聞いてくれ、新しいパーティーのメンバーがFF級にヤバイんだ
「クソ! 誰か俺とパーティーを組まないか?」
右手で机を叩いて俺は言った。冒険者学校時代からの友人とパーティーを組んで丸5年。世界を回るなかで相棒は変わった。金儲けと出世のためならなんでもするし、出会った美女を片っ端からパーティーに引き入れるようになったのだ。美女は俺のことなど眼中になく、俺も途中から美女達の見分けがつかなくなった。
とにかく俺はもっとストイックに冒険したいのだ。世界を回り、二人で冒険を始めた町に戻って来た今こそ初心に帰るべきではないだろうか?
そして、今朝。いまだ増え続けるハーレム要員に抗議したところ、
「じゃぁ、お前がパーティーを抜けろよ」
と呆気なく追放された。美女の肩を抱いて去って行くあいつの背中に思いつく限りの罵詈雑言を浴びせかけようとしたが、俺の貧弱なボキャブラリーではそれすらも叶わなかった。
絶対にあいつらを見返してやると誓ったものの、思い出すのは冒険に出た頃の楽しかった記憶ばかり。二人でコツコツと貯めた報酬で慎重に吟味しながら買ったショートソード。必殺技を生み出そうと二人で謎の特訓をしたこと。エルフのお姫様が耳元でささやいてくれたお礼の言葉……
俺たちはいったいどこで間違ったのだろう?
蘇ってくる思い出を振り切るようにパーティーメンバーを募ったのがつい先程。
けれども、こんな俺とパーティーを組んでくれるやつなんかいないよな。
過去の栄光を忘れられず相棒とのパーティに執着し、美女軍団の後ろでウロウロとしていた俺はかなり評判が悪い。俺とパーティーを組んでもいいと言ってくれる奴はそれだけで“勇者”なのだ。まぁ勇者と言っても「無謀な」とか「浅慮な」と言った修飾語がつくけどな。
そう自嘲気味に嗤ったとき、なんと名乗り出た奴らがいた。
「魔王だけどいいか?」
「この先の谷に本体が封印されている邪神なんですけど、封印をといてくれたらお供しますよ〜」
「暗黒竜です。お小遣い稼ぎたいなって思って!」
「ほわっ??」
口から珍妙な音が漏れだしたが、3人は俺の返事を聞こうと傾聴の構えをとっている。俺は考えがまとまらないまま、とりあえずもう一度口を開いた。
「……ちょっとよくワカラナイんだが、俺の人生計画に世界征服はないぞ?」
思わぬ“勇者”の登場にポカンと彼らの顔を見つめると「世界征服とか今時はやらない」と笑われた。じゃあ、お前らの存在意義ってなんなのさ? 狐につままれた気分だ。
名乗り出たのは3人。頭から山羊の様な角をはやした紅目のオッサン。神官みてえな優男。ドラゴン皮のジャケットにミニスカートの15、6歳の少女。右から順に魔王、邪神、暗黒竜ときた。
お断りだ。ホンモノだろうが自称だろうが、お断りだ。ニセモノなら頭がイカれてるわけだし、ホンモノならもっとイカれてる。絶対にお断りだ!!
ただ、冒険者としての勘が告げていた。危険人物を徒らに刺激するのは良くない。ここは穏便に、俺に矛先が向かぬようお引き取り願うのがベストだ。
「あー……。集まってくれて嬉しい! ところで3人はギルドカードは持っているか? これがないと冒険者として活動することもパーティーを組むこともできんぞ?」
魔王と邪神と暗黒竜がギルドで冒険者登録できるはずがない。冒険者登録できない人とは残念ながらパーティーを組めないと体よく断ろう。我ながら完璧な計画だ。
俺は銀色に輝く自分のギルドカードを胸元から取り出した。なんだかんだ言って俺はB級冒険者。冒険者は誰もがF級から始まる。銀製のギルドカードは、A級の純金製、S級の白金製、SS級のオリハルコン製ほどではないが、冒険者の目標である。ちなみにSSS級は俺も見たことないが、漆黒の正体不明の金属らしい。
3人とも興味津々と言った感じで俺のカードを見やる。
「持ってないな」
「見たこともありませんね〜」
「それってないとダメ!?」
3人ともやっぱり持ってなかった。
「なければ作ればいい。冒険者登録のカウンターはすぐ後ろだ。ギルドカードが作れたらパーティーを組もうな!」
俺が指差すと、無愛想な受付嬢が心得たと小さくうなずいた。3人は我先にと申請用紙を鷲掴み、カウンターに殺到した。
さて、高みの見物といこうじゃないか。自称魔王と邪神と暗黒竜がギルドカードなんて作れるわけがない。そう思っていた時期が俺にもありました。
10分後、俺は無愛想な受付嬢がF級冒険者の証である木製のギルドカードを3人に渡すのを口をあんぐり開けて見守るしかなかった。
暗黒竜を名乗る少女が駆け寄って来て、嬉しそうにギルドカードを見せてくれた。ジョブ欄にちゃんと「暗黒竜」と書いてある。他の二人もしげしげとカードを見ているが、それぞれ「魔王」と「邪神」と記載がある。
「いやいやいや、おかしいだろう!?」
俺は慌てて受付嬢に詰め寄ったが、無愛想な受付嬢は首を捻るだけだった。
「何がおかしいのでしょうか?」
「ジョブ欄見てみろよ。魔王に邪神に暗黒竜って普通に考えておかしいだろう!」
囁き声で怒鳴るという高等スキルを駆使する俺に、受付嬢はもう一度首を捻った。
「3人のジョブを確認しましたが、事実に相違ありませんでした。なんの問題もありません」
「マジかよ!? ホンモノの魔王とか問題しかないだろ!?」
「ギルドのルールブックのどこにも魔王や邪神、暗黒竜からの登録申請を却下しなければならないとは記載されていませんので」
「当たり前すぎて書いてないだけだろ! もういいわっ!!」
何という受付嬢だ。こいつとこれ以上話していてもらちがあかない。けれどもカウンターを離れようとしたら背後から追い討ちが来た。
「それから、皆さまのパーティー登録もしておきましたよー」
「嘘だろ!?」
振り返って白目を向いて叫んだが、受付嬢は鼻の穴を膨らませて「できる受付嬢は言われる前に仕事に取り掛かっておくものです」と満足気だ。ちげーよ。褒めてねーよ。
ったく、余計なことばっかりしやがって……!
短気は損気。こみあげる怒りを抑えようと頑張っていると、魔王が一枚の紙を持ってこちらにやってきた。
「冒険者といえばクエストだろう。クエスト掲示板にはこれしかなかったが、我々なら問題ないはずだ」
残り物のクエストと聞いて、俺は顔をしかめた。
冒険者の朝は早い。早朝ギルドの掲示板に依頼書が張り出されると、少しでも良い依頼を受けようと冒険者たちが押し寄せるのだ。その様子はさながらバーゲンセールの会場に例えられる。
だから、今の時間にクエストが残っていること自体珍しいし、売れ残ったクエストにロクなものはない。大方とんでもない難易度のものだろう。
「そちらの依頼書は、もう3日も掲示板に残っているのです。毎日夕方になると、依頼者が様子を見に来ては肩を落として帰られるので、私も申し訳なく思っているんですよ」
無愛想な受付嬢が口を挟んでくる。俺はどれどれとクエストを見た。
【クエスト:はじまりの森の採集依頼】
依頼者:モモ
依頼内容:はじまりの森におちているきれいな石をひろってきてください!
報酬:うさちゃんのシール
成功条件:モモがきれいだとおもうこと
「誰が受けるかっ!!!!!!」
思わず叫んでしまった。これは掲示板に残るわー。誰も受けないわー。
誰だよこんな依頼を通したやつはと思ったが、案の定この受付嬢だった。
「でも、この依頼を受けなければ今日はすることがありませんよ〜」
邪神が真っ当そうなことをいう。
「いつまでも掲示板に残ってたらモモちゃんかわいそうだし、受けようよ!」
暗黒竜が上目づかいに頼んでくる。
「依頼者の考える『きれい』を解き明かすのは容易ではない。この依頼はやりがいがありそうだ。」
魔王がよく分からないことを呟いている。
「分かったよ。受ければいいだろう!! だがな、やるからには全力で受けるぞ」
もうどうにでもなれ! 俺は捨て鉢になって叫んだ。
クエストの受注手続きを待つ間に、魔王と邪神には最近評判のサンドイッチとやらを2軒隣の食堂に買いに行ってもらった。暗黒竜の方はギルドホールに興味がありそうだったので、職員の仕事の邪魔をしないことを条件に居残りを許可した。念のため特大サイズの飴玉を2個口に放り込んでおいたのでしばらく静かにしてるだろう。木の実を頬張りすぎたリスみたいになっているが、まぁいいだろう。
暗黒竜と待合の椅子に腰を下ろす。諦めの境地でぼんやりとギルドを眺め、時々暗黒竜からの質問に答えていると、突然正面扉が開いた。
入って来たのは今朝別れたばかりの元相棒と美女軍団だった。 元相棒は俺を見つけると薄い笑みを浮かべて近寄って来た。
「お前が新しいパーティーを結成したって聞いて祝いに戻ってきたんだ。随分とかわいらしいお嬢さんと組むことにしたんだね。でも、どうやら俺たちは女性の趣味が全然違うようだな」
そういうと、元相棒は傍の美女を引き寄せてあざけるように笑った。美女の方も心得たもので、豊満な胸の下で腕を組むとこれ見よがしに胸を突き出し、暗黒竜の少女の断崖絶壁を見て鼻で笑った。周りの美女もそれぞれお色気ポーズをとる。
暗黒竜は突然現れた冒険者に始めこそ目を瞬かせていたが、美女達が自分のお子さま体型を笑ったことにムッとしたようだった。
俺は内心ニヤニヤしながら成り行きを見守っていた。
こいつは幼くても暗黒竜だ。お子さま体型を馬鹿にされて怒った暗黒竜が元相棒をぶちのめしたりしないだろうか。俺の脳内に吹き飛ばされる元相棒がビジョンとなって浮かぶ。
いいぞ! さぁ、行け!!
だが、暗黒竜は目に涙を溜めて睨みつけるだけで動かなかった。高速で巨大な飴玉を舐めるだけである。俺はふと気がついた。
「もしかして、飴玉舐めてるせいでしゃべれないのか?」
尋ねてやると、暗黒竜はこくこくとうなづいた。
「そうすると、呪文も唱えられないし、ブレスも吐けないな」
またも暗黒竜がこくこくとうなづく。
しゃべれないんなら仕方ないよな。ガックリと肩を落とす俺を尻目に元相棒と美女軍団は笑いながらギルドを出て行った。
入れ違いに魔王と邪神が食料を持って帰ってきた。
こいつらがいればまだマシだったのに。タイミング悪いな。
そう思っていると、飴玉を噛み砕くことを発見した暗黒竜がガリガリバキバキと凶悪な音をたてた後ようやく口を開いた。
「私だって大きくなったらママみたいなボンキュッボーーんになるんだもん!」
「それは……楽しみだな」
辛い現実を突きつける勇気はなく、俺は遠い目でそう答えてやるしかなかった。
さて、気を取り直して行こう。準備は整った。冒険者たるものクエストにはいつも真摯に向かわねばならない。俺は両頬を叩いて気合を入れると、3人に言った。
「行くぞ」
俺たちはまずは邪神が封印されているという谷に向かうことにした。
ちなみに谷には一瞬で着いた。俺が「行くぞ」とかっこつけて言った瞬間、魔王が全員を転移させたからだ。あまりのあっけなさに出鼻を挫かれたが、厳重そうな封印も暗黒竜のドラゴンブレスで一瞬で解けてしまった。拍子抜けもいいところだ。
しかし、なんの打ち合わせもしてないのにこいつらのチームワークは完璧だった。俺と相棒なんていつまで経っても阿吽の呼吸とはいかなかったぞ。右と言っているのに左に飛んで、味方の攻撃に当たったし、手分けして買い出しに行けば、同じものを買ってきたりして大変だった。
邪神の復活をハイタッチで喜ぶと(喜んで良かったのか?)、俺たちは次なる目的地、はじまりの森に向かった。
ちなみにはじまりの森にも一瞬で着いた。今度は復活した邪神が全員を転移させたからだ。あまりの情緒のなさに「冒険とは」という持論を3人に言って聞かせてしまった。
冒険において、道中は大事なのだ。情報を仕入れ、新たな縁を結ぶ。これをぞんざいにしては冒険者として大成しないのだ。そんな感じのことを話した。
「なるほど。リーダーの言うことにも一理ある。すまなかった」
「冒険者っていうのは奥が深いのですね〜」
「分かった! 私も過程を大事にするね」
3人とも分かってくれて何よりだ。俺は嬉しく思う。何せ元相棒も美女軍団も俺の冒険者論を馬鹿にしていたからな。気分の良くなった俺はここで一つの提案をすることにした。
「さて、俺たちのはじめてのクエストだ。難しい依頼だが、是非とも成功させたい。そこで4人がそれぞれ石を探し、その中から一番気に入ってもらったものを納品するというのはどうだろう?」
「それは良い案だ。賛成する」
「さすがリーダーです〜」
「負けないわ!」
みんなやる気に満ちあふているようだ。冒険者はやはりこうでなくては。俺も久しぶりにワクワクしてきた。
「それじゃあ、よーい始め!」
俺の掛け声と共に3人が風のように動いた。
「薙ぎ払え!」
魔王が右手を払うと、はじまりの森の木々が次々と根こそぎ抜けていった。まるで巨大な竜巻が通り過ぎたかのようだ。
「地下いと深きに眠る魔物よ、邪神が命じる。我に供物を捧げよ」
続いて邪神が冷たく命じると、地面が大きく裂けていった。そして、底が見えないほど深いところから紅い双眸がこちらを伺うように見た。
「いっけーー!!」
最後に威勢の良い掛け声と共に、暗黒竜が黒い炎を吐いた。邪悪な炎は土を焼き、地面はドロドロに融けてしまった。
「…………。」
茫然と立ちすくむ俺を置いて、3人はてんでに駆け出していった。先ほど感じた高揚感はきれいさっぱりなくなっていた。自然と視線も下がるというものだ。
下を見ると石ころが一つ落ちていた。
小さい頃、拾った石をポケットに詰め込んでズボンを破いてしまい、母親に大目玉を食らったことがあったが、そういえば、その中にこんな石があったような気がする。
俺は水色のスベスベした石を拾い上げると、ズボンのポケットに入れた。
時折空に向かって緑色の不吉な光が立ち上ったり、大きな爆発音がしたりしたが、概ね平和に時間は過ぎていった。駆け出しの頃っていうのは全力でクエストに立ち向かうものだからな。俺は出来の悪い新人達を悟りの境地で眺め、帰りを待った。
あっ、このピクルスうまいやつじゃん。昼飯が楽しみだな。
そう思ったころ、3人は充実した顔で俺のところに戻ってきた。3人ともこれはという石を見つけたようだ。
「よし、昼飯食ったら、ギルドに戻るか!」
そう言ってやると、3人は歓声を上げて少し遅めの昼食の準備にとりかかった。
◇◆◇
夕方、俺たちはあえて歩いてギルドに戻って来た。ギルドの中は帰ってきた冒険者達でぎゅうぎゅうだった。クエスト達成の報告中の奴もいれば、情報交換のために残っている奴もいる。元相棒と美女軍団もいて、奥のソファを占拠して顰蹙をかっていた。
あんまり関わり合いになりたくないので、素早く空いたカウンターに滑り込むと、朝と同じ無愛想な受付嬢がわざわざ出て来た。
「また、おまえか。まぁいい。石を持って帰って来たけど、依頼者は来てるか? いくつか候補を持って帰ってきたから、直接見てもらって一番気に入ったのを渡そうと思うんだ」
「良いアイデアですね。依頼者の方ならあちらでお待ちですから、行ってみましょう」
無愛想な受付嬢に先導されて進むと冒険者達が道を開けてくれた。良くも悪くも注目を浴びているようだ。内心緊張するが、顔には出さないように気をつける。
ギルドホールの隅っこまでくると、受付嬢は俺たちを振り返った。依頼者は柱の影に隠れるようにちょこんと車椅子に座っていた。
「モモ様。こちらが今回依頼を受けてくれた冒険者の皆さんです。はじまりの森からいくつか石を持ち帰ってくださったらしいので、その中からモモ様の気に入ったものを選んでくださいますか?」
モモちゃんは嬉しそうに俺たちを見上げた。こんな純粋な期待を向けられるのは随分と久しぶりで、なんだか照れてしまう。
「あー……、今回依頼を受けさせてもらった冒険者だ。よろしくな」
頭を掻きながら挨拶すると、邪神と暗黒竜が愛想よく手を振り、魔王はそっぽを向いてしまった。
魔王のやつは俺と同じで照れてやがるな。しかし、依頼者にそっぽむくのはダメだろう。あとで、依頼者対応を指導しなければ。
「さて、本日はどのような石を持ち帰ってくれたのでしょうね。見せていただけますか?」
受付嬢が話をうまく誘導してくれたので、俺はまず魔王に目配せした。
「一つ目はこの石だ」
魔王が何もない空間から取り出したのは、黄金に輝く……黄金だった。
「えっ、黄金……!?」
黄金って石なのか? 地中に埋まってるから石でいいのか? きれいといえばきれいだが、完全に想定外だった。しかも結構デカい。周りで他の冒険者達もざわついている。
ちなみに肝心のモモちゃんは「うぅ〜ん」と唸っている。どうやら思っていたものと違いようだ。そうだよな。
一方魔王の顔が険しくなっているが、不安の裏返しだろう。あんまりプレッシャーをかけるのはかわいそうなので、邪神の方を伺うと、邪神が心得たとうなづいた。
「まぁ、全部見てから決めてくれればいい。次の石も見てくれ」
俺が言うと、邪神がパチンと指を鳴らしてモモちゃんの前に石を出した。
「これは……、これは何だ?」
突然現れた赤く脈打つ石を見ながら、首を傾げる。
「賢者の石ですよ〜〜」
邪神が答えてくれた。
おい、そんなもの絶対にはじまりの森にないだろう!!!!!
ギルド中がどよめいている。俺がジトッとした目で見ると、邪神は口笛を吹いて誤魔化そうとした。こいつもあとで指導が必要だな。クエストに条件がある時はその条件を守らないと依頼達成とみなされないことがある。ズルはいけないのだ。
他方、モモちゃんはドクドクと脈打つを石を前に硬直していた。まずい、怖がってるじゃねーか! 俺は慌てて言った。
「次だ次! 3つ目はこの石を見てほしい」
暗黒竜の少女を促すと、ジャケットの内ポケットから石を取り出した。
「じゃーーん! ダイヤモンドだよ!」
自分で効果音をつけて紹介してくれたので説明の手間が省けた。モモちゃんがびっくりした顔でダイヤモンドを見つめている。まぁ、そうなるよな。
そして、最後に俺もポケットから拾った石をとりだした。
「これが最後だ。」
コトリと置かれた水色のスベスベとした石に冒険者達が喉を鳴らす。
「石だな。落ちてた」
冒険者達はずっこけたが、モモちゃんは顔を輝かせた。
「ありがとう! こんな石が欲しかったの!」
嬉しそうなモモちゃんの言葉に俺のリーダーとしての威厳は保たれた。3人から尊敬の眼差しを向けられ、俺の中に満更でもない感情が湧き上がって来た。
「それではこちらの水色のスベスベした石で依頼完了手続きをしてきます。しばらくお待ち下さい」
モモちゃんと俺達に一礼して受付嬢はいったん奥に引っ込んだ。
「しかし、さすがリーダー。依頼者の心を一瞬で捉えてしまうとは。見習わなければ」
「それもあるが、おまえは依頼者応対を学ぶべきだな。照れるのはいいが、そっぽ向くのはダメだぞ。依頼者っていうのは……」
受付嬢が立ち去るとさっそく魔王が話しかけてきた。ちょうどよかったので教育的指導をあたえようとしたのだが、俺の言葉は途中で遮られてしまった。
もちろんそんな失礼なことをするのは元相棒くらいしかいない。俺達の間に無理やり体を割り込ませて来て引きつった顔で捲し立てた。
「ノロマでグズのお前がこんなにうまくやるとは思ってなかったよ。ところで、お前は俺のパーティにいた時、俺たちにさんざん迷惑をかけまくってたからな。これは慰謝料としてもらっておいてやるよ」
そう言って残っていた3つの石に手を伸ばそうとする。
こいつ、まだ自分のトンデモ理論が通ると思い込んでいるのだろうか?
だが、俺が伸びてきた腕を叩き落とそうとした瞬間、元相棒が消えた。左右を見回すと、魔王が不快そうに元相棒のいた空間を眺めていた。
「あいつをどこにやったんだ?」
魔王に尋ねると、嫌そうな顔をして答えになってない返事を返してきた。
「リーダーとの会話を邪魔するからだ。当然の報いだ」
「悪いのは確かにあいつだが、いったいどこにやったんだ?」
「分からぬ。ゴミを捨てる際、どのあたりに捨てるかなど意識しないであろう?」
自業自得だとは思うけど、さすがに死なれていると目覚めが悪い。困っていると、邪神が助け舟を出してくれた。
「あっ! 見つけましたよ。ここに戻しましょうか?」
「頼む」
俺が言うと、元相棒は先ほどと寸分違わぬ場所に戻ってきた。ただし、体中ヘドロだらけで猛烈な悪臭を発していた。びっくりするくらいベトベトだ。いったいどこに行ったらこんなことになるのやら。
俺は咄嗟に鼻をつまみ、取り巻きの美女達ですらあまりの臭さに顔をしかめて元相棒から離れようとした。だが、美女軍団についてはそうは問屋がおろさなかった。
「逃さないわよ! さっきはよくも馬鹿にしてくれたわね。脂肪の塊が何よ。ぜーーんぶ筋肉になっちゃえ!!」
ポンッという軽い音とともに紫の煙が立ち上がり、それが晴れた頃に、巨乳美女達はみんな筋肉ダルマになってしまった。
ガッチガチの二の腕。
バッキバキの腹筋。
ゴッチゴチのお尻。
そして、服を押し上げるように盛り上がった豊かな胸筋。
柔らかさの「や」の字もない。そこにあるのはただ筋肉だけ。暗黒竜は満足そうにうなずいた。
ボディービルダーに転職した方が良さそうな筋肉に元相棒も「ヒイィ!」と情けない声を上げて腰を抜かしてしまった。
せっかく作り上げたおっぱいハーレムが筋肉集団になってしまったのだから、さぞかしショックだろう。元美女達も泣いているが、鋼のような筋肉が全身をアンバランスに覆っているせいで、正直気持ち悪いだけだ。
俺は鼻を摘まんだまま、カウンターに置いてあったプロテインを掴み、元相棒に一本投げ渡した。
「俺からの餞別だ! トレーニングを欠かすなよ!!」
俺の挑発は無事あいつを怒らせたらしい。「覚えてろよ!」という月並みな捨て台詞を吐くと、筋肉に埋もれるようにして逃げて行った。
滑稽な元相棒の姿に俺は久しぶりに腹を抱えて笑った。感じるのは爽快感とほんの少しの寂しさ。
「まったく、ざまあないな」
しかし、俺の笑いは長続きしなかった。おごれるものひさしからずとかナントカ。いや、人を呪わば穴二つか。とにかく、音もなく背後に立った受付嬢が俺の肩に手を置いて言ったのだ。
「あなた方、はじまりの森を破壊し尽くしましたね?」
「あーー……」
何も言い訳が浮かばない。
「ギルドのルールブックにあるとおり、緊急時を除いてダンジョンやフィールドの破壊はご法度です。なのに、はじまりの森はもはや原型を留めぬほど破壊され、魔王城や邪神の地下神殿、暗黒竜の巣窟並に大変危険な場所と成り果てているそうではありませんか」
魔王と邪神と暗黒竜が隣で目を彷徨わせている。受付嬢は一人一人を順に冷たく見てからもう一度口を開いた。
「なにか言うことがあるんじゃないですか?」
「……すみません」
こういう時は謝るしかない。俺が謝ると他の3人も続いて謝った。
俺たちをこってりしぼりあげた後、受付嬢は判決を言い渡した。
「ギルドランクをそれぞれ一個ずつ降格させると共に、ギルドにて10日間の奉仕活動を命じます。あなたはB級からC級に、F級の3人は異例ですがFF級に降格です」
FF級なんて、前代未聞ではなかろうか? 魔王は遠い目をしているし、邪神は苦笑いを浮かべている。暗黒竜なんか今にも泣き出しそうだ。
「また、一から出直せばいいだけさ。大丈夫だ、問題ない」
励ますように声をかけてやると、暗黒竜はこくこくとうなずき、目をこすった。
そして、翌朝。
俺たちは、ヘルメットにモモちゃんから貰ったうさちゃんシールを貼ると、はじまりの森の復旧工事にとりかかった。せっかくだから、ちょっと広めの遊歩道も整備しておこう。だから、次の依頼を受けるのはもう少し先になるだろう。
はじめはどうなることかと思ったが、新しいパーティもなかなか悪くない。俺はスコップを握り直すと、気合を入れて大きな裂け目を埋め立て始めたのだった。
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