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ケーキという甘い誘惑を囁いて

お読みいただきありがとうございます!

ブックマーク・評価伸びていてびっくりです。

日間ランキングにもここ数日載っていてびっくりしています。ありがとうございます!

少女が薔薇を見つめながら物憂げにため息をついている頃、そしてお嬢様付き侍女のミーシャがお嬢様にそんな顔をさせている腹黒執事に対して心の中で盛大に呪いの言葉を吐いている頃。


公爵家の同じ敷地にある離れに公爵夫人アデリアナは侍女頭マイラと共にやってきていた。


「大抵の人間は逆境には耐えられる。人間の本質を知りたければ権力や地位を与えてみるといい。ふふ……本で読んだことはあったけど、まさかねぇ、あなたがこうなるなんて予想していなかったわ。教育が悪かったかしらね」


アデリアナが冷たく見据える視線の先には、カメリアと同い年くらいの顔色の悪い少年が立っている。少年というよりはもうすぐ青年だ。


「さあ、ステファノ。何か言いたいことはあるかしら?」


アデリアナはピシリと扇を閉じると、親戚からこの公爵家に養子に来たステファノに問うた。

カメリアが王家に嫁ぐことになっていたので、後継者として引き取られてきたのがステファノだった。

ステファノは公爵夫人の冷たい態度に震えながら俯く。

ステファノも義理とはいえ姉カメリアに冤罪をふっかけようとしていたうちの1人だった。オスカーや他の使用人達、そしてカメリアの学園の同級生が情報を集め、証拠が揃った時点でステファノは元王子たちより先にこの離れに軟禁されていた。


「マイラ、あれを持ってこさせて」


「はい」


何も言わないステファノに業を煮やしたアデリアナがマイラに指示すると、入口から麻袋を担いだ御者エイデンが現れた。エイデンは俯くステファノの前まで来ると麻袋を床に放り投げる。


「開けなさい」


有無を言わさないアデリアナの声にステファノはのろのろと麻袋の口を開ける。


「アルベルト殿下……そんな……」


袋の中身がまさかの人間で、それが側近として侍っていた王子だったことを認識するとステファノは絶句した。





「お嬢様、私は明日休みなのですが。一緒に出掛けませんか?」


オスカーはミーシャに部屋から出されたが、しばらくたってから仕切り直しとばかりに戻ってきた。


「え……えっ?」


「洒落たカフェができているそうなのです。また雑貨屋も増えているようですよ。お嬢様はケーキがお好きでしょう?」


「ケーキ……」


ほぅ……と少女はケーキを想像したのか微笑を浮かべる。ミーシャはその様子を見ながら身もだえしている。お嬢様が可愛すぎて。


「私と明日デートしてくださいませんか?」


「で、デート……」


少女は先ほどから壊れた様に単語の反芻をする。しかし、デートという言葉に頬は上気している。


「デートなんてしたことがないわ」


「えぇ。あのボンクラ元王子とお嬢様がデートなどしていなくてなによりです。私と思い出を作っていきませんか?カフェでお嬢様のお好きなだけケーキを頼みましょう」


「好きなだけケーキを? いいの?」


「もちろんです。お嬢様。ずっと頑張ってこられたのですから」


「ケーキ……行きたいわ……」


「では明日、参りましょう。昼前から出かけることにしますか」


少女はほとんどケーキに釣られる形でデートを了承する。ミーシャがお嬢様って実はチョロイ?とブツブツ言いながら頭を抱えているが、その間にオスカーは少女との距離をまた自然に詰める。


「明日、楽しみにしております。護衛も付けますが、町に出ますのでなるべく簡素な服装でお願いいたします。お嬢様なら何を着てもお美しいですよ」


オスカーは少女の前に跪くと、手をとってそっと口付ける。少女も慣れてきてしまったのか、手を取られた瞬間は体を震わすものの、オスカーの手を振り払うことはしない。

オスカーはそんな少女の様子を手に口付けながら上目遣いに嬉しそうに見ると、自分の指を少女の指に絡めた。


「そしてお嬢様が退屈でなければ私の買い物にも付き合っていただければと」


「オスカーの買い物? 何を買うの?」


少女は突如絡められた指に意識を持って行かれかけたが、オスカーの発言ですぐ意識は戻る。


「仕事中にする手袋なのですが、お嬢様に選んでいただければ嬉しいです」


オスカーは指を絡めながら少女の指をずっと撫でている。


「手袋なのね。連れて行ってもらうのだからオスカーの用事にももちろん付き合うわ」


「お嬢様、ありがとうございます。雑貨屋では小物なども見てみましょう」


「ありがとう。楽しみだわ」


少女の目が久しぶりに輝きを帯びる。オスカーはその様子を嬉しそうに見て、では明日とまた手に口付けて今度は自分から退室していった。

ミーシャは激甘な空気に吐きそうになっていたが、少女の声で我に返った。


「オスカーは……よくわからないわ……。口付けてきたり、愛してるって言ったのに平気で接してきたり……返事を求めることもないし……今度はデートに誘ってくるし……オスカーは何を考えているのかしら……」


ミーシャだってあの腹黒執事が何を考えているかなんて分からない。ただ確かなのはあの執事はヤベーということと、お嬢様に明らかに執着しているということだけだ。


「どうしよう……ケーキって聞いて……嬉しくて行きたいって言ってしまったわ。何を着て行けばいいかしら……。え、2人きりで出かけるのよね……え?え?どうしよう……」


ケーキで釣られながら後から慌てるお嬢様、超可愛い。

しかし、お嬢様もオスカーのことが好きにみえるのだが……いや、しかし、お嬢様は深窓のご令嬢、恋愛に関してはおっかなびっくりするほど純粋培養。お嬢様を口説くのは難しい。


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