episode28 報告と欺瞞
「はじめにエストスの統治代行は、イサイアス様としました。彼は若くして宰相補佐の任に就いており、大変優秀で今回の件で協力関係にあったので信頼できると思います。他には――」
私はイサイアスの他、信頼できる貴族としてバルミーダ伯爵家のマーシェラ、そして、王宮内の事情などについては、私の専属侍女だったリネットのことについて、オーグナーに伝えた。
それから、あちらでの聖女活動や生活水準など、諸々の国内情勢についても伝える。
折に触れ、私がクロマフに行っていた間のエストス国内の状況を教えてくれた。
魔物への対応状況が芳しくないようで、特に三聖女の一人が魔物との戦いで負傷し、倒れたことで、ここ最近は更に苦戦を強いられていたようだ。
三聖女――数年前にエストスで定められた制度で、聖女として活動する女性の中で、特に神聖力が強く、教養や品格を備える者のみが就くことを許された役職である。
このように言うと、三聖女とは数いる聖女の中から、選びに選び抜かれた超優秀な人材のように思うだろうが、実際はたいしたことない。
クロマフで聖女と呼べるほどの神聖力を持った女性が居なかったことと似て、エストスでも神聖力を持った女性が年々減り続けているだけでなく、生まれ持った神聖力も弱まり続けており、聖女の質が低下の一途を辿っている。
この現象の原因はわかっていない。わかっていないが、民を欺き続ける欺瞞に満ちた王家には当然の報いだろう。
「過去の行いについて、王家は民に公表しましたか?」
「できるわけなかろう。そんなことをすれば、悪政打倒の大義名分で挙兵したのが、単なる侵略戦争という事実に変わってしまう。そうなれば、反感は免れまい」
過去にエストスはクロマフと共謀してグリエントという国を侵略し、滅ぼしたという過去がある。
この際に悪政を敷くグリエント王家から無辜の民を救うという大義名分を掲げ、多くの将兵を募り、士気を高めて侵攻したのだ。
しかも、主目的はグリエントの兵力分散だが、あわよくば領土を掠め取ろうと、内乱で荒れるルナシールにも侵攻した。
結果、ルナシールの領土奪取はかなわなかったが、グリエントの陽動は成功し、まんまとグリエント領土をクロマフと二分する形で手中に収めた。
この事実が知れ渡れば、当然、平民のみならず、掲げられた大義名分に従って軍に帯同した貴族たちも黙ってはいないだろう。
ただ、この手札を切るのは今ではない。もう少し機を見定める必要がある。
「それと話は変わりますが、私が離れている間に使用人がかなり多くなりましたね?」
「ああ。王太子殿下が手を回してくれたのだ。費用もあちら持ちでな」
「そうですか……」
「報告は終わりか? なら、下がっていいぞ」
「失礼します」
労いの言葉も無く下がるように言われた私は、一礼してからオーグナーの私室を後にした。
義理とはいえ、大変な役目を終えた娘に対し、あまりにも冷たい対応のようにも思えるが、これでいいのだ。
ここは目が多すぎる。
――私室にも知らない顔がいたわね。油断しないようにしなきゃ。
私は聖女の笑顔という仮面を被り、初めて見る使用人に外行の完璧な微笑みと挨拶をしつつ、今後のことを考えながら私室へと戻った。
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