episode12 子供たちに癒されたい
色んな所で毒を吐くヘスティアですが、子供は大好きなようです。
村の異変を解決して王都へ戻った私は報告をイサイアス宰相補佐に任せ、その日はのんびりと過ごした。
翌日、今度は王都から近めの街へと向かい、そこの教会と教会が運営する孤児院の慰問へと赴く。
「わぁ、せいじょさまだぁ!」
「せいじょさま!」
馬車から降りる私を見つけた一人の声に反応し、他の子供たちも続々に歓声を上げながら、私の元に走り寄って来る。
私の周りを囲むように寄って来た子供たちの笑顔に、私も自然と顔が緩んでしまう。
本当に子供たちは可愛い。この笑顔を見ているだけで癒される。
私は自分の周りを囲む子供たちの頭を一人一人、撫でていく。
子供たちは私が頭を撫でると、満面の笑みを浮かべるのだから堪らない。
日々の激務で荒んだ心がほっこりとする。
「はぁ……本当に癒されるぅ」
「聖女様は随分とお疲れのようですね」
私の前にはいつの間にか院長が立っていた。
しかも、彼女の口振りからすると、思っていたことが言葉に出ていたみたいで、恥ずかしくなった。
院長は小さく笑うと、子供たちに声をかける。
「さぁさ、皆、聖女様を案内してあげて」
「「はぁ~い」」
返事をした子供たちは我先にと、私の手や袖を取って建物の奥へと引っ張って行く。
「ふふっ、そんなに焦らなくても私は逃げませんよ」
子供たちの必死な姿が、愛おしくて私は小さく笑った。
院内は孤児院とは思えない程に清潔な環境が整っている。
さすがに値打ちのある調度品は無いが、窓ガラスには曇りも無く、家具などに埃が溜まっているようなことも無い。子供用のみならず、シスターたちが使用する寝具も、手入れが行き届いている。所々、継ぎ接ぎが見受けられるが、それでも、しっかりと洗濯と日干しが行われているのだろう。不潔感は一切無い。
「どれもこれも、ヘスティア様のおかげですよ」
「私は何もしていませんよ。皆さんが頑張った結果です」
「ヘスティア様のお声が無ければ、ここまでのことはできませんでした。改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」
私としては本当にたいしたことじゃない。
自分で言うのもなんだけど、私自身も幼少期は不遇な身の上だった。
でも、私の周りにいた大人は良い人ばかりで、皆のおかげで今の私がある。
だから、私は周りが自分に与えてくれたものと同じだけ子供たちに与えたいだけ
部屋の中に和やかな雰囲気が流れ始めた時だった。
「ここの責任者はどこ!?」
突然、外が騒々しくなったと思ったら、甲高い女性の声が響く。
声の感じからするに憤っているようだが、理由はわからない。
私は院長に目を向けるも、彼女も何が起こっているのかわからないようで、その表情からは困惑の色が見て取れる。
「おかしいですね。本日はヘスティア様以外に来訪の予定は入っていないのですが……」
私は扉に目を向けていたが、手を強く握られた感触があり、そちらに顔を向けると、怯えた顔で私の手を握り、私の後ろに隠れる子供たちがいた。
――そうだよね。いきなり、あんな声を聞いたら怖いよね。
私は子供たちの頭を撫で、安心させるために優しく微笑みかけると、外へと向かう。
扉を開けた先には、何故かユレイアがいた。
しかも、いつも通りの華美なドレス姿なものだから、ここではあまりにも存在が浮きすぎて悪目立ちしている。
それよりも、彼女は何故ここにいるのだろう。
彼女も慰問に訪れたということだろうか。しかし、それにしては服装が目的にそぐわない気がする。
「これはクルエド侯爵令嬢様、このような所にどのようなご用件で?」
逡巡していた私の横で院長がユレイアに問いかける。
実にもっともな疑問だ。私も彼女がここを訪れた理由について、全く見当が付かない。
それなら、本人に聞いた方が早い。
「ありがたく思いなさい。この私が直々に慰問に来て上げたのですわ」
「……はい?」
院長が間の抜けた声を出すのも無理からぬことだと思う。
私も心の中で、『何言っちゃってんの? この子は』という感想を抱いたのだから。
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