episode27 久しぶりの帰宅
陛下の計らいもあり、私はクロフォード子爵家へと向かう馬車に揺られていた。
私の向かいに座るのは、クロフォード子爵であるオーグナーだ。
私はクロフォード家の者であるから、戸籍上はオーグナーの娘となっているが、本当の親子では無いため、血の繋がりは無い。
クロマフ国に向かうよりも以前に、私は彼の養子となった。
そのため、家族の情など無いに等しい。現に彼は私と視線さえ合わせようとしない。その様子に御者をはじめとする使用人たちは、戸惑いの色を浮かべていた。
「邸に着いたら、体を清めよ。その後で報告を聞く」
重苦しい空気の漂う馬車の中、私への第一声は労いでも、安堵の言葉でも何でもなく、不機嫌さが滲むような冷たい言葉だった。
「承知しました」
私はその言葉を受け取り、静かに表情を変えることなく返事をした。
それを最後に馬車の中を沈黙が横たわる。
血の繋がりこそないけれど、久しぶりに会った親子が乗っているとは、到底思えない寒々しさのまま、馬車は子爵邸へと到着した。
「ふぅ……」
子爵邸に着いた私は出迎えた執事の案内で、自分に宛がわれた部屋へと通された。
そこは私がクロマフ国へと赴く前と同じ部屋で、塵が溜まっている場所も無ければ埃っぽさも無い。一目で私がいない間、誰かが丁寧に部屋の管理をしていてくれたことがわかる。
「失礼します」
開け放たれた扉から入室の挨拶とともに現れたのは、よく見知った顔の侍女だった。
「お嬢様がお帰りになられる日を、心待ちにしておりました」
「久しぶりね、ミナ。息災だったかしら?」
「はい。このとおり、健やかでございます」
私は彼女の言葉に「良かったわ」と、安堵の息を漏らす。これは紛うこと無き私の本心。
侍女の名前は『ミナ』といい、子爵邸で私の専属侍女をしてくれていた女性だ。
私自身も彼女のことを姉のように慕っており、そんなミナがまた私の傍にいてくれることは、とても心強い。
それに彼女のことだから、しっかりと備えていることでしょうし。
「旦那様から伺っております。まずは長旅の疲れを湯でお流しください」
この後、私はミナの癒しフルコースで満遍なく揉み解され、至福の一時を過ごした。
それによってオーグナーの私室へと向かうのが、すっかり日が傾いた頃になってしまったのは致し方の無いことだと思う。
「遅かったな」
「女の支度には時間が必要なことなど、よく存じていらっしゃるかと」
短い言葉の応酬に対し、オーグナーは僅かに眉を上げただけでそれ以上続けようとはせず、私にソファへ座るよう示した。
彼の意に沿い、私は対面のソファに座る。
ここに来る途中、邸の中で見かけた使用人は見ない顔が増えていた。
私がクロマフ国に行く前にいた使用人もほとんどが残っている。ただ、それに加えて人数が増えているのだ。
クロフォード子爵家はそれほど裕福というわけでは無い。その財政状況から考えれば、使用人の数は許容範囲を超えているように感じた。
「さて、あちらで何があったのか、話を聞かせてもらおうか」
私は静かに頷くと、ゆっくりとクロマフ国でのことについて口を開いた。
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