episode26 帰国の挨拶
私は馬車での長旅(断じてヘンドリックと二人だけで乗っていたわけではない)を終え、ようやくエストスの王城に着いた。
極秘任務とはいえ、私がクロマフ国を陥れるために遣わされたことは、エストスの現国王『クレオン』陛下も認知している。加えて、私の家であるクロフォード家の当主『オーグナー』子爵も把握していた。
クロマフ転覆の計画を考えつき、悪戦苦闘しながらもヘンドリックに協力を持ちかけ、陛下からの了承が得られた際、子爵も一緒に王族専用の貴賓室に呼び出されていたのだから当然と言えば当然だ。
「此度の働き、まことに大義であった。詳しいことは後日聞くとして、今日はゆっくりと休むが良い」
そして、私はその時と同じように貴賓室でクレオン陛下とまみえていた。
私は自分で思っている以上に肝が据わっているらしく、お偉いさんたちを前にしても動じることが少ない。これはなかなか良い特技だ。
私の横には先に待機していたオーグナーがいる。ちなみにヘンドリックは先に陛下に挨拶した後、さっさとどこかへ行ってしまったらしい。どこに行ったのかは見当が付くが、もう少し分別というものを持てないものか。
「陛下の温情痛み入ります。お言葉に甘えさせて頂きます」
「うむ。しかし、あやつは……私も中継ゆえ、あまり強くは言えぬが」
中継――そう、クレオン陛下とヘンドリックは実の親子関係に無い。
ヘンドリックは紛れも無く、王家の直系血統だが、クレオン陛下は彼の叔父、前国王の弟にあたるのだ。前国王が急逝したため、ヘンドリックが戴冠し、正式に王位に着くその日まで、王座を預かっているに過ぎない。
しかし、どうしてかな。クレオン陛下は前国王よりも優秀であり、疲弊していた国力を回復するための内政に努め、見事にそれを実現してみせた。
どちらかというと、保守寄りの考えを持ち、他国への積極的な干渉を好まない。もちろん交易は盛んに行うが、侵略などをはじめとする強硬外交は以ての外という姿勢だ。
貴族の間ではヘンドリックを支持する層が強いが、平民になるとそうではない。
「それでは陛下。私たちはこれにて御前を辞させて頂きます」
オーグナーの退室の挨拶に、陛下が鷹揚に返事をしたのを確認し、私は子爵に続いて礼を取り、その後に続いた。
――さて、またこれから忙しくなるわね。待ってなさいよ。
私は前を歩く子爵の背を追いながら、この先やるべきことを頭の中で並べては、これからの算段を立てていた。
表には出さないけれど、心の中では獲物を追い詰める狩人の如く、不敵な笑みを浮かべていた。
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