公爵夫人と執事のやり取り
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公爵夫人自慢の薔薇が植えられている庭が一望できるサロンにて。
夫人は優雅な所作で紅茶を飲む。テーブルの上には紅茶の他に、朝から昼にかけて届いた手紙が山になっている。
カメリアという公爵令嬢が大人になり、初々しさが威厳と尊厳に変わったらこの夫人のようになるのだろうと容易に想像できる。
ただカメリアと母親である夫人の違う所は瞳の色だった。
少女の瞳は公爵と同じ碧だったが、貴婦人の瞳は琥珀色だった。
「私が摘むことを許可した薔薇は役に立ったのかしら?」
公爵夫人は控えていたオスカーに聞く。
「はい、奥様。許可を頂きまして本当にありがとうございます」
「まぁ役に立たないと困るのだけれど」
公爵夫人アデリアナは紅茶を置くと、山の中から1つ手紙を取り上げぴらぴらとオスカーに振って見せる。
「これらは全てカメリアへの婚約申込よ。皆さま、お耳が早いこと」
クスクスと上品に笑いながらそっと手紙を山に戻す。
「お嬢様の素晴らしさは普通の貴族には有名でございますから。お妃教育を5年も続けておられましたし、学園の生徒会のお仕事もされながら成績は常に上位に名を連ねておられます。加えて奥様のようなあのお美しさ。これでも手紙は少ない方ではないのでしょうか」
オスカーは余裕たっぷりの笑みを浮かべる。普通の貴族と言うあたりは嫌味だ。もちろん普通でない貴族の中にはボンクラ元王子も含まれる。
「元王族との婚約解消が全くマイナスイメージになっていなくて良かったわ。あなたはカメリアをちゃんと口説いているようね」
「えぇ。ですのでそれらのお手紙は全て燃やしても?」
「燃やしてもすぐに送ってくるだろうけど、いいでしょう。好きになさい。あなたがカメリアを口説けなかった場合はこの中から相手を選ぶことになるわ」
「御意。しかしそのようなことはございません」
「随分と余裕だこと」
「私ほどお嬢様を側で見てきた者はおりませんので」
「あら。じゃあ、あなたの目下の敵はこの手紙の山ではなくミーシャね。面白いわ」
アデリアナはまた笑顔を浮かべるが、オスカーの顔からは余裕の笑みが一瞬消えた。
「しばらくは楽しませてもらうわ。あなたはあのボンクラ王子のようになることは無いと思っているけれど、もしアレのようにまたカメリアを悲しませた時は首と胴は離れていると思いなさい」
「もちろんです、奥様」
「期待しているわ。じゃあ、そろそろあの子の処分を決めないとね。マイラを呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
オスカーはサロンから出ると、そっと自分の唇を指でなぞる。
まるで少女の唇を味わった痕跡をなぞるように。一瞬だけオスカーは切なげな目をしたが、すぐに姿勢を伸ばすときびきびと長い廊下を歩いて行った。