17.馬車の旅スタート
どうしようか迷いながら書いているので中々進まない。
今回からサブタイの前に番号振ってみました。
何が何やら訳が分からない内に司祭館へと戻ると再びリビングにお邪魔して話を始めた。
「仕方がないので今回の件、私も手をお貸ししますヨ」
手に便箋を持ったままの格好でそれを聞いてくれていた司祭様は、どういう事だと私にちらりと視線を寄越すが、すみません私もよく分かっていませんと首を横に振るとクーさんを見た。
司祭様は短く息を吐くと具体的な話をして欲しいとクーさんに視線を戻した。
私の膝の上を独占して胸を張っていたクーさんは、作戦内容を教えてくれた。
「先ず小僧の所に来ていた男達の後をつけて目的地に乗り込み、奴を見付けてコロス。以上デス」
わあ!単純明快。ちょっと近所に買い物に行く様な気軽さで言うのね。もう脱力しかしないわ。と言うかそもそも潜り込んでないじゃん。正面から堂々と行ってるじゃん。
「ええと、それだと教会を通さない、という事になるのですが」
「ええ、足手まといは要りませんカラ」
おふ、何ということを言うのか、足手まといって。ほら司祭様の視線も心なしかキツくなってるよ、クーさん!
「ごほん、ですが我々としても教会関係者の実家ですから関わらない訳にはいかないんです。あちらへ手紙を書いて言付けるつもりでしたので…ああそうだ、いっそのこと手紙を持って行くのに同行してもらってその足で解決して頂きましょうかね」
なんてね、冗談ですよと軽い調子で言う司祭様に、良いですヨと返すクーさん。
「向こうの教会連中にその手紙を渡シテ、腰を上げた所で偶然を装って混ざれば良いんですネ。
しかし私の見た目ではいくらこの首輪をしていようとも間違って聖職者に攻撃されるかもしれまセン。
困りましたネェ、うっかり殺してしまったらどうしまショウ」
声を弾ませてうっかり殺すとか冗談でも言わないで欲しい。
「つまり貴方は同行者に貴方の監視役であるサニーも寄越せと、そういうことでしょう?ついでにその旅費も出せとね」
「フフ冴えていますネ。彼もそろそろ旅に出て他の地で経験を積むのも良いんじゃないかと思いましてネ」
「はあ、しかし旅は危険を伴うものですよ。いいのですか?大切なサニーが危険な目に遭っても」
旅、旅かぁ、楽しそう。いや違う違う。そうだ危険があるんだ。
この辺にはいないけど他の地域では盗賊なんかも出るかもしれないし。
「サニーは護身術を身に付けましたし、そもそも手を出したものは殺しま、いや、九割殺しにしますシ。
悪魔対策には背中の聖痕が有効でショウ。神の心配性が役に立ちましたネ」
だからいいでショウ、と可愛らしく小首を傾げて問うクーさんである。
これで犠牲が最小で済む可能性に、眉間に皺を寄せた司祭様はまた溜め息を吐くと私の方へと目を向けた。
「僕が動くと教会的に良くないから申し訳ないけど同行は出来ない。それでもサニーは旅に出る事は問題ないか?」
「私は大丈夫です。それで解決するなら喜んで行きます」
と言うか旅と聞いてから俄然行く気しかないし、解決した暁にはその地の名物料理を是非頂きたい。
そんな邪念を感じ取ったのか司祭様に若干呆れた視線を向けられたが気にしない。
「しかし、ファレノには何て言って行くつもりなんだい?彼は心配するぞ、きっと」
そう言われてはっとした。
そうだ。黙って行くのは発覚したときが怖いし、逆に私だったら絶対に言って欲しい。黙って行かれるなんて考えられない酷い行為だ。なので言うには言う。
心配、凄くされそうだな。出来れば一緒に行きたいし万が一にも死ぬのなら一緒がいい…駄目だ思考が物騒になっている、訂正訂正。
唸って考え込む私の様子に苦笑いを浮かべた司祭様が、一応ファレノも同行するつもりで考えてみるよと言ってくれた。
「ありがとうございます。でもファレノには安全な場所に居て欲しいです。でも同じくらい一緒に行って欲しい気持ちもあるんです。うう」
「ははは、まあ君が行くなら彼も間違いなく行くと言うだろうけどね。
暫くは留守をすることになるから先生にも話を通さないといけないし、ルイスの元に来ていた男性にもコンタクトを取らないと。準備もいるから…そうだな、二日後の早朝に修道院から出発する事になると思うからそのつもりでいて。
予定が変わったら、明日の晩までに連絡するよ」
「良かったネ、サニー。」
「良かった…のかな、良かったんだよね。うん、ありがとうクーさん。
司祭様もありがとうございます」
「いいよいいよ。仮にこちらが動いた事で他所の教会と揉める結果になったとしても、僕としても人命第一だから。
クーさんが行ってくれると言うのなら動かない手はないよ。何せ彼は同族を躊躇う事なく害することが出来るからね」
司祭様の言い方に刺があるけれどその通りなんだよね。クーさんは昔からの知り合いでも容赦なく攻撃が出来るのだ。例えばナキアさんとか。
ではまた後日。とそこで解散になり私は再び孤児院へと足を向けた。
修道院に引き返すのは止めておいた。司祭様から連絡が行くしファレノの顔を見てしまうと、同行して欲しいと口が勝手に言い出しそうだったから。
「クーさん、ありがとう」
「いいえ、私もわざと意地悪を言って煽りましたし、あなたが人間に優しくしている所を見るのも好きですノデ。
それに私も旅にも出たかったですしネ。確かあの方言が使われる地方にはいい温泉が湧いていたと思いまスシ。」
「なに煽られてたの私、わざと意地悪とか…って言うかおんせんって何ですか?」
「ふむ、それは着いてからのお楽しみデス」
短い尻尾が元気に振られている所を見るに楽しい場所らしい事は伝わってくる。分かりやすくて大変結構。私も思わず笑顔になってしまう。
「それにあの地方のB級グルメは美味しいと聞きますカラ」
「B級グルメ!なにそれ凄く気になる」
まるで普通に旅して観光する気軽さで語るクーさんにつられて、私まで旅行気分になってきた。わくわくが止まらない。
その日の夜、オリバーに詳細を話すわけには行かないので、奉仕活動で遠くの街まで行くことになるから暫く部屋を開けるとだけ言いその事を詫びた。
その間オリバーは部屋に一人になってしまうからだ。しかし、前もって分かっているなら少しの間なら他の部屋で寝ることも出来るらしいと知り安心した。
「サニーもファレノ兄さんみたいに聖職者を目指すの?」
「んやぁ、その予定は無いんだけど、その、ちょっと依頼を受けて…うん」
等と誤魔化してしまったけど。
さて、そうこうしている内に当日である。
特に日付や時間の変更はなく、メンバーはルイスさんを訪ねてきていた男性三名と助祭一名、ファレノ、私、クーさんとファレノが行く事を知ったルイスさんが見事な手のひら返しを見せゴリ押しで加わった。
目的地は、ここから西に馬車で十日程進んだ先にあるサンカイ地方のレトルバーリ男爵領にある教会だ。
司祭様から預かった緊急の手紙をその教会の責任者に渡す手筈になっている。
手紙の内容をざっくり書くと、『危険な悪魔が潜伏している可能性があるとこちらで神託を受けた。僭越ながら確認の上早急な対応を求む。』というようなものらしい。
そんなズバリ言っても大丈夫なの?『お宅の教会では気付きもしなかったの?ぷぷぷ。』とかって取られたりしない?不安だ。
持ち物は用意するように言われたのが、汚れ防止の祈りを縫い付けたマントと毛布、替えの同効果が付与された下着二枚と布、携帯食料、水の祈りを刻んだ水筒以上だ。これを大きめのリュックに詰めたがこれだけで十日も旅が出来るのだろうか。
道中通る村で食料は補給するらしいのだけど…
同行してくれる事になった助祭さんはいつだったか書庫にお邪魔した時に鍵を貸してくれたレックスさんという方だった。
クーさんの元同僚で水の神を主神に持つ方だそうだ。
道中の水の補給や向こうの教会とのやり取りを受け持ってくれる事になっている。
因みに悪魔への攻撃手段としては水の神様への祈りで聖水を使うそうだ。
話を元に戻そう。
私はてっきり乗り合い馬車で移動すると思っていたけれど、男性は男爵領の領主から馬車を借りてきていた。そしてそれに乗り込むと早々に街を出発した。
二の月終わりの冷たく澄んだ空気の中を馬車は進む。
早朝ということもあり馬車内部も風に直接晒されないだけマシという程度で非常に寒かった。
マントをかぶりクーさんを胸元に抱きファレノにしがみついて暖を取る。
「ファレノ先輩、何故このチビ…、サニーさんも同行しているのですか?それにこの不気味なポメポメまで」
「うーん、彼らは少し特別でね。遊びに連れてきた訳じゃないから心配は要らないよ」
馬車に揺られながら少し眠気を感じながらファレノにもたれ掛かりうつらうつらとしている所に、上の会話が耳に入ってきた。
「ほ~ん、この坊っちゃんとこのど派手なポメポメが特別ねぇ。初めて見たときは失礼やけど魔獣かと思ってびっくりしたけどな。まあよく考えたら魔獣が教会と関係持つわけ無いのになぁ」
はっはっは、と随分砕けた様子で話す男性は男爵領で領主に仕える護衛の一人でマカー・ランドルと名乗った。肉が似合いそうな逞しいおじさんだ。
他に連れていた男性二名は領主館で雇われている御者とのことだった。
「ところで領主様とそのご家族様が次々と謎の病に罹患したと言うことですが、他の人への感染は見られるのですか?」
「レックスさん、それが不思議なことにメイドも執事もけろっとしてますのや。勿論私も含めてです」
「そうですか。ヴィンセント司祭が言うには強力な悪魔の仕業と言うのですが、それに関して怪しい人物など心当たりはありませんか?」
「そうですねぇ、ここ半年で一人えらい別嬪なメイドが入ってきたってくらいですやろか。勿論その娘も元気にお仕えしてましたけど、身元もちゃんとした娘ですし。
怪しいと言うか、領主様の回りで変化があったとすればそれくらいで」
「そうですか。ありがとうございます。そちらに着くまでまだ日が掛かりますし、思い出すことがあれば教えて下さい」
等と大人は話していた。
メイドさんか、そう言えばそういった身分の高い人に会うかも知れないんだなとぼんやり思っているといつの間にか眠ってしまったようだった。
次に目が覚めたときはお昼過ぎだった。
「良く寝ていたねサニー」
よしよしと頭を撫でられ寝惚けた頭で状況把握に努める。
そうだ、馬車旅の途中だった。
「緊張感の欠片もないんですね、その子。本当に大丈夫なんですか?ファレノ先輩」
うっ、それは自覚しているけど、ルイスさん何だか私に当たりがキツくないだろうか。何かしてしまったのだろうか…
「大丈夫だよルイス。時が来れば分かるさ」
納得しない様子で睨まれてしまった。
「え~と、足手まといにならないよう努めます」
へへ、と愛想笑いを浮かべてルイスさんに言えば思い切りそっぽを向かれた。
目的地に着くまでにもう少し仲良く出来ればいいなと思いながら、馬車に揺られた。
続く




