episode29 登城する
オーグナーにクロマフでの概要を説明した翌日、私は登城し、帰国した日と同様に貴賓室を目指して歩いていた。
城内を歩くのに私を先導する案内役と護衛が私の脇を固めている。これは私の身の安全を図るのもそうだけど、監視という意味もある。
陛下の賛同と命令があったとはいえ、国一つを混乱に陥れ、かつ、強力な神聖力を持っているとなれば、警戒するのも当然のことだと思う。
でも、たったこれだけの人数じゃ、私をどうこうすることなんてできないけど。
私はいつ剣を向けられてもいいよう、周囲の人間の動きに注意を払う。
もちろん、そんなことは表に出さず、淑女の微笑を浮かべたまま、乱れの無いリズムで足音を響かせる案内役の後に続いた。
「入れ」
貴賓室の前に到着した先導役が扉を三回ノックすると、中から入出を許可する声が聞こえた。
案内役は扉を開けると、そのまま私が通るのに邪魔にならないよう頭を少し下げて脇に避ける。
「ここまでありがとうございました」
私は案内役の彼にお礼を述べると、貴賓室内へと足を進める。
扉は私が完全に室内に入ったことを確認すると、静かに閉じられた。扉の外側には私の護衛として同行してきた騎士が待機し、余人を通さないよう警護しているだろう。加えて中で異変が起こった時の対処のためにも。
貴き身である陛下を守るため、当然室内にも騎士が配置されていた。
三人しかいないが、その誰もが凄腕の実力を持っているのが纏う空気からひしひしと伝わってくる。
「よくぞ来てくれたな。さあ、こちらに掛けなさい」
陛下がご自身の対面にあるソファに座るよう私に勧める。
「お言葉に甘えて失礼します」
相手を立たせたままにするなど礼を欠く行為であるから、これが儀礼的な意味であることは理解しているが、陛下の柔和な表情を見ていると、本心から私に配慮しているようにも見えた。
こういった部分も彼の人望の厚さを支える一端なのだろう。
実務的にも有能であり、人望もあるとなれば、彼がこのまま王座にいることを望む者も少なくないはずだ。
あれは、まあ、それなりに有能だけれど、人望という面では遠く及ばないことは明白。
私としても、陛下にこのまま玉座にいてほしい。
「それでは、詳しく聞かせてくれるか」
「はい。承知しました」
私はクレオン陛下にクロマフ国での活動と結果、そして、自国に利のある人物と今後の対応の展望について説明した。
陛下は私の言葉を遮ることなく、静かに時折、相槌を打ちながら聞くことに徹していた。
「少し聞いてもよいか?」
「なんなりと」
その後、私は陛下からの質問に答えた。
質問のどれもが的を射たものであり、聞いただけでこれだけの内容を察することができる洞察力の高さに私は舌を巻いた。
「ふむ……おおよそ、理解できた。長々と説明させてすまなかったな」
「いえ、陛下のお役に立てたのなら、光栄の極みです」
陛下から慰労の言葉を受け取り、私は御前を辞して退室した。
来た時と同様、案内役が私を先導し、騎士が脇を固めるが、向かっている先が正面エントランスでは無い。
ただ、私は敢えてそのことを追求することはしない。こんなことをする人物なんて限られているから。
「こちらです」
案内役がある部屋の前で立ち止まり、振り返って私に浅く頭を下げた。
――予想どおりね。
その部屋は、ヘンドリックの実母で前妃ディアシーズ専用のサロンだった。
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