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裏切り上等  作者: 夏風
第1章 クロマフ事変
2/34

episode02 愉快な見せ物

お待たせしました。

2022/04/24 サブタイトルを変更しました。

旧「ちょっと様子見」→「愉快な見せ物」

 ――いやぁ、会議なんて面倒で退屈なだけだと思ったけど、なかなかどうして、愉快な状況じゃない。


 会議室で未だに続く父親から息子への鉄拳制裁を見ながら、表面は『王太子の言葉にショックを受けながらも気丈に振る舞う女』と言った空気を出しつつも、とても愉快な心境だった。

 というのも、この王太子はどうしようもない浅慮で、政略の意味もわからないような輩なのだ。


 普通に考えれば、彼が言ったように『亡命してきた子爵家の子女』が、王太子と婚約なんて話が出るわけがない。なので、そこにはそれさえも覆す何かしらの利権が絡んでいるのだが、彼は王太子でずっと王宮にいながら、何の報告も受けていないのだろうか。

 いや、そもそも興味が無いのかも知れない。始末に負えない短絡思考なので。


 ただまあ、顔だけは良い。その見目だけは国宝級だろう。かつての国の王太子も見目麗しい外見をしていたが、それとはまた趣の異なる美しさだ。嫉妬してしまいそうになる。

 ところが、今は留まるところを知らない王の怒りにより、その顔は醜く腫れ上がり、無様に鼻血を垂れ流している。


 ――ぷぷぷ、ダサッ。顔だけしか取り柄が無いのにあんなになっちゃって。


 亡命してきてから、散々、面倒事を押し付けられたり、けなされたり、そんな扱いをしておきながら、私に肉体関係を求めてくるのだから、本当に清々する。

 でも、さすがにこれ以上は不味い。

 彼にも自尊心ぐらいはあるだろう。

 それを保つための最大にして唯一の取り柄である『顔』が無くなっては、そのなけなしの自尊心さえも失ってしまうからも知れない。

 まだ早い。この先の計画でも、一応彼は必要だ。……まあ、いなくても何とかなるけど。

 ということで、助け舟を出すことにする。


「申し訳ありません。発言をよろしいでしょうか?」


 控え目に右手を顔の横まで挙げて私は発言の許可を求める。

 すると、それまで王の乱心ぶりを見守っていた諸侯をはじめ、王も手を止めて私の方を見る。彼らの目からは痛々しい同情心を感じさせるので、どうやら、私の猫被りは効果覿面のようだ。


「ヘスティア嬢の発言を許す」

「感謝いたします。大変差し出がましいのですが、そろそろ、お許しになられてもよろしいのはありませんか? 仰ったことはもっともなことですので、私は気にしておりません。それに、これ以上続けては、お顔(唯一の取り柄)が大変なことになって(既になってますけど)しまいますし、御手も……ああ、こんなに傷付いて」


 言葉を続けながら、王へと近寄る私を誰も止めようとしない。

 ちょっと神聖力を表に出しただけで、魅了されたかのように動けずにいる。さながら、決して触れてはならないものを見ているかのような様子に口の片端が上がりそうになるのを堪えた。

 確かに癒しを与える神聖力には、慈愛を感じさせるものがあるから、聖女然として見えるだろう。

 うん。浅はかで助かる。


 誰にも止められることなく、王の手に触れる。

 これには王だけでなく、周りも息を呑んだが、お淑やかにしおらしく瞳を潤ませ、まさに『聖女』といった形でいれば、誰からも私を咎める声は上がらなかった。

 そのまま、王の手を神聖力で治癒する。ついでに床に転がる無様な王太子の滑稽な顔も同時並行で癒すことにする。

 まだ、壊れてもらっちゃ面倒だからね。


 治癒が終わり、私が手を離して数歩下がると、周りはヒソヒソと話している。そのどれもが、「まさに聖女だ」とか「あんなことをされたのに慈愛に満ちている」とか私を称賛する内容だ。

 ふふふ……気分が良い。


「本日はこれ以上、続けられそうにありませんから、私はこれにて失礼いたします。併せて場をお騒がせしてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。この責をとって、しばらく自室にて謹慎いたします」


 私はそれだけ告げて礼をとると、その場を後にした。

 部屋から出る間際に王が何かを言おうとしていたが、知った事じゃない。


 ――息子にばかり押し付けるけど、あなたも相当クズなのは知っている。今までやってきたことの重さを、きっちり思い知らせてあげないとね。


 私は今後のことを考えながら、自室へと向かう。

 道中、愉快さを表に出さないように取り繕うのが大変だった。

他の作品もあってなかなか定期的に投稿できず、申し訳ありません。

見限らずにいて下さると嬉しいです。

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