episode06 忌々しい女【sideヘイゼル】
更新がかなり遅れて申し訳ありません。
他の作品が佳境なので、そちらに集中してしまっていますが、ちゃんと続けていきますので、見限らずにお待ち頂けると幸いです。
なお、今回は色ぼけ王太子のヘイゼル視点となります。
私はヘイゼル、クロマフ国の王太子だ。
王の嫡男として生を受け、何不自由ない生活を送り、次期国王として高度な教育を受けた私の下には、私の持つカリスマに惹かれて有能な臣下だけでなく、見目麗しい令嬢たちが、黙っていても向こうから寄ってくる。
その中でも側近候補の一人である『イサイアス』は私に負けず劣らず才知に優れ、若くして宰相補佐を務めている。
また、私の婚約者候補としては、クルエド侯爵令嬢のユレイアが特に私の目を惹いた。
整った顔立ちは美人の中の美人と形容するに値し、鈴のような可憐な声音に透明感のある白い肌と、その美貌は我が妃として隣に立つのに相応しい。身分も侯爵家ならば不足ない。
約束された未来に向かう私の歩みは順風満帆――かのように思えた。あの女が現れるまでは。
私の行く先に暗雲をもたらした女は、エストス国の元聖女で名をヘスティアという。
国境を面するエストスとは表面上は、可もなく不可もなくな関係性を維持しているが、水面下ではお互いの事を良く思っていない。
というのも、両国は以前、協力してある国を攻め滅ぼしてその地域の占有領域を決める際に、ひと悶着あったそうだ。
そんな国の聖女が何故、我が国にいるのかというと、エストスで罪を犯して聖女の称号を剥奪され、追手から逃れるために亡命してきたのだ。
両国間には協定が締結されているが、それは形骸化している。
我が国は魔物による被害が絶えず、その影響で土地が痩せている地域が広くあるため、それらに対処できる聖女の力を有した者をむざむざ引き渡す気は無い。
例え、聖女で無くなるような女であっても問題は無い。要は使いようなのだ。
そんなこともわからずに亡命を許した隣国の低能どもには、呆れつつも感謝している。おかげで我が国の問題の多くが解決できそうだからだ。
『は?何故、私があなたに体を許さなければならないのですか?起きているのにそんな事を言うなんて、随分と器用なのですね』
ところがあの女は私の言葉に対してそんな返答をしてきたのだ。
初めて目にしたあいつは美人になりそうではあったが、幼かったため、興味をそそられなかった。
しかし、成長したあいつはユレイアとはまた違った美人になった。そして、その体付きはなんとも肉感的で堪らない。
それ故に声をかけてやったにも関わらず先の返答だ。
多少、我が国を盛り立てたとはいえ、たかが子爵令嬢。しかも、今では元が付く亡命者なのだから、王太子である私から声がかかったのなら、泣いて喜び、即座に私に従うのが道理と言うものだろう。
まあ……私が何をやらせても器用なのは認めるが。
ともかく、これだから礼儀も知らない下級貴族というのは嫌なのだ。
ちょっとばかり周りからちやほやされて、思い上がった痛い女にはしっかりとわからせてやらないといけない。
そう思い立った私はある会議の場にヘスティアも招集されていると知って乗り込み、ユレイアを妃とすることを宣言したのだ。
そしたら、何故か激怒した父に何度も殴られ、私の顔面は大変なことになってしまった。
相当痛い思いをした甲斐あって、あの女にも自分の立場をわからせてやれたと思う。
私の言葉を大人しく受け入れると言葉にした時の悲しみに揺れる瞳、父に殴られて腫れに腫れた私の顔を自発的に治癒した行い。
あれらはどう考えても、私に対して好意を抱いているようにしか見えない。
「なるほど。以前のあれは、照れ隠しだったのか」
それとわかると、ヘスティアのこれまでの態度も可愛く見えてくるというものだ。
正妃は無理でも側妃ぐらいにはしてやってもいいだろう。
やはり、あの見目と体は惜しい。
私はそんなことを思い浮かべた後、今日の予定を確認するのだった。
ご覧いただき、ありがとうございます。