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愛は貫くためにある  作者: 愛原 夢音
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テリーヌの出現

桃はいつの間にかカウンターに戻り、春彦の隣にいた。

「引き寄せられたんです」

守が口にした言葉に、戸田夫妻は目を瞬かせた。

「みーちゃんに再会できたことは、偶然ではないと思っているんです」

「奇跡って言いたいんでしょう?」

桃が守を見て、目を輝かせた。

「奇跡なのかもしれません。

神様が僕とみーちゃんを引き合わせてくれたんじゃないかって」

「きっと、引き合わせてくれたんだよ」

春彦は穏やかな顔で、何度も深く頷いていた。

「僕はたまたま、外を歩いていたんです。仕事も順調で、充実はしていました。

でも心の平安は、なかなか訪れなかった」

守の心にはいつも美優が住みついていて、

悲しげな顔をした美優の姿が脳裏から離れないのだ。

「みーちゃんに会いたいと強く思いながら歩いているうちに、

いつの間にか道に迷ってしまって。気付けば僕は、この店の前に立っていました」

「やっぱり、巡り合わせよ!みーちゃんと平田さんは、互いに引き寄せられる体質なのよ!」

「…桃、意味不明なんだけど?」

「と、とにかく!運命に引き寄せられた、ふ、た、りってこと!」

桃は得意げにウインクをしたが、桃の隣に立つ春彦は呆れ顔だった。


十五年も前の幼馴染の顔なんて、覚えていない。

大人になった幼馴染の顔を見て一目でわかる人など、果たして

この世にはどのくらいいるのだろうか。恐らく、数えるほどしかいないだろう。

たとえどこかで再会していたとしても、ただの通りすがりの通行人だと思って

すれ違ってしまうことは、意外に多いのかもしれない。

しかし美優を一目見て、守の直感は動いた。

「さすが平田さんね。十五年も経っているのに、みーちゃんにすぐ気付くなんて」

春彦は黙って頷いた。

「面影が、本当に昔と変わらなくて」

守が笑みを零した。

「みーちゃんがここに来た時の話、聞かせて下さい」

守は、美優がこの喫茶店に辿り着いた理由が何なのか、知りたかった。

「それが、不思議なのよねえ」

「不思議?」

守が言葉の真意を探るように、桃を見つめた。

「みーちゃんは、いつも突然すぎるのよ。ある日突然、現れたんだから」

美優は桃が春彦と喫茶店を開いているということをどこかで知ったらしく、

生まれ故郷から東京へ、桃を頼って上京してきたという。

どこにも居場所がなく行く宛てもないので、

居候させてほしいと美優は桃に頼み込んだという。

「働かなくてもいいって、言ったのにね」

いつまでも居ていいという戸田夫妻に甘えてばかりではいられないと思った美優は、

店員として働き始めた。しかし接客業未経験の美優が柔軟に対応できるはずもなく、

美優にとっては苦難の連続だった。

「今は…?」

「叱ることもなくなってきたよ。ミスも格段に減った」

春彦が、自分のことのように笑いながら言った。

しかし守には一つだけ、心配事があった。

「でも、僕心配です。みーちゃん、何でも我慢しちゃうから」

守は、美優が客に水をかけられていた時のことを思い出していた。

美優は逃げもせず助けも求めず、悪質な嫌がらせをする客の言いなりになっていた。

言いなりになる必要などないのに、美優は全く声を上げようとしない。

自分の気持ちを押し殺す美優に一体何があったのだろうと、守は心を痛めていた。

「そうなのよね。そこが私も心配で…」

「一人で、全部抱え込んじゃうからな」

春彦は溜息をついた。

「自分で身を守ることも考えないと。

いつでも僕が守ってあげられるとは、限りませんから」

「いいわね、みーちゃんは。近くにこーんな素敵な王子様がいるなんて」

「手を焼いてますよ。毎回毎回、鈍感すぎるシンデレラには」

そこが良いところでもあるんですけどね、と守は目を細めた。



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