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お嬢様と執事のデート

お読みいただきありがとうございます!

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お嬢様とオスカーのデートの日。ミーシャは断固としてデートとは認めていない。

シンプルなネイビーのワンピースを着た少女は鏡の前でずっとそわそわしていた。


「ミーシャ、おかしくない?」


「大変可愛らしいです、お嬢様」


このやりとりも、もう5回目である。


「ミーシャにも沢山相談に乗ってもらったけど……オスカーと出かけるのにこれじゃあ子供っぽくないかしら? やっぱり白いワンピースの方がいいかしら?」


ネイビーのワンピースは少女の抜ける様に白い肌と淡い金髪によく合っている。非常にシンプルだが、そのシンプルさがさらに少女の美しさを引き立てている。


「お嬢様は普段から大人っぽく見えますから大丈夫ですよ」


初デートの前にソワソワする少女を目の前にしてミーシャは力強く言う。その時、オスカーの声が扉の外からかかった。


「お嬢様、ご準備はお済でしょうか?」


かっちりした執事服ではなくラフな普段着のオスカーは入ってくると、少女を見てまぶしそうに目を細める。


「お、おかしいかしら?」


少女が恥じらいながらそっと上目遣いで聞く様子にミーシャは激しくオスカーを呪いたくなった。お嬢様が可愛すぎる。


「お嬢様、そういったシンプルな装いも大変よくお似合いです」


オスカーは人格でも変わったのかと思うほど甘い笑みを浮かべる。

朝から甘すぎる空気を部屋中にまき散らした後、少女はオスカーの手を取って出かけて行った。




「あれって両思いだよね、どう見ても」


「やかましい。そもそもなんであんたがここにいるのよ」


ミーシャは2人が出かけた後、手早く変装をしてすぐに尾行を始めた。もちろん奥様と侍女頭の許可は事前に取ってある。真剣な顔でお嬢様を尾行させてほしいとお願いに行ったとき、公爵夫人アデリアナは面白そうに笑っていたし、侍女頭のマイラは表情こそ変えなかったものの「任せましたよ」と大きく頷いていた。


しかし尾行を始めたはいいが、邪魔者もついてきた。エイデンだ。彼は今日のお嬢様の護衛の1人らしい。


「カップルの方が怪しまれないからちょうどいいな」


「よくない」


馴れ馴れしく腰に回る手を叩き落し、2人を観察する。


「オスカーめ、お嬢様にあんなに近づきやがって」


ミーシャは有能な侍女の顔はどこへやら…ギリギリと歯ぎしりする。口調もかなり乱れている。

2人は最初に軽食を取り、今はオスカーの手袋を選んでいるところだ。オスカーは少女の耳元で何かを囁き、少女は恥ずかしそうに笑みを浮かべる。最初こそ少女は緊張してぎこちなかったが、すっかり緊張は解けてしまったようだ。オスカーはしれっと少女の腰に手を回している。


「いやぁ、お嬢様がデートするなんてさ。やっぱりお嬢様もオスカーの事、もがっ」


エイデンは最後まで言葉を言えなかった。ミーシャが思いっきりエイデンの口を手で塞いだからだ。

2人は手袋を30分ほどかけてじっくり選ぶと、話題のカフェに向かって行った。



「オスカーさんってあんな顔もできるんだね。あれってなんていうの?ベタぼれ?」


仕方ないのでエイデンと一緒にミーシャもそのカフェに入り、離れた席から様子を窺う。

エイデンが何か言っているがミーシャは完全無視を決め込んでいる。

ミーシャは少女に背を向ける形で座っているため、少女を見ることができない。

仕方ないのでカフェに配置されている鏡や紅茶のカップに映るお嬢様をガン見する。

その代わり、エイデンからは少女とオスカーがよく見える。

オスカーは少女を壁際に座らせ、自分は通路側に、少女を隠すように隣に腰を下ろす。あの席はいわゆるカップルシートというやつだ。少女は絶対に知らされていないだろうが。

エイデンはどさくさに紛れてミーシャの手を握る。


「ちょっと!」


「ここはカップルばっかりだから怪しまれないように協力してね」


ミーシャは小さく抗議の声をあげたもののエイデンに諭されてぐっと黙る。


「うわー、オスカーさんが。お嬢様にケーキをあーんしてる。やばいなあれ」


「お嬢様が穢れてしまう……」


「いや、お嬢様も顔を赤くしながら小さく口を開けて食べてる。あれはショートケーキかな」


エイデンの実況中継にミーシャは歯ぎしりをし続ける。


「あ、今度はオスカーさんが自分にあーんしてくれって言ってるな」


「オスカー、あの野郎殺す……調子にのりやがって」


「はい、ミーシャ。あーんして」


エイデンも真似なのか演技なのかミーシャの口元に自分のチーズケーキを持って行く。

ミーシャは殺意のこもった目でエイデンを見るが、エイデンがせかすとフォークを奪い取ってケーキを咀嚼した。


「ミーシャは照れ屋さんだね」


エイデンはにやにやしながら、ミーシャの口元についたケーキの欠片を指でぬぐう。


「オスカーさんもお嬢様に同じことやってるから。あ、オスカーさんがキスした。もうあれはさぁ、恋人じゃない?」


「いますぐ私がオスカーを殺す」


「いや、お嬢様が嫌がってないからダメでしょ」


エイデンは紅茶を飲みつつしっかりと2人を観察する。さらに握っていたミーシャの指に自分の指を絡めるが、ミーシャは怒りに震えていて気付いていない。


「ちなみにまだキスは続いてる。うわぁ、あんなキスこんなとこでしちゃって大丈夫?」


「ちょっとエイデン、席を代わって」


「え、ダメだよ。俺はお嬢様と顔を合わせたことがほとんどないからいいけど、この席じゃあバレるよ。のぞき見がお嬢様にばれたら嫌われるよ」


「ぐぅぅ……お嬢様に嫌われるのだけは避けたい……」


「あのキス、絶対舌入れてるな」


エイデンの実況中継にミーシャは持っていたフォークを折り曲げるどころかへし折りそうになっている。


「お店に迷惑だからやめようね」


エイデンはもう片方の手でミーシャからそっとフォークを取り上げケーキをすくい、口元にさしだす。


「お嬢様が嫌がったらオスカーを殺せばいいじゃない? ほら、ケーキ食べないとあの2人が移動するときに尾けられないよ」


ミーシャは怒りに震えつつもケーキを食べる。お洒落で流行りのカフェなのにケーキの味は全く分からなかった。


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