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展開についていけない!誰か説明して

短いです。すみません。

 

 そしてあっという間に時は経ち、ベックは他の子達より一ヶ月早く卒業していった。



 日々筋トレを重ね筋肉がうっすらとついてきたところで、年を越した辺りから自衛に使える簡単な動きを教えてもらった。

 それは繰り返し同じ動作をすることで混乱していても身体が反射で動くように考えられたものだった。


 ベックが去った今も早朝のランニングと筋トレ、自衛の動作確認を続け一対一の痴漢相手ならば逃げ出せる術を手に入れられた。

 もうノーガードの私ではない。ちょっとの反撃手段と逃げ出す脚力を手に入れた私なのだ。


 まだ寒い早朝の薄暗い裏庭で、一人不適な笑みを浮かべ悦に入る。


「嬉しそうだネ」


「うん、まだ実際どこまで通用するかは分からないけど、前みたいに何も出来ずに好きにされる事はないかなって思って」


 身長も僅かに伸び日々成長を実感しているのだ。嬉しくないわけがない。


 このスピードで成長を続けるとファレノに追い付く日も近いかもしれない、なんて。

 確か彼が今百七十五センチとか言ってたと思うので私が百五十二センチだからあと二十三センチか…むう、ファレノの身長が今で止まれば追い付く可能性が上がるのだけどね。


 彼が私と同じ年齢のときはもう百六十センチはあった気がするから、え、ファレノこの数年ですごい背が伸びてない?ずるい…


 ま、まあ、私には私の成長ペースがあるのだ。きっと三十センチくらい二年くらいで伸びる可能性もある。マッチョの神様私の成長率を上げてください…


「そうですネ。それに私とあなたの繋がりも以前よりも強くなりましたし、万が一の時は直ぐに私が駆け付けますカラ」


 大人しく待っていてくださいネと続けて彼は言う。

『繋がり』とは私の精を取り込むことで強くなるそうで、意識すれば私がどの辺りに居るか分かるとのことだった。

 それも以前より精度が上がりピンポイントで居場所が分かるという。それってある意味怖いんだけど、頼もしいとも言えるのかしら


 などと準備運動の合間に会話しランニングを始めた。




 早朝の冷たい空気を肺に満たし一定の速度でクーさんと共に走る。

 教会の前から大通りに出て修道院の正面を通り暫く道なりに走ると途中で折り返して孤児院へと戻るのがお決まりのコースだった。


 道を挟んだ商店が建ち並ぶ地点を通過するときは、パンの焼ける匂いやスープなどを煮込んでいる匂いが漂ってきて食欲が刺激される。


 お腹が音を鳴らし存在をアピールし始めるが無視して走り続ける。

 折り返して修道院の前に差し掛かったとき誰かの声が聞こえた。

 言い合いをしているかのようなそれにクーさんと目配せしあい声のする方へと足を向けた。


「止めてください!私にはもう関係のないことだ、二度と来るな!」


「そうは言ってられんのや坊っちゃん、戻って来てくれんと困るんや」


 修道院からも何人か出て来ており様子を見ていた。

 その中のファレノの姿を見付けて駆け寄ると、挨拶を交わした。


 揉め事を起こしていたのはルイスだった。相手は身形の良い男性だ。彼の後ろには従えるように二人の人物が控えていた。


 私が口を出す事ではないが好奇心が疼いて仕方ない。


「ルイスさん何かあったの?」


「さあ、実家から訪ねて来た人らしいのだけどね。それよりサニー。厄介事に首を突っ込む癖は直した方がいいぞ」


 迫力のある笑顔を向けられ説教の気配を察知したので、慌ててじゃあね!と声をかけて逃げるように孤児院への近道を通り抜け走って帰った。




「はぁはぁ、危ないとこ、だった。ファレノの説教は長いから、はぁ、はぁ」


「フム。しかし、あの小僧はこのままだとちょっと危ないかもしれませんネェ」


 息を整えながら孤児院の裏庭にある井戸へと向かい歩いていると、クーさんの口から不穏な言葉が飛び出した。


「な、と言うか小僧ってルイスさんの事?危ないって何が」


 そう聞きながらも手は勝手に習慣になった動作をする。井戸から水を汲み上げ布を浸すと固く絞って汗を拭き取ると冷たい空気に晒され火照った素肌が気持ちいい。


 その様子をじっと見上げながら、クーさんは特に焦らすでもなく教えてくれた。


「あの男達から覚えのある気配が漂ってましてネ。そいつが結構仕事の出来る奴でして、人間側からすると質が悪いだとか鬼畜だと言われるような所業を得意としていましたので下手をすると彼の一族は全滅する。かもですネェ」


 思わず手が止まりクーさんを見詰める。輝く赤と金がグラデーションした瞳に冗談を言っている様子はない。全滅の言葉に血の気が引き緊張が走る。


「急いで司祭様とファレノに伝えないと」



 時間はまだ早朝とあって司祭様も自宅にいる筈だ。

 部屋へと戻ると着替えてからオリバーへ伝言のメモを残すと、私は司祭館へと向かった。




 ドアノッカーを数度叩く。

 司祭様が出張に出たとは聞いていないので在宅の筈だ。

 焦れる思いで反応を待ち、追加でもう一度叩こうと手を出した所でラフな姿の司祭様が出て来た。


「やあサニーおはよう。クーさんもおはよう。こんな朝早くから何かあったのかな」


 ただならぬ雰囲気を察してくれただろうに、存外のんびりとした反応を返され緊張が解けていく。


 どうぞと家の中へと通されると司祭様はキッチンでお茶と簡単な食事を出してくれた。


「急いでいることは分かるけれど、ご飯を抜くのは良くないね。食べながらでよければ聞くから話すと良いよ」


 笑顔でそう言う司祭様に感謝を伝えてお祈りをすると渡されたサンドイッチに手を伸ばす。

 空腹だった事を思い出し必死で大きめのそれにかじりついた。


「ほう、クーさんが言うなら間違いなく悪魔絡みだろうね。さて、どうしたものか。」


「そうですネェ。人間だけで完全に向こう側へ還すなら最低でも司教以上の力が欲しい所デスガ、貴方(ヴィンセントさん)でも問題はないデス。力があるにも関わらずご自身が司祭より上の役職に就くことを拒んでいる様ですしネ」


「嫌ですねえ、そんな事ありませんよ。僕は頑張っても司祭止まりの男ですから」


 はっはっは。と続けてこちらはこちらで何だか変な雰囲気である。


「予定を調整して彼の実家へと向かった方が良さそうですが一応はあちらの教会の管轄ですし、一先ず確かな筋の情報という事で話をする形になりますね」


「上位悪魔は隠匿が得意ですからネェ、素知らぬ振りをして暮らしているでしょうし信じて貰えると良いですネ」


「クーさんがどうにか出来たりはしない?」


 咀嚼していた物を飲み込むと私はダメ元で聞いてみた。

 可愛らしくこちらを振り返り見上げてきたクーさんは軽く言ってのけた。


「出来るでしょうネ。ですがサニーに危険が及ぶわけでもありませんし、興味もありませんのでどうにかする気はありまセン」


 と、笑みを浮かべて話している。こういう究極的に個人主義な所が悪魔だなとしみじみ思いつつ、そうだろうなと納得してしまう。


 現状は出来ることは司祭様がルイスさんの実家がある地域の管轄の教会に連絡を取り、あちらで解決してもらうしか無いのだ。

 それでも解決しなければやっと中央の教会へと話が上がり、他の対処が出来るであろう教会へと話が振られる。

 そんな面倒なシステムより人命を優先して欲しい所だが個人ではどうにもならない事なのだ。実に歯痒い事だった。


 また進展があれば連絡をもらえる様にお願いし、私は肩を落として孤児院へと戻った。


「歯痒いですカ、サニー」


「うん、そうだね。救えるかもしれない命が失われるのは辛いよ」


 しかも悪魔に捕られた魂は余程の事がない限り、解放されることがない。永遠に弄ばれるか何らかで消費されれば完全にその存在が消滅してしまう。


 運良く魂を案内するために出向いた天使と遭遇することがあれば、下位の悪魔であれば魂を奪い返すことも不可能ではない。


 しかし今回の悪魔は上位だと言う。ならば現場に遭遇しても天使が殺されて終わりだ。

殺されて終わるならいいが最悪…これ以上は考えたくない。


「あちらの教会で抑えられず王都にまで伝われば、きっとファレノは戦力として引き抜かれるでしょうネ」


「え、」


足が止まる。クーさんは何を言っているのだろうか。


「彼、もう王都の連中に目を付けられていますよネ?ですから癒し手として同行を言い渡されるでショウ。それまでに何人の人間が死んでしまうかは分かりませんが、殺す程に奴は力を手に入れより強くなりマス」


軽快なステップで歩いていた足を止めると、ことらを振り向いたクーさんは実に楽しそうな表情をしていた。


「楽しみですネェ。あ、万が一にもサニーに危害を加えることがないようにあなたは守りますので心配はいりませんヨ」


その言葉に私は震えた。今まで一緒にいて見たことがなかった悪魔の一面を見せ付けられて、恐怖を覚えた。

しかし同時に怒りも覚えた。

解決する力があるにも関わらず行使せず罪のない人の命が失われる事を簡単に許容する事に。悪魔の本質がそれであってもあまりに酷い。


「クーさんはもう、悪魔じゃないでしょ!私の魂も合わさって人間に対する良心が少しは芽生えているんじゃないんですか?」


苛々して感情をぶつけるようにして捲し立てた。しかし本当に怒るべき相手は力を持たない私自身だ。

見ていることしか出来ない歯痒さ、大切な人まで危険な目に遭うかもしれないのにそれを止められないし、助けられない。

目頭が熱くなり鼻の奥が痛む。

クーさんを睨むようにして見ていると、駄々っ子を慰めるように彼は言った。


「良心、ネェ。うーん、ちょっとよく分かりませんがもう少し魂を頂けたら芽生えるかもしれませんネ、なんて意地悪は言わないですよヨ。嫌われたくないデスシ。そんな顔しないで下さい仕方ありませんネェ。特別ですヨ?」


「うう、どうする気なの」


色々な感情が去来して涙する私にクーさんは得意顔になって高らかに宣言した。


「ちょっとあちらに潜り込んでみましょうカ」


そうと決まればヴィンセントさんの所に戻って会議デス。とクーさんは短い尻尾を振りながら来た道を引き返し始めた。


え、え、と戸惑う私に早く行きますヨと声をかけて混乱しながらクーさんの後を追った。







続く

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