episode01 やっときたこの日
新規連載です。
「ヘスティア、私はお前と婚約する気はない! 私にはユレイアがいる。亡命してきた子爵令嬢のお前などよりも、遥かに正妃に相応しい彼女がな!」
只今は国王と正妃の両陛下及び宰相や上位諸侯の重鎮たちが一堂に会し、重要な議題について話し合われている中、招かれてもいない王太子『ヘイゼル』が、この会議の中心人物である聖女『ヘスティア』を指差し、居丈高に宣言した。
仮にも王族ともあろう者が行うことなどあり得ない蛮行に、その場に居合わせた者たちは驚愕のあまりに開いた口が塞がらない。
ただ、その中でヘスティアだけは僅かも表情を変えず、彼の言葉を淡々と聞いていた。
周りから何も声が上がらないことに調子づいたヘイゼルが、更に言葉を続ける。
「お前のような奴が国に残っては、民に悪い影響が与えかねん。ユレイアにも危害を加える恐れがある。よって、国外追放とする!」
何とも手前勝手な理由なのだろう。
もはや、被害妄想と呼ぶに相応しく、暴論も甚だしい。
こんな正統性の欠片もない言葉など、聞く必要どころか価値も無いのだが、王太子から国外追放を言い渡されたヘスティアは、彼を見ながらにっこりと笑うと、涼やかな声で承諾の言葉を返す。
「国外追放ですか。わかりました。受け入れます」
あっさりと承諾したヘスティアが信じられなかったのか、ヘイゼルは呆けた顔で間の抜けた声を漏らした後、ややあってから我に返ると、いきなり高笑いを上げだした。
「ははは! 当然だ。王太子である私の言葉に拒否権など――」
「このっ! 馬鹿者がぁ!!」
室内の調度品さえも震わせるほどの声量で、国王は自身の息子に叫び声を上げる。
そして、バンッと椅子が壊れるのではないかという勢いで立ち上がると、ヘイゼルの所へと一直線に向かって行く。
走りこそしないが、その鬼のような形相と地面を踏み抜かんばかりの様子に、身の危険を感じたヘイゼルの顔に冷汗が伝い、顔が蒼褪めていく。
だが、既に時遅し。
国の中枢を担う重要人物たちの目の前で晒した醜態の代償は大きい。
王の渾身の右ストレートが、ヘイゼルの顔面を捉え、鈍い音ともに彼の体が地面へと倒れる。
――いくら何でも、拳一発で倒れるとか、ひ弱すぎでしょ。
王に殴られて尻もちをつき、目に涙を溜めて父を見上げる情けない婚約者 (になるかもしれなかった)の姿に、ヘスティアは心の中で悪態を吐く。
王の怒りは一発では収まらず、その後も息子に向けて何度も拳を振るっていた。
その様子を諸侯は戦々恐々と見つめている。
ヘスティアも冷めた目でその光景を見遣りながら、心の中でほくそ笑む。
やっと、この日が来たか――と。
割と軽いノリで進めたいと考えています。