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何事も早めの行動が吉だと思う

※途中匂わせ程度にシモいところがあります。

苦手な方は薄目で該当部分を読み飛ばして下さい。


 

 アンジュさんの勢いに押されて思わずよろしくお願いしてしまった私だけれど


「えと、私、弟?」


「そうよ、だってあなたたちは一緒に育った仲だって聞いているもの。サニーって呼ばせてもらってもいいかしら。数年でもマーディンと同じ家で寝食を共にしたと言うのなら私の弟と言っても過言じゃないわ。私一人っ子だから兄弟姉妹が沢山出来て嬉しいわ」


 おお、可憐な見た目に反して何たる剛胆さを秘めた女性だ。何か格好いい。


「なるほど、そういうことですね。ではアンジュ姉さん改めてよろしくお願いします。

 マーディン先輩は後でこっちにも顔を出して頂けるんですよね?」


「そうだね、皆の様子を見に行くよ。次はいつ来れるか分からないからね」


 じゃあまた後で、とマーディン先輩達と別れて今日のトレーニングは夕方に回すことにして修道院の方へと足を向けた。

 司祭様から話が行くかもしれないけれど、一刻も早くファレノに伝えたかったのだ。


「クーさん修道院まで走るよ!」


「きゃん」


 クーさんはお外モードの低音ボイスでお返事を頂き、今行くと会える気がしたので急いで走って修道院へ向かった。



 教会の前庭を横切り修道院との境に植えられている低木の隙間を縫って玄関へと向かった。

 すると調度玄関扉が開けられ中から箒を持ったファレノが現れた。

 予感が的中したことに軽く驚きつつこれも導きの神様の思し召しなのだと思い、ファレノに手を振った。


「おーい、おはようファレノ」


「キャンキャン」


 早朝なので小声で近付きながら挨拶をするとファレノも驚きの表情から優しい笑みに代わり挨拶を返してくれた。うーん、ファレノの笑顔が心に染みる…


「おはようサニー、驚いたよ。どうしたのこんな朝早くに」


 俺は今から掃き掃除だ。すぐ終わるから待って等と続けて言うと、開け放した修道院の玄関から続く階段を手際よく掃き始めた。


「ふっふっふ、ファレノにビッグニュースがあるんだよ」


 葉っぱなど粗方掃いた物を塵取りに集めているのを見ながら、私はつい我慢できずに話し出してしまう。

 そんな落ち着きのない私にファレノは注意するでもなく、しかし手は止めずに優しく話を促してくれた。


「そんなに嬉しいことがあったの?すごい笑顔だけど」


「あ、分かる?あのね、さっき教会の前庭でマーディン先輩に会ったんだ!それで今日なるべく早い時間に孤児院(こっち)に来れたりしない?無理そうなら伝言を預かっておくよ」


「そうなんだ、それは是非会いたいな。次いつ会えるか分からないしね。ちょっと待ってもらっていい?先生に聞いてくるよ」


 ファレノはマーディン先輩と同じような事を言いながら塵取りに集めた葉っぱを手早く焼却炉に放り込みに行くと修道院の中へと戻っていった。

 私もクーさんも中に入って待っていると良いと言い玄関から入って直ぐの所にあった部屋へと通された。

 もう肌寒い時期だったから助かった。


 そこには机と椅子だけが置かれていたのだがちょっと休憩するには調度よさそうな部屋だった。


 窓もあったのでそこから外を見ていると、ノックの音がしたのでもうファレノが戻ってきたのかと思いそれに応えた。


 軽く音を立てて開かれた扉の先に居たのはファレノではなく私と同じ歳頃の少年だった。

 格好からして修道者なのだろう、この部屋に何か用があるのだろうか。


「えと、朝早くにすみません。お邪魔しています」


「ふん、邪魔してるんやと思うんやったらさっさと帰ってくれん?」


 ん?何だって?私今凄い拒否られている?何で?

 頭に疑問符がいっぱい浮かんだ。


「いや、人を待っていますので帰る訳にはいかないのですが、この部屋にご用があるのでしたら退室しますが」


「知ってるで。あんたファレノ先輩にしつこくしつこく、付いて回っとる奴やろ?…ほんま目障りやわ

 って言うか何なんこのきっしょい柄のポメポメ」


 お、おう、敵意が凄い。クーさん、めっ!唸らないの。クーさんがめっちゃ可愛いポメポメなのは周知の事実だから。新参者の言葉に惑わされないで。


 しかし、嘗てのベックをも遥かに上回る程の熱量で睨んで来るなあ。

 でもその眼力に負けるわけにはいかないのだよ。


「私は別にファレノさんに付いて回っている訳ではなく、時々行動を共にしているだけです。何故ならファレノさんは私の大切な」


 キメ顔で宣言しようとした矢先に再びノックの音がする。

 少年は肩を跳ねさせると小声で、要らんこと言うたら後でシバき回すからなと言ったかと思うと、扉の方へ向き直り一オクターブ高い声でどうぞと言った。


 私は唖然とするばかりである。さっきから何なんだこの人は。


 開かれた扉から現れたのは私の待ち人、ファレノだった。


「あれ、なんでここにルイスがいるの?今日掃除当番だっけ?邪魔してごめんね、私達直ぐに出ていくから」


 そう言うと口が開きっぱなしになっていた私の手を取り部屋から出ようとした。


「待ってください、ファレノ先輩!どちらに行かれるのですか。今日は私に色々と教えてくれると言ったじゃないですか!」


「すまない、ルイス。後日必ず埋め合わせはするから今日は行くよ。家族が会いに来ているんだ」


 それだけ言うと、ファレノは彼の返事も待たずに外へと向かう足を進めた。私はルイスと呼ばれた彼に会釈だけしてそのまま引っ張られる様に修道院を後にした。


 行きとは違い正規の道を通り教会の前庭まで来た時にルイスの事を聞いてみれば、暑い季節にこの修道院に転院して来た十三歳の少年だという。

 独特な話し方だね言えば、え?と驚かれた。彼は綺麗な王国語だろう、と。


 そうだったねと、咄嗟に返したけれど不味いことを言ってしまっただろうか。後々の面倒を避けたかったので聞かなかったことにして、と言っておいた。

 何、ファレノなら分かってくれると確信している。

 クーさんはやれやれと少し呆れた様に一声鳴いた。




 孤児院へと着くと、まだマーディン先輩は来ていない様だった。騒ぎになっていない事で直ぐに分かった。


 調度良い。そろそろ朝ご飯の時間だし、食堂でマーディン先輩が後で来ることを皆に伝えよう。

 ファレノの方を見れば同じ事を考えていたようで頷きをくれた。


 私は食堂へと向かうと皆!と呼び掛けた。





 食事後に時間が取れる者だけ残る事にして、それぞれ朝ご飯を食べ始めると先に食べ終わっていた子達が食堂に戻ってきて言った。


「皆、来たよ!マーディン兄さん、女の人と一緒に来てる!」


 その言葉に一気に沸き立つ食堂の面々である。

 正にサプライズ。ファレノも私の横できょとんとした顔をしていた。


「やあ皆、久し振り。初めましての子もいるよね。ご飯時にごめんね、直ぐに帰らなくちゃいけないから紹介だけさせてね」


 と、マーディンの横に並んで立っていた女性、アンジュが頭を下げた。


「こちら、僕の奥さんになるアンジュさん。勤め先のパン屋の娘さんなんだけど縁があって一緒になることにしたんだよ。よろしくね」


「アンジュです。マーディンさんのご家族にお会いしたいという私の我が儘で連れてきてもらいました。朝の忙しいときにごめんなさいね。将来的にはこの街でマーディンさんと一緒に焼き立てパンの喫茶店を開ければいいな、と思っています。その時はよろしくね」


 そんな計画があったんだ、と驚いているとアンジュさんと目があった。

 悪戯が成功した時のような茶目っ気のある笑顔で目を細める彼女は輝いて見えた。


 それから少しの間二人は皆から質問攻めにあい、そろそろ時間だからと帰っていった。勿論皆総出で見送った。これから街中に戻り午前の乗り合い馬車で帰るそうだ。


 マーディン先輩が暮らす町はここから馬車で三日程かかる所にあり、行きと帰りで別ルートを通り中継地で観光していくと言っていた。

 今回の帰郷ってもしかして俗に言う新婚旅行というやつでは?


 何はともあれ目出度い二人に幸あれ!



 ファレノはもう少し時間があるからと、ぞろぞろと孤児院へと戻る皆の列に加わりオリバーとも合流しマーディン先輩について話ながら歩いた。


 思えばマーディン先輩ももう十八歳なのだから結婚してもおかしくはないのだ。その内可愛い赤ちゃんに恵まれたりするのかな、何て思っていればクーさんがこちらにちらりと目線をやって意味深にキャフと鳴いた。


 え、まさか、もう出来てるとかそういうこと?


 思わずファレノの方へ目線をやれば、流石に私の思考まで読み取れなかったのか首を傾げられた。え、可愛い

 ファレノの服を引っ張り少し屈んでもらうと耳元へ手をやり内緒話をすると、聞いた途端に私の方を見てクーさんを見て最高の笑顔を見せてくれた。



 孤児院に着くと、それぞれやるべき事のために動き出す。

 私はもう少しファレノと話したかったので部屋へと向かうことにした。





 ファレノがこの部屋に来るのも久し振りである。

 来年は部屋の移動があることを思えば、この部屋でファレノと過ごす日もそう多くはないだろう。


「クーさんは何で分かったの?赤ちゃんのこと」


 窓際の机に移動しながら話すと、鼻が効くのデスと返ってきた。


「マーディンも中々やりますネ。ぼやっとして見えてキメる時はキメる男デス」


「新婚早々にお目出度いな。無事帰り着く事を祈っておこう」


 とファレノと一緒に彼ら一家の道中の無事を暫し祈り、生命の神秘の一端に触れた感動に浸った。


「別に今でも良いんデスよ、ファレノ」


 突然言い出したクーさんの言葉に何の事やらと思ってファレノを見れば、彼は何故か顔を赤らめていた。


「サニー、今月分ちょっと早いデスが、頂いても良いですカ?あなたもファレノがいた方が調子が良いでしょう?」


 ん?あ、そういうこと?こんな朝から明るい所で?

 でも、クーさんの言うことも一理ある。そう、実は私、恥ずかしいのだけれどファレノがいた方が調子が良いのだ。

 ぼやかさずに正直に言えば、自分で頑張るのと比べて気持ちの良さが段違いで時間がかからないのだ。


「う、ファレノが良いならお願いしたいです」


「何で敬語なの。勿論良いに決まってる」


 という事で、幸せ新婚夫婦に触発されてかノリノリなファレノに朝から翻弄されたのであった。



 ※割愛※



 う、頭がおかしくなりそうだ。癖になったらどうしよう。既に手遅れという気がしないでもないけど。

 鍵はしていたけれど誰も部屋を訪ねて来なくて良かった。


 布に擦れると少し痛痒く感じる部分を気にしながら寝返りを打つと目の前のファレノの腰にしがみついた。


 そんな私の頭を優しく撫でてくれる彼の手に目を閉じ、されるがままになって思う。

 彼自身も途中までは、勢いを感じるのに、いつの間にか落ち着きを取り戻しているのはその状態への慣れと精神力の違いなのだろうか。

 それは私も彼くらいの歳になれば到達出来ることなのか。


 頭を撫でる手が肩に落ちていき腕を辿っていき手を取り握られる。


「ファレノありがと。今月も無事終わってよかった」


「いつでも付き合うから気軽に…」


 緊張と弛緩から眠気に襲われるがシーツを洗いたいので起きなければ。

 しかし強弱を付けて握られる手がマッサージされているようで気持ち良く、いつの間にか眠りに落ちていた。





「ん?あ、寝てた」


 身体を起こすとすっかり綺麗にされていた。いつも終わったら寝てしまうのをどうにかしたい。

 私のベッドの方に運んで寝かせてくれたようで、さっきまで使っていたベッドを見ればシーツは見当たらず、ファレノも姿が見当たらない。


 クーさんが居ないのはもうそういうものだと思うようになった。きっと元気に飛び出して行ったのだろう。


 さて、これから何をしようかな。まだ昼前だろうから今からできる奉仕先を探してお手伝い行こうかな。

 等と考えていればノックの音がし、こちらの返事を待たずに扉が開いた。


 カーテンの隙間からそちらを見ればファレノが入ってくるのが見えた。

 どうやらまだ居てくれた様だ。


「ファレノごめん、私また寝ちゃってた」


「あ、サニー起きたのか。シーツとか汚れた物は洗濯して干してあるから夕方取り込みお願いするよ。それと、弄りすぎてごめん、赤くなってたけど痛かったら治癒するから」


「うーん、ちょっと痛痒いけどお祈りしてもらう程じゃないかな。ありがとう」


 それから少しファレノと話して彼は修道院へと帰っていった。

 帰ったら(ルイス)に勉強か何かを教えるのだろうか、と思うと少し胸の辺りが嫌な感覚に襲われた。

 胸に手を当てて擦って誤魔化すと頭を切り換える。


 今から出来ることをやろう。お手伝いに行くにしても夕方には戻って洗濯物を取り込みたいので近場で奉仕先を探す。


「うん、よし。じゃあ食堂に行って募集を探そう!」


 胸のモヤモヤを吹き飛ばすように、わざと声高らかに宣言し部屋を後にした。





 さて、本日の奉仕先は参加時間自由の清掃活動にした。

 事務所に行って詳しい話を聞くと、今から出来る作業は、老人や身体を自由に動かせない人のお宅にお邪魔して掃除するというものだった。


 掃除道具一式を借りると、依頼を出していた老人宅へと向かった。




「こんにちは。カーラさん」


 街の住宅地にある一軒のお宅の前に立ちドアノッカーを打ち鳴らす。

 暫く玄関扉の前で待っているとゆっくり扉が開き上品そうなご婦人が現れた。


「こんにちは。お待たせしちゃったわね。さ、こちらにどうぞ」


 杖をついている事から足を悪くしているのだろう、ゆっくりとした動作で部屋へと案内された。


 居間に通されお互いに自己紹介をし、どの程度掃除をすればいいか聞いておく。

 カーラさんは手の届く範囲は自分で掃除が出来るので食器棚や背の高い家具類の埃を拭いて欲しいのと、家具を動かせるなら動かして欲しいと言われた。


 脚立を貸してもらえるとのことなので早速取り掛かる。


 盥に水をいれ固く絞った雑巾で埃が立たないように気を付けながら丁寧に拭いていく。

 カーラさんも同じ部屋に居るので時折話ながら作業を進めていく。


 その時にした話によると、どうやらカーラさんは早くに夫を亡くし女で一つで一人娘を育て上げた。

 しかしその娘さんは年頃になると誰とも知らぬ子を宿し、色々あったが産まれてきた孫を見ればやはり可愛くて結局娘さんと一緒に育てたという。


 その時に産まれたお孫さんはこの街に仕事で来ていた王都の方と縁があり、結婚して家を出る事になった。

 それで、近々五歳になる曾孫さんを連れて遊びに来るというので家の中を綺麗にしておきたかったのだそうだ。


「元気な女の子でねぇ、こんな狭い家で暴れられちゃうとあっという間に曾孫が埃まみれになっちゃうと思ったの。

 曾孫が三歳の頃には私もまだ杖を付いていなくてね、王都の方に行けたのだけど今はもう来てもらうしか会う手段が無くてね。

 面倒をかけちゃって悪いけれど、でも会えるのがとても楽しみなの」


 足を痛めた時に教会で治癒の祈りで治してもらったのだが、若いときのように完全治癒というわけにもいかず杖を付いての生活になったのだという。


 今でも定期的に通ってこれ以上悪化しないようにしているという事を聞いて、ファレノもこれからこの様な困った人を助けていくのだと思うと、改めて凄いな~なんて思ったりした。


「あ、でも最近ね教会にたまにいらっしゃる修道者の方で治癒の祈りが得意な方がいてね、その方にお祈りしてもらうと痛みがすーっと消えていって凄いのよぉ。また暫くすると痛みだすのだけれど、それは治しようがないから仕方がないのだけど。

 その修道者の方はね近くで見るとちょっと変わった見た目をしているから、他の方と見分けがつきやすいのもいいところよねぇ…って、そんな言い方は失礼よね。

 でもあの方も王都の教会に引き抜かれちゃうのかしらねぇ」


 いつまでもここの教会に居てもらえたら助かるんだけどねぇ。とカーラさんは続けて溜め息混じりにそう言った。


 治癒の祈りが得意で変わった見た目と言えば十中八九ファレノの事だろう。街の人に頼りにされている事を嬉しく思う反面、恐らく将来的にその通りになるだろうから何と返して良いものかと返答に詰まった。



 粗方の掃除が終わり見れる範囲でチェックをしてもらうと、休憩にしましょうと声をかけられた。


 掃除道具を片付けて裏の井戸で手を洗って居間へと戻ると、美味しそうな香りのするお茶と可愛らしいクッキーが用意されていた。


 曾孫さん用に可愛いクッキーが焼きたくて花や動物を模した形になるよう工夫したそうだ。

 クッキーを焼くのがお孫さんが小さかった頃以来だったので楽しかったと笑って話していた。


 和やかに休憩時間を過ごした後、家具の移動も何とかこなしてお手伝いは終了となった。


 またご縁があればよろしくね、とお土産にクッキーを包んで持たせてくれた。


 事務所に報告と掃除道具を戻して孤児院に戻った頃にはちょうど夕方近くになったので乾いた洗濯物を取り込んで部屋に戻った。


 わーーー、疲れた。早くお風呂に入って寝たい。今日は超熟睡出来そうだ。

 窓際の机にだらしなく俯せになりご飯の時間を待つ。


 手元にあるクッキーはオリバーにあげれば他の子達と一緒に食べるだろうから後で渡そう等と、とりとめのない事を考えていればいつの間にか居眠りをしていた様で扉が開く音が聞こえて意識は戻ってきたものの眠気から動けずにいた。


 すると、部屋に入ってきた人物がこちらに向かって歩いてきた。

 その気を使うということを知らない歩き方はベックだ。歩いてくる振動と音が伝わってうるさい。


 文句が言いたくなったがまだ身体が動いてくれないことに焦れた気でいると、私の直ぐ後ろにベックが立つ気配がした。


 ベックはそのままゆっくりと私に覆い被さるようにして覗き込んでいるのだろうか、耳元で呼吸音がした。うるさい。

 何をする気なのだろうかと、じっとするしかない私はベックの次の行動を待った。

 息遣いだけが聞こえてきて非常に不気味である。何かするなら早くしろ!何もしないならどこかに行って!と心のなかで叫んでいるとそれを察したのか、サニー、と小声で話しかけてきた。


 やはりベックだったか。何かと面倒なこの男には同室以外ではトレーニング関係でお世話になっていることもあるし、たまに妙な雰囲気を醸し出すことがあるので必要以上に関わりたくないのが本音だったりするのだが。はて何用か。


「俺、来年の二の月にここを出る。本当は最後まで言うつもりもなかったけど、やっぱり言っておきたいと思って、寝てるお前になら言っても良いかって。その、は、初めて会ったときからお前の事、す」


「ただいまぁ、誰か戻ってきてる?もうご飯出来てるから呼びに来たよぉ」


 元気よく扉が開かれそこに現れたのはオリバーだ。私の天使であり私の癒し。

 私の眠りを妨害し、何か語りだしたこの男を連れ出して欲しい。って言うかいい加減私の身体動いて欲しい。


 オリバーが入ってきた途端に凄い勢いで仰け反ったのであろうベックは後ろに倒れてベッドの縁に背中を強打したらしかった。本当に騒がしい男だ。


「あれぇサニーは寝てるのかな。ベック兄は何してるの?死にかけの虫の真似?早く食堂に行こぉ」


 軽い足音がベックを避けて近付いて来ると優しく身体を揺すられ声がかけられる。

 するとさっきまで身体が動かなかったのが嘘のように普通に起き上がることが出来た。

 ありがとう、とオリバーにお礼を言うと、床で背中に両腕を回してのたうち回っているベックに仕方がないから治癒の祈りをし動ける程度にまで回復させると三人で連れ立って食堂へと向かった。


 この三人で同室でいられるのも残りあと四ヶ月もないも無いのだから。






※言わせねぇよ。


※割愛部分はまたムーンライトノベルズの方にこの投稿と同日同時間に予約投稿しています。

十八歳以上で読んでやっても良いという方はよろしくお願いします。

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