カメリアとオルレリア
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「オルレリアには大変な迷惑をかけてしまったわ……」
「そんなことはないわよ。ステファノ様?今でも様ってつけないといけないかしら?との婚約を紙面で合意していたわけではないし」
「そうだけど、ガーフィールド伯爵様とうちの父の口約束ではあったし……社交界でも婚約者だと話にのぼってしまっていたから」
「大丈夫よ。契約を交わしていないのだからいくらでも何とでも言えるわよ。ステファノ様?にパーティーでエスコートしてもらったこともほんの数回なんだから。でもカメリアのことをお義姉さまと呼べなくなってしまったわね」
ミーシャは側に控えながら、ひたすら申し訳なさそうにするお嬢様を見てほんの少しだけ目を細める。
茶目っ気たっぷりに答えるオルレリア嬢は当主同士の口約束ではあったものの、ステファノ様(現在は炭鉱送りになっており罪人扱なので様などいらないが)の婚約者だった。ステファノ様(いらないのに癖で様をつけてしまう)が炭鉱送りになった時点でこの話はとっくに流れている。それにステファノ様じゃなかった、ステファノはオルレリア嬢を格下の伯爵令嬢と見下していたので2人の仲はお世辞にも良好とは言えなかった。
それに何よりもオルレリア嬢には……
「ふふふ。ねぇ、これを見て」
オルレリア嬢は侍女に小さな箱を持ってこさせると、大切そうにその箱を開いて指輪を取り出し指にはめた。持ってきた侍女も長く仕えているのだろう、オルレリア嬢のその様子に若干目を潤ませている。
「え? え!?」
うちの可愛いお嬢様は結論にはたどり着いているようだが驚いて固まっている。
「結婚するのよ、私。ローレンと。あなたに1番に報告したかったの」
オルレリア嬢は花が咲いたような笑みを浮かべる。もともと美人というより可愛いご令嬢だったが、さらに可憐さを増したようだ。
「伯爵様がよくお許しになったわね……」
うちのお嬢様はフリーズから解けると、いかにも政略結婚が当たり前の高位貴族らしい言葉を述べた。
「ふふふ。それはあなたの所の執事さんのおかげかしらね。お父様は彼が爵位を取らないとダメだってぐずっていたんだけどオスカーさんが説得してくれたのよ」
うちの腹黒執事はどこまでも有能だ。ムカつく。思わず舌打ちしそうになるのを堪える。
さて、ローレン・サンダース。サンダース商会といえば国内で5本の指に入るほどの商会だ。そこの跡取り息子。オルレリア嬢がずっと心を寄せていたのは彼だった。
しかしそこは貴族と商人。いくら大商会の跡取りでも名門伯爵家のご令嬢と結婚など雲をつかむような話だ。ガーフィールド伯爵家の財政状況が悪ければ、あるいは男爵や子爵あたりだったならあり得た話だが。
しかし、雲をつかむような話は現実に変わったのだ。ステファノとの婚約がなくなったことによって。オルレリア嬢の下には弟と妹が1人ずついるので、お嬢様のように後継ぎになる必要はないが、そこは名門伯爵家。伯爵様もどこかと縁続きになりたくてオルレリア嬢を政略結婚させたかったのだろう。まぁ貴族で恋愛結婚の方がかなり珍しいが。
「オルレリア。おめでとう」
いつの間にかお嬢様は静かに泣いていた。オルレリア嬢のローレン様に対する気持ちを最初から知っていたからこその涙だ。オルレリア嬢もステファノとの婚約が確定事項になりそうになりながらも彼のことを諦めていなかったようだ。
お嬢様の周りには諦めの悪い人間が多いな……
「ありがとう。つい昨日、プロポーズされたのよ」
「式はいつ?」
「そうね。式場の空きにもよるけど3カ月~半年後ね。伝手を頼ってとにかく早く式をあげようって話になってるの」
「まぁ! 素敵ね」
「ローレンもカメリアに会いたがっていたわ。今度、席を設けるわね」
「そうね! 彼のことは話しか聞いていないものね」
「ふふふ。そうね……ねぇカメリア、次はあなたの番よ?」
「え?」
「もう殿下の尻ぬぐいをする必要もないし、王妃教育も受けなくっていいんだから。好きでもない人のために自分を削らなくてももういいのよ」
オルレリア嬢は学園でお嬢様をよく手伝ってくれていた。お嬢様は全て一人でこなそうとしてしまわれるが、オルレリア嬢は彼女の友人たちと一緒によく手を貸してくれていたのだ。それに殿下の学園での状況を事細かにうちの執事に報告させていたのも彼女だ。だからこそ……学園でのお嬢様の状況を知っていたからこそ、この言葉になったのだろう。
オルレリア嬢はそっとお嬢様の手を取る。彼女はそのままお嬢様に向かって静かに微笑んでいたが、やがて口を開いた。