやって世話を焼かれるのも何だか懐かしい


「ねえ、ファレノはどう思う?ここの宿屋の」


 向かいのベッドに腰を掛けて飲み物を飲んでいたファレノに聞いてみた。


「そうだねえ、救えるものなら救いたいけど難しいだろうね。他のお客さんに影響が出ないようにレックス助祭みたいに聖水を撒いて回る以外の事は今は出来ないだろう。

 それ以上となると宿屋から教会に依頼を出してもらって対応できる人を呼ばないとね。悪魔落ちした魂を消滅させるだけならきっと今すぐにでも出来るだろうけど…」


「そっかぁ」


 やっぱりそうだよね。ここに至るまでに悪魔に頼らざるを得ない事情があって、だけど恨みをはらすことなく命が潰えてしまったのだろう。

 死んでまで苦しみに囚われ続けるだなんて、なんて救いのない…


「サニー、気になるだろうけど俺達にも出来ることと出来ない事があるんだ。悔しいけどね」


 ファレノが私の横に腰を掛けて肩を抱いてくれる。

 神様だって万能じゃない。この世を作ったと言われる万能たる創生の神様ならどうとでも出来たんだろうけれど、彼の方は自分の能力を分け与えた神々を生み出し、以降その消息は知れない。


 更に末端の元天使など本当に何の役にも立たなくて、ただ無力感に襲われた。


「ファレノ、私はこういう時に何も出来なくて、歯痒い。仮に元の姿だったとしても恨みに囚われた魂を神様の元に導けるかもわからないし。私は何をすればいいんだろう」


 泣き言が次々に口からこぼれ落ちる。情けない。


「うーん、サニーは色々と難しく考え過ぎじゃないかな。

 サニーが出来る事はね、その心が闇に囚われる事なく健やかであることだよ。

 それで俺は救われるし、サニー自身も救われる」


「ファレノ…」


「それはね意外と難しい事なんだよ」


 しみじみと語るファレノに私は頭を撫でられてされるがままに身を任す。くよくよ考えても仕方ない、か。

 ファレノも昔何かあったのかな、人を恨むような事が…


「うん、うん」



 いつか話してくれる日が来るのかな





 温泉に体力を持っていかれたのかいつの間にか眠りに落ちていたらしい私が目覚めたときには空が白み始める時間だった。


 隣にはファレノ、足元にはクーさんがいてベッドの上は満員御礼だ。


 今日は何時に出発するのだろうか。それとももう一泊するんだろうか。

 規則正しい寝息に何故か胸を擽られながらファレノを見詰める。


 ルイスさんの母親が心を病んでしまったようにファレノの母親もそうなってしまったんだろうか。

 勝手に想像をして怒られそうだけど、それでも今ファレノが心健やかでいてくれることを神様に感謝した。


 静かな室内にノックの音が響き次いでルイスさんのまた一緒に寝てるとの声で目覚めたファレノとクーさんと一緒に朝食をとりに食堂へと向かった。




「という事で、せっかくだから今日もこちらで一泊して、明日の夜明けの馬車で帰ろうか。温泉も気持ち良かったし」


 レックス助祭が温泉の魅力に完全に堕ちていた。心なしか雰囲気もゆるっとしている。


「この宿屋の問題は帰ったら例の件と合わせてヴィンセント司祭に報告しようと思う。結論は一緒だろうけれど。

 今日は観光しようか。たまには羽を伸ばすことも必要だろう」


それでいいのか、聖職者。


「ファレノ先輩、今日は私と一緒に見て回りましょう」


ルイスさんが素早くファレノに約束を取り付けていた。私も一緒に行く!


「ファレノ、私も一緒に行きたい!レックス助祭はどうするんですか?」


「私はお湯を楽しもうと思います。ん?貴方もですか?でがクーさんも一緒にですね。

メッシャー領と違ってこちらは観光地で人も多いですし、厄介な人もいると聞きますので十分に気を付けて観光して下さいね」


と朝食で打ち合わせをして、念のためと聖水を飲んでからクーさんをレックス助祭に預けてから一緒に出掛けるのを渋っていたルイスさんとファレノと共に街へと観光しに向かった。


宿屋の人に観光名所をいくつか教えてもらったので、そこから回るつもりだ。






まだ続く…


どこかでイチャイチャパートを入れたい

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