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覚悟が必要な時って度々訪れるよね

今回短めです。

 

「ただいまサニー」


 それから程なくしてファレノがこちらの修道院に帰り、孤児院へと顔を出してくれたのは翌日の昼頃だった。

 朝の食事当番が終わったところで私は疲れきっていたけれど、彼の顔を見た途端に口角が持ち上がるのが分かった。


「お帰りファレノ。王都はどうだった?」


 厨房に戻って貰ってきた軽食を彼へと出して食堂で話をしていると、それに気付いた他の面々も交えて楽しい時間を過ごした。


 彼の話によると、王都はこの国の中心部だけあってこの街よりも大きく、中央部にある教会の規模はそれに見合った大きさで礼拝に訪れる人も数え切れない程いたという。


 そしてその王都中央部の教会には用途別に建物があり、治癒院と名の付いた所でファレノは研修をすることになっており三週間余りをそこで過ごしていた。


 一日辺りに診る人数が地元(ここ)で診る人数の二日分相当で、大変だったと話していた。

 休みは週に一回あったが観光に行く余裕はなかったそうだ。


 ファレノの治癒の祈りの効果が知りたいとの事で呼び出され研修を受けたがその結果は上々で、効果の高さは既に王都の聖職者並みにあり王都の修道院に移動するか、将来的には王都に来ないかと声をかけられたという。


 そう聞いた時、私の鼓動は大きく跳ねた。

 ファレノが王都で就職する可能性が有ることに気付いたからだ。

 それは大変名誉な事だと思う。喜ばしい事で、王都行きが叶ったのならばおめでとうを言わなければならない。


 しかし私は出来ればファレノと離れたくない。

 神様からも一緒にいればいい的な事を言われていたし、でもそれは()()()()という事ではなかっただろうか。


 もしかして、私とファレノが共に歩む道はここまでなのだろうか…


 私が動揺しているうちに集まっていた皆は解散していた。まだ昼過ぎなのだからやることは沢山ある。


 とその時ファレノが私に耳打ちしてきた。


「ところでこの前のクーさんへのあれは問題なく出来た?」


 うっ、耳がこそばゆい。完全に油断していた私の耳から痺れが全身に走り抜け思わず身震いしてしまう。

 ファレノは声変わりしてから、何て言うか、うまく言えないけどすごく良い声になったんだよ。

 私は耳を押さえながら首を縦に振り肯定を表した。


「あ、でも実はやり方を教えてもらってから何度か挑戦してたんだけど上手く出来なくて、ファレノも王都に行っちゃったしどうしようって悩んでベックに相談したんだ」


「うん?」


 一応人に聞かれていい話ではないので小声で続けて話す


「私それまで何も考えずにオシエラレタ様に擦ってたんだけど、ベックは好きな子の事を考えたり何がしたいか、されたいか考えればいいってアドバイスをくれてさ。その後にちょっと実践して見せてくれたりした」


「は?」


「ちょっと驚いたけど、勉強になったんだ。でもそれ以来何かベックの様子がおかしくて」


 そこまで言った時にファレノの方を見れば彼は微笑んで聞いてくれていたけれど、その表情からは怒りが滲み出ているように見えて、先程とは違った震えが走った。


「ベックにアドバイスを求めたのは百歩譲って良いとして、実践して見せてくれたって何」


「え、えと、そのままの意味でやって見せてくれたって事だけど。ファレノは私を身体の前に持ってきて、その、触って教えてくれたでしょ。ベックは私の上に被さって、実演?して見せてくれたと言うか」


「はぁ、うん、サニーは何て言うか危機感が足りないね。

 ベックも本当は見せるつもりはなかったと思うんだけど…何か刺激されちゃったのかな。様子がおかしいって例えばどんな?」


 あれ、怒ってると思ったのは気のせい?いつものファレノっぽい雰囲気だ。


「私と全然目を合わせてくれないんだ。挨拶の時も普段話す時ですらそっぽを向くんだよ。以前までは大体睨まれていたから変な感じ。

 それと、身体が当たりそうになると凄い避けられたり。それでベックったら足を捻ったりしたんだよ」


「…ちょっとベックに同情したくなったな。

 それはさておき、暫くはその状態が続くだろうけど今はそっとしておくのが良いかもね。

 自分が思わずしてしまった行動が恥ずかしいんだと思うよ。吹っ切れたらいつも通りになるだろうけど。

 後で俺も話してみるよ」


「うん、分かった。ありがとう」


 そうか、ベックにも羞恥心はあったんだ。

 確かに私もあんな姿見られたら恥ずかしいだろうから、ああいう態度をとってしまうかもしれないなと納得したので今後はもう気にしないことにした。

 ベックに吹っ切れた様子が見れたらもう一度謝っておこう。


「じゃあベックのアドバイスを受けたサニーは何を考えてしてたの?」


 私は飲んでいた白湯を吹き出して咳き込んでしまった。え、それ言わなきゃ駄目なの?

 鼻にまで水がいってしまいツンとした痛みに耐えつつ涙ぐんで、思わずファレノを睨み付けて秘密!と言ってしまった。

 ファレノは絶対分かってて言っている。たまに意地悪になるの何なの本当に。



 この後ファレノは司祭様に呼ばれていると言い教会へと行ってしまった。私は勉強をしに部屋へと戻ることにした。


 忙しそうな彼を見ているとふいに不安になってしまった。

 手元に教会で貸し出してくれた本を置いて、つい考え込んでしまう。



 私も先を見据えて行動していかないといけない。

 ファレノが将来的に王都へと行ってしまうなら、私も王都でも通じる力を手に入れなければならない。

 だって離れたくないから。


 彼は彼でここに居る時より忙しくなるのは明白だ。その邪魔をしないように自立しなければ。


 王都にはここより働く場所は沢山ありそうだがその分以前の奉仕先にいたような厄介な人もいるだろう。また目をつけられて拐われては堪らないので、先ずは身体を鍛えようと思う。


 今も基礎体力を付けるために早朝走り込みをしているがそれだけでは明らかに足りない。

 腕力だ腕力。力は全てを解決するのだ。

 まだ年齢的に貧相だけど、鍛えていけばベックやダニーのように逞しくなっていく筈だ。

 ベックだって私と同じ歳の時は相応の身体だった。


 よし、私とりあえずムキムキになる!


 えーと、それにはクーさんとベックに協力してもらおうかな。…ベック、大丈夫かな?駄目で元々様子を見てお願いしてみよう。


 そう決めてしまうと霧がかかったような気分が晴れやかになった。ファレノはきっと十八歳まではここの修道院に居るだろうから、あと三年。


 途中で王都に行っちゃっても直ぐには追わずに、私がここを卒業するまであと五年で鍛えるだけ鍛えて一人で生きていけるように王都方面に縁のある奉仕活動でコネを作っておこう。


 祈りの勉強も怠らず、神様に呼ばれたら他の神様に伝がないか聞いておく。

 ファレノに再会した時に逞しく成長した私になって驚かせよう。ふっふっふ。


 私に出来るのはこんなところかな。


 よーし、頑張ろー!








「サニー、近頃随分と楽しそうだネ。」


「あ、クーさんおはよう。一緒に走りに行く?」



 あれから二週間が経った。

 ファレノと話した二日後の夜、ベックは目線を泳がせながらだけれど話しかけてくれた。


 やはり照れ隠しであの様な態度になっていたみたいで悪かったと謝罪を受けた。

 私も改めて謝罪と感謝を伝えて無事仲直りをした。


 そして私はその勢いでベックに時間があるときに、私を鍛えてもらえないかとお願いしてみた。

 以前私がいなくなった時のあらましを伝えて、いつか王都へと出たときの為に自衛出来るようになりたいのだと言えば了承してくれた。


 それから朝の当番が無い時、走り込みから続けて筋トレ、体術の基礎を教わるようになった。

 ベック曰く自己流だから本格的に習いたければ道場に通うしかないとのことらしいが、それでも何もしないより断然良い。しかもベックもこれを続けてその筋肉を手に入れたのであろうから遣り甲斐は十分にある。


 ベックが孤児院から去ったあとも地道に続けていけば逞しい男に成れる筈だ。

 私はその日を楽しみに日々を過ごすことにした。


 身体にある程度筋力と持久力がつけばクーさんに闘い方を教えてもらおう。

 それまでにマッスルの神様にご挨拶しておきたい。


 筋力アップの祈りが聞き届けられやすくするためにね!




クーさんと軽く柔軟して軽快に早朝ランニングを始めれば教会の前庭を通りがかった辺りで前方に見覚えのある人物が歩いてくるのが見えた。


それは二年前に孤児院を卒業していったマーディンだった。


「マーディン先輩!おはようございます。お久し振りです」


「え、サニーかい?おはよう。久し振り、大きくなったね。クーさんも久し振りだね。元気そうで何よりだよ」


あの頃と変わらない笑顔で挨拶を返してくれた先輩は元々大きかった身体が更に大きくなっていた。

パン屋は力のいる作業が多いせいか二の腕が羨ましいほど鍛えられていた。


「こんな早朝にどうしたのですか?あ、これから孤児院に来られるなら皆に知らせて来ますのでゆっくり来て下さい」


そう言うと来た道を引き返そうとしたところで、待ってと声がかかった。


「今日はね先に教会に用があるんだ。」


振り向いた先には先程は先輩の影になって見えなかったがもう一人いたようで、それは初めて見る人だった。


「この方は僕のお世話になっているパン屋の娘さんで、アンジュさんと言うんだけど今度結婚することになったからお世話になった院長先生にご挨拶に来たんだよ」


この時間だとお会い出来ると聞いたから昨晩は街に泊まったんだよ。と言う先輩の顔は幸せに溶けていた。

お相手の女性アンジュさんも少し照れた様子だが幸せそうに微笑んでいた。


「初めまして、アンジュと申します。あなたも私の妹…弟?になるのね。よろしくね」


「サニーです。よろしくお願いします。」




大変だ!マーディンがお目出度い事になっていた!







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