episode07 アハマール地方
私は今、王都から結構離れた場所にあるアハマール地方に訪れている。
もちろん、聖女公務のためだ。
何でも鉱山内で瘴気が漏れ出し、大勢の鉱夫が侵され、魔物が引き寄せられているらしいのだ。
アハマール地方にある鉱山は、クロマフ国とエストス国の国家間協定により、その豊富な資源を均等に分けられるよう、地域を等分占有している。
鉱山から産出する資源は、この国の重要な収入源となっているため、この件は決して無視できない由々しき事態であり、本来であれば、国家騎士のみならず聖女も多くを動員して事に当たりたいところなのだが、この地域に住む人々は王家に良い感情を持っていない。
というのも、このアハマール地方は元々、小さいながらも別の国であり、それを武力で制圧占領した背景があるからだ。
別に何かしたわけでも無いのに、いきなり攻め込んできて平穏な生活を奪われれば、誰でも相手に良い印象など抱けるわけもない。
本当に理不尽極まりないことで、ここに住む人々の気持ちがわかる。
聖女として要請を受けた私は、周りを地方民に囲まれていた。
民たちから私に途切れること無く、言葉が投げかけられる。
「聖女様、来て下さったのですね」
「ヘスティア様、いつもありがとうございます」
この国に良い感情を持っていなくても、私に対しては別なのだ。
私は元々、この国の人間では無いし、置かれている境遇も決して良いものではないので、同情してくれているのだと思う。
まあ、他にも理由があるのだけど。
ともかく、ここへ訪れるのは大抵が、地方民からの支持を受けている私と数人の騎士という構成で収まる。
本当ならもう少し動員して欲しい所だけど、折り合いの悪い人が多く、そういった人たちが出向拒否してしまうから仕方が無い。でも、そんな公私混同するような人たちのお給金は、減らして然るべきなのではないのかと思う。
個人的にそうして欲しい。納得できない。
「皆さん、まずは落ち着いてください。ある程度の事はお聞きしていますが、初めに瘴気にあてられた方々の所へ案内してください」
ここの人たちは私に本当に良くしてくれる。
熱狂的すぎて少しばかり、暑苦しく感じることはあっても、悪い印象は全くない。
王城で厄介な奴らをずっと相手にして、荒んだ心が癒されるようだわ。
本当、いっそ今すぐここに移住したい。
でも、まだダメ。
必要な事はまだ終わっていないから、滞らせるわけにはいかない。
「はぁ~……私のまったりライフはいつになるのやら」
小さく溜息を漏らしながら、私は誰にも聞かれないような小声で愚痴を漏らした。
ふと、視線を巡らせると、一人の壮年女性と目が合う。
よく見知った仲の彼女は『モーラ』という名で、とても気立ての良い女性なのだ。
今回は先に用件を済ませるため、軽く会釈して言葉を交わすことはしないが、こちらの意図を汲んでくれたのか、モーラは私に笑顔で会釈を返してくれた。
口にしなくても伝わっていることを実感すると、何だかとても嬉しくてほっこりする。
ちなみにこの後、気分を良くした私は瘴気に汚染された人たちの所に赴き、あっという間に瘴気を浄化して傷も癒すと、さっさと鉱山へと出向いて瘴気の出処も浄化し、公務を終えた私は、久々にほのぼのとした空気を満喫して癒されたのは、言うまでもない。
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