episode14 不愉快だわ【sideユレイア】
今回はユレイア視点です。
もちろん、常識は欠如しております。
――本当に不愉快だわ。腹立たしい。何が聖女よ。少し他より力があるからって。他国から亡命してきた身の分際で!
私はユレイア、クロマフ国のクルエド侯爵家の娘よ。
何でそんなに気が立っているのか――ですって?
それは先程、訪れた孤児院での一件が原因よ。
初めは気分が良かったのよ? ヘスティアとかいう芋女のみすぼらしい恰好を見て、従者と一緒に笑ってやったわ。あの女の聖女服は裾の擦り切れや所々の茶色のシミのあるもので、折角の聖女服が醸し出す清楚さが台無しよ。貧乏で満足にドレスも誂えられないのだから、仕方の無いことかも知れないけど。
顔を出してしばらくは何も問題無かったわ。
あの女は嬉々として、孤児たちと遊んでいたけど、あんなどこの子とも知れぬ、薄汚いなりのなんかと、どうしてあんな風に触れることができるのか。
きっと、所詮は下々の同類ということなんでしょうね。道理で高貴な私には理解できないわけだわ。
そんな中事件は起こったわ。
無礼にも孤児の一人が汚い手で私に触れようとしたのよ。
私の纏うドレスは下賤な輩が触れて良いような代物ではないの。だから、その手を直接触るのは嫌だったから、扇で払おうとしたの。そうしたら、あの女がしゃしゃり出てきたというわけ。
芋女は孤児をあやしてシスターに任せた後、事もあろうにこの私を睨みつけたのよ!
その後は、院長が出てきて何故か私の寄付を拒んだ。
まったく、本当に理解に苦しむわ。
侯爵家の娘たる私が恵んでやるというのですから、涙を流しながらありがたく受け取り、頭を垂れるところでしょうに!?
それを――
――『顔を見せるだけでは慰問とは言えません。ヘスティア様を見て何とも思わないのですか?』
――『必要ありません。今すぐお引き取り下さい』
なんて、私の厚意を無下にした挙句、ぞんざいに扱うなんて。
ああ、思い出すだけでも忌々しい。
そんな身の程知らずな芋女には、私がお友達と一緒に忠告をしてあげているのだけど、全く聞く耳を持たないのよね。
亡命してきてこの国では何の身分も持たない芋女風情が、何の権利があって麗しいヘイゼル様の隣に立てるというのか……厚かましいにも程があるわ。
私のお友達の中でも特にバルミーダ伯爵家のマーシェラは私のお気に入り。
マーシェラは私を将来の王妃に相応しいと、色々と手助けしてくれる。
今回の孤児院慰問も彼女の助言があったから赴いたのだけれど、ちっとも面白くなかったわ。ただ、私のことを考えてくれたマーシェラには悪い事をしてしまったわ。
今度、またお茶会に誘ってあげなくてはね。
きっと、彼女たちに今回の一件を話せば、どれだけ芋女やシスターたちが身の程を弁えていないかわかってくれるはずだわ。
そして、私の為に芋女にまた忠告してくれるわよね。
――ふふっ、そう思うと途端に待ち遠しくなってきたわ。あの子たちに早速、便りを出さなくちゃね。
いくらか怒りが収まった私は幾分か軽くなった足取りで自室へと戻ると、机に向かい、薄桃色の便箋を取り出したのだった。
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