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公爵とオスカー

間が空きましたが、お読みいただきありがとうございます!

「お嬢様。オルレリア様から使いが参りました。急だけれども今日、お茶をしに来ないかと。お嬢様のことをずっと心配なさっておられたようですよ」


「オルレリアが? そうね、あれからしばらく会っていないし……良ければ行こうかしら」


「本日、屋敷ではゴキブリ退治が行われる予定ですので、気兼ねなくお出かけされれば良いと思います」


「え……うちはゴキブリが出るの?」


「ゴキブリは外から来るのでございますよ、お嬢様。さぁ、お出かけされるなら準備をしましょう。お返事も伝えますね」


ミーシャはゴキブリにおびえる様子の少女を立ち上がらせて鏡台の前に座らせる。

ゴキブリが王宮から来る陛下だなんてことはもちろん伝えない。

急遽、喜んで協力してくれたお嬢様の学園でのご友人オルレリア・ガーフィールド伯爵令嬢に感謝だ。陛下が来るかもしれないという情報を掴んでオルレリア嬢に協力を仰いだのは、どこまでも根回しの良い腹黒執事である。




「ではお嬢様、参りましょう」


エイデンが御者なのが気に喰わないが、陛下と鉢合わせしても困るのでミーシャは文句代わりにエイデンを一睨みしてさっさと出発を促す。

少女は久しぶりに友人と会えることにはしゃいでいるのか、馬車の座席に腰を下ろすと笑みを隠せないでいる。

ミーシャは少女の横に座り、料理長が用意した手土産をそっと膝の上に抱えながら久方ぶりに見る少女の微笑を見逃すまいと食い入るように見つめた。



「ごきげんよう。お招きありがとう」


「ごきげんよう。カメリア。元気にしていた? 心配していたのよ。学園に来なくても授業は簡単だから全く問題ないけど」


オルレリア・ガーフィールド伯爵令嬢は栗色のふわふわした髪を風になびかせながら満面の笑みでカメリアを出迎えた。

久しぶりの再会に頬を上気させてはしゃぐ麗しい少女たちを見てミーシャはそっと鼻をおさえる。もちろん鼻血を出さないためだ。できる侍女は鼻血など出さない。

エイデンはやっぱりと言わんばかりの様子でミーシャにハンカチを差し出したがその手は無碍にも叩き落とされた。


「オルレリア嬢になるべく話は長引かせるように頼んであるから」


エイデンは叩かれた手をさすりながら、ミーシャの耳元で囁く。

ミーシャは自前のハンカチを取り出しながらエイデンを睨み、小さく、本当に小さく頷いた。




「旦那様、お嬢様が出発されました」


「そうか」


オスカーは恭しく頭を下げる。

オスカーに対峙する、旦那様と呼ばれた男性は一目で高級品とわかるイスに深く座り、ひじ掛けに腕を置いた状態で窓の外におもむろに目をやった。


「お前にはよく動いてもらっている」


「仕事で当然のことをしているまでですが、ありがたいお言葉にございます」


「それほど娘が大事か」


「はい」


「あのバカ王子をバカだとは思っていたが、あれほど愚かだとは思わなかった」


「学園に入るまでは少々突っ走りやすい、思い込みの激しいところはあるものの、優秀だという話でしたからね。矯正も可能だと周囲も思っておりました」


「あれに娘を嫁がせることにならずに本当に良かった」


カメリアの父親であるラティウス公爵は疲れた様に目頭をおさえると、机の引き出しから書類を取り出し、オスカーの方へそれを寄越した。


「お前の養子縁組の書類だ。伯爵家に養子に入ったことになっている」


「旦那様、これは……」


「アデリアナがステファノを気に入らなかったようだからな。うちに後継ぎはいなくなった。2年以内だ。2年以内にお前は公爵家を継ぐ勉強を終わらせろ。優秀なお前ならできるだろう?」


「……必ず、期待に応えてみせます、旦那様」


「旦那様というのはやめろ。お前はもう私の使用人ではない。どうやら娘はお前を気に入ったらしいからな。お前はもう娘の婚約者だ」


「お嬢様からまだ返事をいただいておりませんが……」


「いずれだろう。アデリアナに似てカメリアも中々強情だからな」


ラティウス公爵は唇の端をそっと上げる。


「あのバカ王子のように娘を傷つけたら……」


「確実にまずミーシャに殺されます」


「分かっているならいい。早く娘から返事をもらうといい。学園パーティーはエスコートを許す」


「ありがとうございます」


「さて、バカ王子の親の面でも見に行くかな」


「どうなさるおつもりですか?」


「ん?敷地に入ってきたら出仕しないとでも言うかな」


公爵は不敵に笑った。


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