後ろから囁いて
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「お嬢様、昨日の今日でお勉強を再開されなくても良いのですよ」
「だって、外国語は使わないとすぐに忘れてしまうもの。せっかく身につけたのだから無駄にしたくないわ」
オスカーに背を向け、本をめくりながらカメリアは答える。本をめくる手はほんの少し震えている。
「旦那様と奥様はゆっくりするようにと」
「でもお父様もお母様もお忙しいのでしょう? 私だけゆっくりするのは悪いわ」
オスカーは少女の生真面目さに苦笑しつつ、そっと少女の背後に立つ。
「おや、隣国の小説でございますね」
身をかがめると丁度少女の耳元で話すようになる。
「え、えぇそうよ。お、王宮の教育係の先生から隣国で流行だから読んでおくといいと渡されたの」
少女はビクリと身を震わせ、オスカーを極力見ないようにして答える。声は上擦り、顔はすでに赤い。
「面白そうですね」
オスカーは背後から少女を囲い込むように机に手をつく。黒い手袋が少女の視界に入ると、さらに少女は赤くなった。
「お、オスカー、近いわ……」
「初めて会った時から私の心はあなたに囚われている」
「っ……」
「なかなか情熱的な小説でございますね」
オスカーはページのある部分を指す。そこには先程のオスカーのセリフが外国語で書かれていた。
少女は小説の内容と分かったせいか体に入っていた力を少し抜いた。
「カメリア様……」
「あっ……」
オスカーは甘く名前を呼びながら少女の長い髪をそっと耳にかける。もう片方の手はいつのまにか少女の腰に添えられていた。
「お、オスカー……」
「お嬢様、そのような表情を異性の前でしてはいけませんよ。あなたをずっと恋い慕っている私の前では特に。そんな表情をされたら……閉じ込めてしまいたくなる」
少女の腰に添えた手にぐっと力が入り、オスカーは少女の首筋に顔を埋め、熱く息を吐く。
少女はあまりの熱さに耐えきれず、身じろぎをする。
「カメリア様、ずっと…私も初めてお会いした時からあなたのことが……」
「んぁ……オスカー……」
少女に名前を呼ばれ、オスカーの手が腰からさらに抱き込むように少女の腹に回る。
「あ……」
背後から抱きすくめられる形になり、少女の指が本から離れて本のページがハラハラとめくれる。もうどこまで読んでいたか分からないだろう。
「カメリア様……愛しています」
オスカーが苦しげな震える声で呟く。
そのあと、部屋に入ってきたミーシャのトレイ攻撃が再びオスカーにお見舞いされた。
「ミーシャ、私……どうしてしまったのかしら……」
ミーシャがまたオスカーを廊下にほっぽり出して部屋に帰ってくると、カメリアは閉じた本を前にぼんやりと生けられた薔薇を見ながら呟いた。頰は赤く色づき、初々しさと色香が漂っている。
ミーシャは鼻血を出しそうになりながら水を差し出すのだった。